作品タイトル不明
新しい家族達(26)(アルベルティーナ視点)
早速、私は先生に手紙を書く事にしました。
どんな文面にしようか?というのは悩むところです。先生に気まずい思いをさせたり、同情されているという風にとられそうな内容にはしたくありません。
私は、娘婿の事には触れず
① 領地で伝染病が流行り、人の命は儚いものだと知ったので、昔馴染みの懐かしい人達に手紙を出している。
② 虐待を受けていた、娘の友人達を邸宅に引き取り世話をしているが、心に傷を負った子供らへの接し方に悩んでおり、先生に相談が出来たら良いのにと思っている。
③ 『知り合いの夫人』が妊娠をしたが、乳母が見つからないので、信頼できる妊婦を知っていたら紹介して欲しい。
と書きました。
手紙は、ビルギットに届けに行ってもらいます。
生活に困っておられるかもしれないので、食べ物も届ける事にしました。
レベッカが、いろいろと作っていてくれるのが正直とてもありがたいです。
私は料理人のセナを書斎に呼び、レベッカが飼っているアヒルを一羽、楽園へご案内して欲しいと頼みましたが、セナには反対されました。
「奥様、お肉は熟成させないと、せめて死後硬直がとれるくらいまでは待たないとおいしくないですよ。プレゼントをされるのならば、もっと良いものがあります。」
そう言って案内してくれたのは、庭にある燻製室でした。
そこにはたくさんのチーズやゆで卵と一緒に、たくさんのウズラのお肉が吊るされていました。
「時間をかけてじっくり燻煙しているので、おいしく出来ているはずですよ。このままでも食べられますし、ちょっと炙って食べてもおいしいです。骨を煮込めばおいしいスープも出来ますしね。」
「まあ、素敵。じゃあこのお肉とあとチーズをバスケットに詰めてちょうだい。」
他にもレベッカが畑で作ったニンジンとイモ。アヒルの卵をカゴに入れます。
「ビルギット。卵が割れないよう気をつけてね。」
「はい。頑張ります。」
「重くなるけれど、卵の隙間に米を入れればいいんですよ。緩衝材になって卵が割れません。」
とセナが言いました。
「米も食べられますしね。」
「でも、卵と接触したお米って不衛生じゃない?」
と私は聞きました。
「この卵はそんな事ないですよ。レベッカお嬢様が、万が一にも食中毒を出さないようにと、全部綺麗な布で磨いて、さらにアルコールを染み込ませた綿で拭いてますから。でも、気になられるのでしたら、もみの付いたお米を使ったらいかがでしょうか?」
そんな事をしていたとはびっくりです。農学科生のアドバイスでしょうか?
「じゃあ、セナ。お米も用意してちょうだい。それと・・パンの予備はあるかしら?」
「ありません。お客様が急に増えましたのでギリギリです。けど、奥様。今レベッカお嬢様が厨房でケーキを大量に焼いてますよ。お友達の歓迎会をするんだと言って。頼めば一個くらい分けてもらえるんじゃないでしょうか?」
「ケーキを?小麦や砂糖はまだしも、バターがよく手に入ったわね。農学科に売ってもらったのかしら?」
「バターの代わりに、植物油を使うケーキだそうです。バターを使ったケーキはメレンゲの力で膨らんでも、生地が冷めると生地の中のバターが冷えて固まり、しぼんでしまいます。でも、油を使ったケーキは冷めてもしぼまないので、ふわふわに膨らんだままなのだそうです。あまりにも膨らみ過ぎて真ん中が生焼けになってしまうので、真ん中に穴が空いている特殊なケーキ型で作る物だそうですよ。そのケーキ型が今日、金属加工工房から届いたので、ケーキを焼き始めたんです。」
話を聞いていてもよくわかりません。真ん中に穴が空いていたら生地が全部流れ出してしまうのではないでしょうか?私は厨房に行ってみる事にしました。
厨房に近づくにつれ、廊下に甘い香りが漂って来ました。
厨房に入ると、厨房メイド達が一斉に私に頭を下げます。しかし、私が入って来た事に気づいていないレベッカ、ユリア、コルネ、リーシア、ヘレン、ミレイ、それにエイラとカレナとドロテーアとベティーナは、きゃあきゃあ言いながらケーキを取り囲んでいました。
「まあ、よく膨らんだ大きなケーキね。」
私が網の上で、冷まされているケーキを見て言うと、レベッカ以外の皆が振り返り頭を下げました。
「いいのよ。楽にして。このケーキどうしたの?カレナの持ちレシピ?」
「そうよ、お母様。特殊なケーキ型じゃないと作れないから今まで作った事なかったけれど、今日注文していたケーキ型が四つ届いたの。
バターの代わりに、植物油を使ったケーキで、このお菓子発祥の国では『柔らかい織物のケーキ』って意味の『シフォンケーキ』って呼ばれているんだって。」
レベッカがペラペラと答えます。
「ふーん。」
と言いつつ私はケーキを見ました。ケーキは四つあります。
「いい香りね。何の味なの?」
「こっちの二つは、すり潰した紅茶。こっちの二つはレモンの果汁と果皮を入れてる。」
「どうして二つずつあるの?」
「一つは椿油で、もう一つはヒマワリ油で作ったの。味に違いが出るか食べ比べてみようと思って。お母様も試食してみる。レモンのケーキだったら食べられるんじゃない?」
「そうね。じゃあ一口だけ。」
そう言うとレベッカは、ケーキの一つを型から抜きナイフで切り始めました。
二口分の大きさのケーキを皿に乗せ、ビルギットに渡します。ビルギットがケーキを半分に切り分け、パクッと一切れ『毒見』しました。
「ん!」
「どうしたの、ビルギット?油だからやっぱりバターを使ったケーキとは違うの?」
「もんのすごくふわふわでおいしいです!」
おいしくてびっくりしたようです。レベッカは友達や、侍女達更にセナとゾフィーにもケーキを配りました。
「おいしー!」
「柔らかい。」
「噛まなくても食べられちゃいますね。」
レベッカの友人達が、口々にケーキを褒めます。私も、ケーキを口に入れました。