作品タイトル不明
大陸歴314年という年(4)(エルヴァイラ視点)
朝の7時にまず、朝食が届きます。朝食はパンにスープ、干し葡萄です。食事を届けてもらったタイミングで、発熱はないか?発疹は出ていないか?という問診を受けます。
昼食にも夕食にも、パンとスープが出ました。夕食にはチーズと干し芋もつきました。
小麦の値段が高騰している王都で、三食パンが出て来た事には驚かされました。
貴族である私達でも、粗末には感じない食事内容です。貧しい平民であったなら、普段よりもはるかに上等な食事だと感じる事でしょう。
その食事は、隔離生活の三日目には更においしくなりました。川海老のピラフや芋とチーズとベーコンのガレットなど、おいしくてバラエティー豊かな物が出るようになりました。食事を運んで来てくれる医療省職員によると、栄養不良が原因で病を発症しないよう、栄養豊かな食事を提供しているのだそうです。
特にこの区域は特別ですよ。
と、医療省職員が言いました。
「ブランケンシュタイン公爵令嬢エリザベート様が、御友人方と共にこの区域での医療ボランティアにご参加くださっているのです。」
「そうなのですか。」
「その中でも御友人のお一人であられるエーレンフロイト侯爵令嬢レベッカ様は、料理の天才ですよ。彼女が料理担当になってくださって料理の質が格段に向上しました。高貴な姫君でも手先が器用で料理が得意、という方はたまにいらっしゃいます。しかし彼女は、一週間分の食材を見てすぐに、一週間分の献立を考え食材を割り振られたのです。これが出来る方は普通いません。」
「レベッカ様もボランティアに参加しておられるのですか⁉︎」
私はボランティアに参加しておられるという令嬢方の名前を尋ねてみました。そしたら、私達が指導していた令嬢方が全員参加しておられたのです。
「この料理もレベッカ様達が作っておられるのですか・・。」
エーレンフロイト家で出される昼食はいつも美味しい。と思っていました。しかし、令嬢であるレベッカ様にも料理の才能があるとは驚きでした。
レベッカ様達も医療区域で頑張っておられるのだ。と思うと、こんな所で私が落ち込んでいる場合ではないと心を強められました。
窓を開けて、外の空気を入れると風にのってピアノの音が聞こえてきます。あの音色は、ミレジーナ嬢の演奏です。
「患者達が昼間にぐっすり眠ってしまって、夜眠れないという事が無いよう、午後2時から4時までの間ボランティアの方がピアノを弾いておられるのです。ヒーリング効果もありますしね。」
と医療省職員の方が教えてくださいました。
時間はまったりと過ぎて行きます。
ここへ来るまでは子供達が閉じ込められた生活にストレスを感じるのでは、と思って絵本やリバーシ盤などいろいろ持って来ましたが、子供達は子供達同士、おしゃべりをしたり歌を歌ったり楽しく過ごしています。
着替えはたくさん持って来ましたが、医療省の方々がこまめに洗濯をしてくださいます。着替えのない人達には服の貸し出しもしているようです。『衛生』を保つ為なのだそうです。
最初の頃は子供達が、天然痘を発症するのではと不安でしたが、一週間も過ぎた頃には不安も無くなりました。
私達家族は穏やかにホテルで時を過ごしていました。
衝撃を受ける話を聞いたのはその頃でした。
医療省職員は、医療区域にいる患者の容態についても、質問すれば家族には教えてくれるのですが、隣の家のご主人は病が目に入り失明しかけているというのです。
その話を友人から伝えられ、我が家の娘達も泣いていました。
「エルヴァイラ様。私でも何か出来る仕事があるでしょうか?父が失明したら、長女の私が家族を養っていかねばなりません。下働きでも何でもします。仕事があったら紹介してください!」
隣の家の少女に頭を下げられ私は言葉に詰まりました。
王都全体で仕事が無い状況です。11歳の少女に出来る仕事など、そうそう見つからないでしょう。
もしあるとすれば、それは若さと女を利用したような仕事です。
でも娘の親友にそんな仕事させたくありません。まだ彼女は11歳なのです。
私は死んだ兄の事を思い出しました。兄は病が原因で失明し自死しました。
病を前に、人は何て無力なのかと涙がこぼれました。
そして15日が経ちました。
「明日にはおうちに帰れるね。」
と、年下の子供達は喜んでいます。
そんな中、難しい顔をした長女のファリアが私に聞いて来ました。
「お母様が勉強を教えている貴族の御令嬢の中には、私と同じ年の方もおられるのよね?」
「ええ。アグネス嬢とリーゼレータ嬢はあなたと同じ年よ。」
「お母様。でしたら私も、ボランティアに参加したいです。」
「ファリア。」
「病気で苦しんでいる方達の役に立ちたいの。隣のおじ様や、他の方達の為にも出来る事を何かしてあげたいのです。」
娘の必死な思いが伝わって来ました。
そして、それは私もずっと考えていた事でした。
私の教え子達が、危険な場所で苦しむ人達の為に力を尽くしているのです。同僚のアルテミーネも一緒だと聞いています。
私も何かできないだろうか?その思いと、まだ幼い子供達が自分にはいる。という考えの間で心が揺れていました。
でも、長女の思いに背中を押されました。
「ええ、そうしてあげなさい。お母様も一緒に行くわ。」
その後家族で話し合い、夫と母に子供達の事を頼みました。
そして翌日。
16日過ごしたホテルを私達家族は後にしました。夫達は自宅へと戻り私とファリアは、医療区域へと向かいました。