軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

椿

「ええ!まだ、予定日十日くらい先だよね。」

「お腹の中にいても、外の声は聞こえていると言いますからね。あんまりにも外が楽しそうなので早く出て来たくなったのではないでしょうか?」

いや、いくらなんでも、そんなバカな・・。

眠気も飛んだので、私はラヴェンデルの部屋の近くに行ってみた。側にいても、何かしてあげられるわけではない、神に祈りを捧げる事しかできないが、気になって仕方なかったのだ。部屋の前では桶を持ったフローラが、廊下を全速力で走って行った。側にいなくていいのかな?と思うが、フローラは学生だし、エデラーは産科の専門医ではないので、どうやらプロの助産師を呼んでいるらしい。

ユリアやコルネ、ユスティーナ達も廊下に集まって来て、結局30分後には友人全員集合していた。

「陣痛が始まったからといってすぐ子供が生まれるわけではありませんよ。」

とゾフィーが私達に言った。

確かにこういう事には個人差があると聞いている。24時間以上かかる人もいるというし、逆に電車の中でお腹が痛くなって、次の駅で降りる前に生まれてしまう、という人もいるそうだ。

ラヴェンデルは、辛い思いばかりして来た人だ。どうか安産であって欲しい。どうか無事に生まれてきて欲しいと、願わずにいられなかった。

痛みでうんうん言っているラヴェンデルにとっては長い時間だろうが、私達の方はあーだこーだとおしゃべりしている間に、あっという間に時間が過ぎた。メイドさん達が、椅子とハーブティーを持って来てくれる。やがて、まだ幼いアグネスやリーゼレータが眠そうな顔になり、さすがに今夜はもう部屋へ戻ろうか。

と思った時だった。

「ふみゃあ、ふみゃあ。」

と部屋の中から可愛い声が聞こえて来た。

「もしかして!」

「生まれたんじゃないですか?」

私達が椅子から立ち上がって顔を見合わせていると、部屋のドアが開いてゾフィーが顔を出し

「生まれましたよ。女の子です。」

とまるで、父親に告げるかのように私達にそう言った。

「ラヴィは?」

「大丈夫です。お元気です。」

「わー、やったー!バンザイー!」

私は飛び上がって喜んだ。皆が

「良かったですねえ。」

「本当に良かった。」

と私に言う。

ほんと。私が男だったら、人は私を父親だと思うだろう。

「ドアから覗いてもいい?」

「どうぞ。」

とゾフィーが言ってくれたので、私達は中を覗き込んだ。

赤ちゃんはお母様が抱っこしているようだ。オルヒデーエ夫人とヤスミーンが、ラヴェンデルの左右から手をとって、涙ぐみながら何か語りかけいる。

「お嬢様達、まだ起きていたんですか?」

とフローラに呆れられた。

「レベッカお嬢様。」

汗で前髪が張りついたラヴェンデルが、ドアの方を見た。

「おめでとう、ラヴィ!」

「ありがとうございます。良かったら中に入って、顔を見てやってください。皆さんも。」

「え!いいの?じゃあ、みんな。まず、念入りに手を洗ってくるんだ!」

私達は洗面所に駆け込んだ。手をしっかりと洗って清潔なタオルで拭く。それからラヴェンデルの部屋に戻った。

私は赤ちゃんをギャン泣きさせないよう、そろりそろりと足音を立てないよう中に入った。お母様が顔を見せてくれたので覗き込む。

赤ちゃんは、とっても小さかった。

まだちょっとふやけていて、顔に小皺がいっぱいあったけれど、でもものすごく可愛かった。既に髪がふさふさで髪の色は金髪だった。ラヴェンデルの髪色は赤なので、あのクソ旦那の方に似てしまったのだろう。でも、瞳はラヴェンデルと同じ、ラヴェンダー色だった。

「可愛い!」

「髪がふさふさですね。お姉様の赤ちゃんは全然髪の毛が無かったのに。」

とユスティーナが言った。

「ちっちゃいですねえ。」

とユリアが言うと、リーゼレータが

「体重どれくらいですか?」

と聞いた。

「2950グラムです。」

と、フローラが言うと

「なら、そんなに小さくはないよ。」

とリーゼレータが言った。

「そうそう、私なんか生まれた時2100グラムだったもん。」

とアグネスが言った。

「そりゃ、アグネス様は双子だから。」

「ちなみにエリアス様はどれくらいだったんですか?」

「1800。」

「その頃から、エリアス様の栄養ブン取ってたんですね。」

コルネの言葉に皆が笑った。

「名前はもう決めてるんですか?」

とオルガマリーが聞いた。

「ええ。」

とラヴェンデルは言った。

「私も妹もお母様も、花の名前でしょう。だから、この子も花の名前にしようと思って。」

確かに。オルヒデーエは、『蘭』、ラヴェンデルは『ラヴェンダー』、ヤスミーンは『ジャスミン』という意味だ。

「『カメリア』にしようと思っています。」

『カメリア』。『椿』という意味だ。

我が家の庭にも既に早咲きの椿の花が何輪か咲いている。

「厳しい冬の寒さにも負けずに凛と咲く花のように、強く育って欲しいんです。」

とラヴェンデルは言った。

「素敵な名前ね。」

とお母様が言った。椿の花のように白い肌と赤い頬。ぴったりな名前だと私も思った。

ただ、愛称は『カメちゃん』になるのだろうか?

後日談だが、『メリア』になった。