軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

芳花宮のお茶会(7)(ルートヴィッヒ視点)

レオンハルトの痩せた上半身を見て僕は絶句した。

満身創痍。という言葉がピッタリだった。騎士団の新人でもここまで怪我はしていないだろう。白い肌は青アザだらけで、白いところの方が少ないのでは?というほどだ。新しいアザもあるし、つけられてだいぶ時間が経過した赤紫色のアザもある。

傷も多く、かさぶたになっている傷も多い。そして、肩や鎖骨周りにはひきつれたケロイドがある。これはまさか、火傷の跡か⁉︎

「レオンハルト殿下。このお怪我はいったい⁉︎」

と僕の護衛騎士が叫んだ。

「痛い、痛いー!離してーっ!」

怒りのせいで、指に力が入っていた。ナディヤ妃が大声を出して暴れる。だが、僕は離さなかった。

「おまえがやったのか⁉︎」

「違うわ!私は何も知らない。私は悪くない!」

「だったら、どうして浴室に連れて行くのをあれほど邪魔したんだ⁉︎」

「僕が悪いの・・。」

しゃくりあげながら、レオンハルトが言った。

「僕がこけたの。お母様は悪くない。お母様をいじめないで。」

「ほら、こう言っているじゃない。離してよ!」

どう見たって、こけてできる傷じゃない。服で隠れるところにしか怪我をしていないのも不自然だ。それなのに、幼い子供は母親を必死にかばい、なのに母親は、自分の事しか考えていない。

「雪白宮で何が起きていた?・・答えろっ!」

僕はナディヤ妃の侍女達に問いかけた。だが二人いる侍女達はただ蒼ざめて震えているだけで、何も答えない。

レベッカ姫は持参していてストールを、レオンハルトに巻いてやり

「ステファニー様。」

と母上に話しかけた。

「レオンハルト殿下を医師に見て頂いた方が良いかと思います。信頼できる王宮医はいらっしゃいますか?」

「・・コートニー。マインラート子爵をお呼びして。」

マインラート子爵は、王宮の筆頭侍医だ。僕も彼の事は信頼している。

「何があったのですか⁉︎」

と言いつつ、巡回中の近衞騎士達が駆けつけて来た。ナディヤ妃の金切り声が聞こえたのだと思われる。

「いやー!離してっ!殺される。犯される!」

ここで「うるさい、黙れ!」とか言ったら、完全に僕がヒールである。

僕は無言で、手を掴んでいた。駆けつけて来た近衞騎士達は、どっちが悪いのか判別できないみたいだ。僕の頬には明らかに殴られた跡があるからな。

「騎士団長を呼んで来てくれ!」

と僕の護衛騎士達が、駆けつけて来た仲間に言った。

「ねえ、何があったの?どういう事なの?」

というヨーゼフのセリフがこの場にいる全員の心の声だろう。僕だって同じ質問をナディヤ妃にぶつけてやりたかった。

いつまでも暴れるナディヤ妃の手をつかんでいるわけにもいかないので、僕は騎士達に彼女を渡した。

「彼女の言い分を聞いてやれ。僕も何があったのか全てを正直に話す。その上で判断してくれ。」

『正直に』という部分に力を込めて言ったのは、レベッカ姫も正直に話して欲しい。と彼女に伝えるためだ。僕らの話が矛盾していたら、いろいろと疑惑を呼ぶ。

間もなく、騎士団長がやって来た。予想よりも到着が早い。

「この場にいる皆様、全員からお話を伺います。」

騎士団長はそう言った後、レベッカ姫とヨーゼフに

「騎士団による未成年者の聴取には、弁護士の立ち会いが許可されております。」

と言った。しかし、レベッカ姫は

「あ、いいです。弁護士呼んだらお父様の耳に入ってしまうから。」

と弁護士を拒否した。

「お嬢様違います。」

と姫の護衛騎士が言った。

「騎士団長様は、お父様を呼んでもいいですよ。と暗に勧めてくださっているんです。」

「えー。」

と、なぜかレベッカ姫は嫌そうな声を出す。

「・・お父様も忙しいと思うし。」

「大丈夫です。侯爵様は、お二人が心配なので、お二人が王宮にいる間、13議会の控室に詰めている。とおっしゃられました。何かあったら、すぐ連絡するようにと言われております。ですからわたくし、ひとっ走り13議会の控室にまで行って参ります。」

そう言って女性騎士の一人が駆け出して行った。

だが、エーレンフロイト侯爵よりも先にファールバッハ伯爵が現れた。

「お父様ー!」

アグネスが泣きながら父親に抱きついた。ファールバッハ伯爵は、情報大臣だ。いち早く情報を聞きつけ、駆けつけて来たようだ。

その時、耳を疑うようなレベッカ姫の呟きが僕の耳に聞こえて来た。

「・・ファールバッハ伯爵。いつ見てもかっこいい。」

何いっ!

いや、別にカッコ悪いと思っているわけではないが!

顔立ちはそこそこ整っているし、ハゲてないし、腹も出てないし、けどもう50代の後半だぞ!

顔のシワとかシミとか白髪とか、年相応の量ほどあるぞ!

というか『いつ見ても』って、『いつ』そんなに会ったんだ?

ファールバッハ伯爵夫人、ベアトリクスは20代だ。何かこう蛾を引き寄せる灯りのように、若い娘を虜にする何かが伯爵にはあるのだろうか?

あるとしたらやっぱ、あの瞳だろうか?ファールバッハ伯爵の目は、右が青で左が黒のオッドアイなのだ。

ファールバッハ家はオッドアイの子供が生まれやすい家系らしい。

10年以上前に死んだ長男は、オッドアイではなかったようだが、彼の死後生まれた次男のエリアスとエリアスの双子の姉アグネスは片目が青、片目が金色のオッドアイだ。

もしもレベッカ姫がオッドアイをかっこいいと思っているのなら、僕にとって強力なライバルになるのは、コンラートでもジークレヒトでもなくエリアスになるのではないだろうか?

ぐるぐる考えているうちに、エーレンフロイト侯爵が駆けつけて来た。

僕達は騎士団の聴取を受ける為、それぞれ別の部屋に連れて行かれた。

取り調べが終わった時には、姫や姫の側近達の聴取はとっくに終わっていて、レベッカ姫は父親に家に連れ帰られていた。

僕達はいったい、いつになったら婚約者らしい時間をゆっくり過ごす事ができるようになるのだろう・・・。