軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

フェーベ街のボランティア(3)

医療省職員曰く。

フェーベ街の医療区域は他の医療区域より食事が豪華でおいしいらしい。

医療区域で働く医師や看護師は皆、国立医大か貧民救済病院の関係者でそれぞれの医療区域に上司命令で派遣されているのだが、フェーベ街は一番の人気区域だという。

巡回している医療省職員の中でもフェーベ街が大人気で、食事の時間にここに来られるよう仕事を調整をしているのだとか。

そう言ってもらえると、料理担当としてはかなり嬉しい。

でも、それは別に私一人の功績じゃない。カレナやミレイも料理は得意だし、そもそもレーベンツァーン亭の女将さんもものすごく料理上手だ。だけど料理が美味しい一番の理由は、食材の潤沢さにあると思う。

何せ、エリーゼ様、アグネス、ユスティーナ、リーゼレータ、それに私の実家は、国内屈指の『金持ち』なのだ。医療区域には国家予算から支援物資代が出ているのだが、それとは別に、実家から支援物資が寄付されるのである。

我が家も両親や弟や、更に従姉のリエ様やメグ様が心配してくれているのだろう。食材がどんどんと届く。家で飼っているアヒルやウズラのお肉、その卵。更に、別邸の『庭』で獲れたというシカ肉やカモ肉。シュテルンベルク邸で飼っているというウサギのお肉。そして別邸の庭で採れた野菜に芋。

別邸の畑作りに関しては、リーバイとニコールそれと孤児院の子供達に託して来たのだが、こんなに野菜を送って来られては孤児院の子供達が食べる分が無くなるのではと心配になるくらいだ。

しかし、心配でもこちらから連絡をとることは出来ない。伝染病流行下におけるマニュアル書によると、医療区域に手紙を送ることは出来ても、医療区域から手紙を出す事はできないからだ。それは勿論、手紙に病原菌がくっついてはいけないからである。

支援物資は毎日、河を小舟に乗ってやって来る。そして、無人の河の駅に置かれ、時間差で我々が取りに行くのだ。支援物資には大抵手紙も付いて来る。お父様も弟も家庭教師のモニカ先生もすごく心配をしてくれている。返事を書けないのが心苦しいくらいだ。お母様は明らかに相談もせず、顔も見せずにここへやって来てしまった私の事を怒っているようだが。これには返事の書きようがないので、書かずに済んでほっとしている。

しかし。

何と言っても一番支援物資を送って来るのは、ユリアの実家だ。レベルが違うくらいいろいろ送って来てくれる。

ユリアの実家はブルーダーシュタットにある。そして、ブルーダーシュタットは王都より遥かに大変な状況にあるはずだ。それなのに、ユリアのお父さんはどんどんと物資を、王都のレーリヒ商会の支店に送って来る。そして支店長は、その物資をフェーベ街に送って来てくれる。レーリヒ商会からの支援物資は、外国から取り寄せた珍しい食材とかだったりするので、患者の間でも医療関係者の間でも大人気だ。時々ハズレもあるが。

そんなある日の事だった。

北大陸にある『ライムセント』という国で、行軍食として食べられているという珍しい食べ物がレーリヒ商会から送られて来た。

ライムセントは、北大陸の中でも辺鄙な高地にあり小さく貧しい国だという。しかし、ライムセントは『パインシロップ』と『メープルシロップ』を発見、発明した国だ。行軍食とはいえ侮る事はできない。きっとすごく食に意地汚・・じゃなくて好奇心旺盛な人がいるに違いないと思われる。

だって普通の人は樹液を食べてみようとか思わないよ!

『パインシロップ』と『メープルシロップ』は地球ではメジャーな食品だった。『パインシロップ』は現地でくらいしか出回らない食品だったようだが、『メープルシロップ』は全世界で売られている甘味料で日本のスーパーでも普通に売られていた。

メープルシロップをパンケーキにかけて食べるたび、これを一番最初に煮詰めてみようと考えた人はどういう人だったんだろうと私は思ったものである。そして同じ事をしようと思った人がこの世界にもいるという事に驚いた。

「『行軍食』ってどんな食べ物?直接かじれるの?」

「えーと、手紙によると小麦粉を練って長く伸ばした物を乾燥させた物だそうです。そのままかじれないこともないようですが、お湯で茹でて食べる物のようです。」

とユリアは言った。

それって、まさか乾麺!もしかして乾燥パスタ⁉︎

ヒンガリーラントにもパスタはある。しかし全て生パスタだ。乾燥パスタは無い。しかも、ペンネとかマカロニとかショートパスタばかりなのだ。スパゲッティやフィットチーネ、リングイネなどはない。

そして私には、スパゲッティを発明して広める気は全く無い。スパゲッティが出現してしまうと、食事のマナーが更にややこしく複雑な事になるからだ。何せ文子はスパゲッティを箸で食べる人だったのである。スパゲッティをフォークで綺麗に食べるとか絶対無理だ。

しかしライムセント人がスパゲッティを作り出してしまったのだろうか⁉︎しかも乾燥パスタを!

もしくは素麺!

もしも、素麺を作り出したというなら同時に素麺つゆも作り出しているはずだ。まさか、醤油と味醂を発明したというのか、ライムセント人は!

しかし。

私の前に出されて来た『行軍食』は私の想像の遥か斜め上を行く物だった。