作品タイトル不明
贈り物
翌日も、パーティーが開かれた。カメリアが生まれたお祝いだ。
ご馳走が並び、大人にはお酒が振る舞われた。
私と友人達は、さっそくラヴェンデルの部屋に『お祝い』を届けに行った。今日の為に用意をしておいたのだ。
アグネスのプレゼントは、親子でお揃いのストールだ。綺麗なラヴェンダー色をしていて、アルテミーネ先生に教えてもらってつけた、『シマエナガ』の絵が刺繍してある。
ユスティーナのプレゼントは、とても上質な植物紙20枚だった。
知り合いに手紙を書いても良し、育児日記をつけても良し。好きに使ってくださいと言って渡していた。
オルガマリーのプレゼントは、医学書だ。三歳くらいまでの子供がかかりやすい病気の症状と、対処法が書いてある。地球でいうところの『家庭の医学』みたいな本だ。オルガマリーの父親は、国立大学医学部の教授なので、自宅にこういう本があるのである。それをせっせと写本して自分で製本したのだ。ただし、オルガマリーの父親は産科医でも小児科医でもなく耳鼻科医である。
リーゼレータのプレゼントは、でっかいシャチのぬいぐるみだった。『海の王者』と呼ばれるほど強い生き物なので、ぜひともこれくらい強い子に育つように、という願いを込めたらしいが、誰も彼もが「可愛いー!」と言っていた。
リーシアのプレゼントはアロマキャンドルだ。私が用意した複数の香油をリーシアが調合し、蜜蝋で作ったリーシアお手製の一点ものである。プレゼントをどうしよう?と悩んでいたリーシアに、人並外れた嗅覚を活かすよう私が勧めたのだ。
ミレジーナのプレゼントは、レース編みの肩掛けだ。繊細な模様のシルク製である。これも材料費は私が出してミレイが作った。
そして私、コルネ、ヘレン、ユリアで共作した物は二冊の絵本である。私が文章を考え、字の綺麗なヘレンが清書し、コルネが絵を描き、ユリアがそれは美しい刺繍で布製の表紙を作った。一点ものの絵本である。
他にも、モニカ先生は見事な刺繍のハンカチをプレゼントしていたし、アルテ先生は絵をプレゼントしていた。
お母様のプレゼントは、お手製のパッチワークの掛け布団だ。タペストリーにもなるほどのサイズで、その大きさ、美しさにかなりびびった。
ゾフィーのプレゼントは弟に作らせた、たくさんの産着とおむつだった。
ヨーゼフとエリアスからのプレゼントは、たくさんの木製のおもちゃだった。すぐには遊べないだろうが一年後くらいには大活躍するだろう。
そして、お父様のプレゼントは、プレゼントの鉄板。銀のスプーンだった。こちらの世界にも、地球同様、銀のスプーンを持っていると食べる物に困らない。という言い伝えがあるらしい。柄の部分に領地でとれた。アメジストが埋め込まれていてキラキラしているスプーンだった。
部屋から溢れそうなほどのプレゼントの山に、ラヴェンデルは感動して涙ぐんでいた。
「皆さん。ありがとうございます。」
それから、ぽろっと言った。
「私、この子を妊娠している事がわかった頃、この子が生まれたら、孤児院の入り口に置いて来よう、と思っていました。」
「・・・。」
「こんな最低な母親が、こんなにも皆さんに祝福されても良いんでしょうか?」
「どこが『最低』なの?もっと最低な母親もいるのに。」
とミレイが言った。
「ラヴィさんが『最低』だったら、もっとひどい母親はなんて言うの⁉︎」
「そりゃ『ちょー最低』でしょ。」
別に笑いをとるつもりはなく、事実を言っただけなのだが、なぜかアグネスやリーゼレータが笑い出した。ミレイやラヴェンデルまで笑っている。
「ベッキー様が以前言われたんですけれど、『行動は自由ではないけれど、思想は自由』だそうですよ。考えただけで、実行していないなら良いのではないでしょうか?」
とユリアが言った。
「私のお母様も、言ってたよ。私が夜泣きをして泣き止まない時、何度窓から捨ててやろうか!と思ったかって。拾いに行くのがめんどくさかったので実行しなかったって言ってたけど。」
あっけらかんとした口調でリーゼレータが言う。
「お姉様も、一日で良いからクリスちゃんの顔を見たり、煩わされたりせずに過ごしたい。って言ってました。」
とユスティーナが言った。
「赤ちゃんの時には、そんなふうに思う事もあるって事ですよね。」
「え?私とエリアス、この年になっても、親にしばらくどっかに行ってくれ。って言われてるけれど。」
「はっ!そういえば私もそうでした。」
ユスティーナとアグネスの会話を聞きながら、オルガマリーが
「アカデミーに通わされている女の子は結局みんなそうですよ。」
と言った。
皆の意見を聞きながら、私は『文子』の母親の事を思った。
病院に『文子』を産み捨てて逃げた母親。彼女も、どうにもならない事情があったのかもしれない。少なくとも、文子の母親は中絶手術を受けたり、生まれた子供の首を絞めて殺し、森に埋める。とかはしなかった。
誰かが、手を差し伸べてくれたら、文子を捨てたりしなかったのかもしれない。
本当に『運命』は、とても小さな事で変化するのだ。
大切な宝物を抱くように、カメリアちゃんを抱いているラヴェンデルを見て、文子の母親の事を許そう。許す事ができる。
と。そう私は思った。