作品タイトル不明
ゲーム(1)
『お楽しみ会』の会場にしたのは、エーレンフロイト家の『茶会室』だ。そこそこの広さがあるので、参加希望者全員が入れた。結局、門番をしている騎士以外の、全使用人が集まった。
そして、私の友人達は。
全員いた。
結局、一人も仮面舞踏会に行かなかったのだ!
嬉しかったけれど、それは私に魅力があるからではなく、エリザベート様に権力があるからだろう。それでもいい。
そうなった以上、私にできる事は、屋敷に残った事を皆が後悔しないよう、全力でゲームを進行する事だ。頑張るぜ、私!
「それでは、ゲームを始めます!」
と私は宣言した。
お楽しみ会は立食形式だ。ところどころにテーブルがあって、サンドイッチやシフォンケーキが置いてある。お母様やラヴェンデルの為には、椅子も用意した。
そして、茶会室の一番目立つ所に、長机と五脚の椅子を置いてある。その椅子には、まだ誰も座っていない。
「五人ほど、協力してくれる人を募集しまーす。その五人には、私が用意した物を食べてもらいます。でも、その中に一人だけ『ハズレ』の人がいます。残りの皆さんに、誰が『ハズレ』なのかを当ててもらうだけの簡単なゲームです。」
ざわざわ、と皆が話をしている。「簡単そう」「ハズレって何?」という声が聞こえてくる。
「答えを言う人は早い者勝ちで十人。『ハズレ』を当てた人には、賞金として銀貨一枚プレゼントしまーす。だから、みんな五人の人をよく見てじっくり考えてね。」
賞金が銀貨一枚と聞いて、「わー」と歓声が上がった。銀貨一枚といえば、メイドさんの週給の十分の一だ。アジの塩焼きが50本買える金額でもある。なかなかのお値段だ。
「飲食する五人は、喋らないで黙っていてね。表情を変えるのも禁止です。もしも、答えを表情に出して、十人全員に『ハズレ』だと当てられて私に大損をさせてしまった人には、罰を受けてもらいます。」
場が、しんとなった。罰が怖いからだろう。
「じゃあ、協力してくれる人。手を挙げて。」
と言っても、誰も手を挙げなかった。
困ったなあ。と思っていたら。
「いいよ。協力しよう。」
と言ってお父様が手を挙げてくれた。
「ありがとう、お父様。じゃあ、あと四人は私が選ぶよ。ここはぜひとも、勇敢な騎士達に頼みたい。ウルリヒにヨアヒムにイェルクにアーベラ。お願い。」
私が頼むと、四人は顔を見合わせ
「わかりました。」
と言ってくれた。よしよし。
「じゃあ、カレナ。お願い。」
「はい。」
と言って。カレナは部屋を出て行きコーヒーカップを五つ乗せたお盆を持って戻って来た。お父様達五人は、長机の側の五つの椅子に座っている。私は、五人の前に一つずつカップを置いた。カップの柄が全部違うので、私にはどれがハズレなのかわかっている。ハズレなのは、イェルクのカップだ。
「カップの中に入っているのはコーヒーです。でも、一人だけ『魚醤酢』の人がいます。さあ、魚醤酢なのは誰でしょう?さあ、五人とも順番にぐびっと飲んでみて。」
・・五人は、はっきりと怯んだ。
「はい。お父様から順番に。」
「・・・。」
お父様は、ぐびっとカップの中身を飲んだ。その後、眉間に皺を寄せた。役者だな。お父様。
「次、ウルリヒ。」
ウルリヒが無表情でコーヒーを飲む。飲んだ後も無表情だった。
「次、ヨアヒム。」
恐る恐るという感じで、ヨアヒムがコーヒーを飲んだ。飲んだ後、ほっとした顔をする。演技をせんか!
「次、イェルク。」
イェルクは匂いで既に、自分がハズレだとわかっているのだろう。明らかに怯んでいる。しかし、覚悟を決めてぐびっと中身を飲んだ。
「ぐはっ!ごほっ!ぐへっ!ぐほっ!!!」
イェルクはものすごく激しくむせた。その途端、ばばばばば!と林のように手が上がった。
「はい。」
「はい!」
「はいっ!」
皆、指名してもらおうと必死だ。
「アーベラも飲んで。」
「はい。」
露骨に、ほっとした表情でアーベラがコーヒーを飲んだ。
私は、手を挙げるのが早かった十人を指名した。勿論、全員がイェルクと答えた。
「当たりです。イィエェルゥクーッ!」
「むりでずっで!ひどの飲むもんじゃありまぜん!泥水の方がまだ飲めますー!」
イェルクがむせながら抗議した。
「もー!ユリア。当たった人達に、銀貨をあげて。イェルクには罰を受けてもらいます。コルネ、『アレ』持って来て。」
「はい。」
と言って、コルネはガラスのコップに入った飲み物を持って来た。ユリアはその間に正解者に銀貨を配った。
「どうぞ。」
と言って、コルネがコップをイェルクに渡した。
「これ、何の液体ですか?」
ものすごく胡散臭い物を見る目でイェルクがコップの中身を見る。中の液体は透明で薄い黄色とピンクが混ざったような色だった。
「それを教えたら、罰にならないでしょ。はい、ぐびーっと一気飲みして。」
「嫌です。」
「拒否権は無い。さあ、飲んで。」
イェルクは恐る恐るという感じで一口飲んだ。
「どんな味かみんなに教えてあげて。」
「酸っぱいような・・苦いような・・ほのかに甘いような。何ですか、これ?飲んだ事の無い味です。」
「ニワトリの体液。」
ぶはあっ!
イェルクはコップを床に落とし、思いっきり吹き出した。
「げほっ!ぐはっ!」
口を押さえて再び激しくむせる。会場内にいた全員が、ドン引きしていた。
「冗談だよ!レーリヒ商会がこの度初めて輸入した、グレープフルーツという果物の果汁だよ!」
私は慌てて、本当の事を教えてあげた。