作品タイトル不明
王都の攻防戦(6)(フランツ視点)
私は護衛として、ウルリヒを同伴させており、ウルリヒは私から三歩下がった位置に立っている。ガルトゥーンダウムは、護衛なのか毒見役なのか知らないが、ハインリヒを同伴させていた。
二人は私が呼ばれている事を知らなかったらしい。
目を、くわっ!と見開いて二人共驚いていた。
同じような表情をすると二人の顔はとてもよく似て見える。二人は伯爵家当主とその従甥という関係性だが、実は親子なのだ。という噂があった。
ガルトゥーンダウムは、独身の頃恋人がいた。身分が釣り合わないわけでもなく、何も無ければその恋人と結婚したかもしれない。
だが、ガルトゥーンダウムにディッセンドルフ公爵の妹との縁談話が出た。ディッセンドルフ公爵の妹という事は、王妃の妹という事だ。
ガルトゥーンダウムは、ためらう事なく恋人を捨てた。
後腐れなく別れる為には、恋人も他の男と結婚してくれる方がありがたい。彼は、自分の恋人を自分の従兄弟に押し付けた。その従兄弟の子供がハインリヒなのだ。
従兄弟に恋人を押し付けた時、何かの取引をしたのか、それとも別れた恋人に負い目があったのか、ガルトゥーンダウムは従兄弟の家族を重用した。自分が司法大臣になると、ハインリヒを司法省に入れ、自分の側近として年齢に不釣り合いなほど出世させた。
ハインリヒの立場が更に注目されるものになったのは三年前だ。
ガルトゥーンダウムと妻の間の一人息子が、何かをやらかしてしまったらしく、王宮を出入り禁止にされ領地で謹慎させられたのだ。
何があったのかは箝口令がしかれて不明とされているが、実は私は知っている。
バルドウェイン第一王子殿下の側近だった息子は仲間と共に、王子の命令で芳花妃ステファニー様を王宮図書館の隠し部屋に閉じ込めたのだ。
事実が明らかになると、被害者であるステファニー様のお立場が悪くなるので事件が公になる事はなかったが、犯人達は国王の逆鱗に触れた。事実を隠すという為だけの理由で処刑は免れたが、王宮からも王都からも追放された。もはやガルトゥーンダウムの息子が伯爵位を継げる可能性は無い。
そうなると、誰が伯爵の後継者になるかが問題となる。伯爵には弟も甥もいるが、人々はハインリヒが後継になるのではと噂した。そして、恐らく本人もそう思っている。
「・・まさか侯爵がおられるとはな。」
怒りなのか屈辱なのか、伯爵の声が震えている。返事をしたくないので私は彼を無視した。
「一瞬、どなたなのかわかりませんでしたね。国王陛下の御前とは思えないほど地味なお姿なので。」
そう言うハインリヒと伯爵は、豪華な絹服を着て、これでもか!というくらい宝石をつけている。確かに私とハインリヒが並んで立ったら、私がハインリヒの従者に見えるかもしれない。
私はさっき、陛下に言ったのと同じ事を言った。
「金が無いんだ。」
「・・はは、またご冗談を。」
本当なら思いっきり揚げ足を取りたいところだろうが、ハインリヒは引きつった笑いを浮かべただけだった。
それはそうだろう。エーレンフロイト家は食料を供出した家門で、ガルトゥーンダウムは受け取った家門なのだ。
なのに贅を尽くした服を着て来るなどガルトゥーンダウムは、非常識にも程がある。伯爵は、忌々しいという眼光で私を睨みつけた。
「侯爵。正直に言うが、あなたと顔を合わせるのは堪らなく不快だ。」
「そう言うな。ガルトゥーンダウム。勘違いや誤解があるだけかもしれぬだろう。ここは非公式な場だ。腹を割って話し合ってみないか?」
と陛下が言う。
できるか!
と、私は内心で思った。今すぐこいつらの頭をかち割りたいわっ!
「誤解などあるわけがありません!陛下、この男は骨の髄まで邪悪なのです!」
とガルトゥーンダウムが叫ぶ。
「そうです、陛下。この男は、あなたの使者を務めたわたくしを焼き殺そうとしたのです!」
とハインリヒも叫んだ。国王陛下は興奮している二人を手で制した。
「ガルトゥーンダウム家もエーレンフロイト家もこの国には欠かす事の出来ない名家中の名家だ。全てを水に流し手を取り合う事は出来ないのか?」
「あり得ませぬ!」
とガルトゥーンダウムが言った。
私は無言でお茶を飲む事で自分の意思を表示した。
「わかった。しかし、水に流して欲しい、というのが私の考えだという事は意識の隅に留めておいてくれ。」
国王陛下の言い分を私は不気味に思った。客観的に見ると、一国の国王が家臣の機嫌を必死に取っているように見える。しかし国王陛下はそういう人間性の人では無いのだ。
陛下の言い分は『最後通牒』のように思えた。
恋人に別れを切り出す男が、最後には優しく振る舞うのと同じだ。
「菓子もいろいろと用意している。食べてくれ。」
とか、言ってるし。
「エーレンフロイト領で起きた事柄については、王家直属の情報機関から報告が上がっている。」
と陛下は言った。
そして、背後に控えていた侍従を呼んだ。その侍従から紙の束を受け取る。そして、その紙を目の前に置いた。陛下は、テーブルに置かれた紙をこつこつと指で突いた。
「其方達だから話すが、私はシンフィレアを調査する為、医療ボランティア団の中に情報機関の人間を紛れ込ませていた。その者は数ヶ月をシンフィレアで過ごした後、ヒンガリーラントに戻って来た。その時帰航したのがエーレンフロイト領だ。ところが、エーレンフロイト領に滞在している間に天然痘が発生した。他の医療ボランティアが皆エーレンフロイト領に残るというのに自分だけ王都に帰ると言う事は出来ない。結果、その者はエーレンフロイト領に残った。」
・・言い訳がましい事を言っているが、要するに情報機関の人間にうちの領について調べさせたって事だな。別にいいけど。知られて困る事なんて何も無いし。
「私はその者に、この度の件について聞いてみた。それによるとハインリヒ。其方は、エーレンフロイト侯爵が領館の離れに滞在するよう言ったのに、魚臭いから嫌と言って、自らの意思でひょうたん半島に行ったというのではないか。その後全身を虫に刺されて発疹を出し、ヒルデブラント小侯爵に『逃げようとしたら焼き殺す』と言われた。それは情報機関の者がその耳で聞いている。しかし、その後其方の元に駆けつけて来たのは、医療大臣であるシュテルンベルク伯爵と息子の小伯爵、シュテルンベルクの騎士にトゥアキスラントの医学生だ。エーレンフロイト侯爵は、駆けつけていない。情報機関の者は10メートル離れた廊下から、事の顛末をずっと見ていた。そして、トゥアキスラントの医学生が『天然痘ではない』と診断を下した。
ならば、いったい、いつ?エーレンフロイト侯爵は其方を焼き殺すと言ったのだ?」