軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

森の影(11)(ルートヴィッヒ視点)

「・・・え?」

「他にいるだろう。エーレンフロイトより高位の貴族でエーレンフロイトより税金を納めてくれていて、この度の天然痘騒動でエーレンフロイト以上に名を上げ国に貢献した貴族が。」

誰の事だ?エーレンフロイト家は国税納付額第四位の家だ。第二位のディッセンドルフ、第三位のブランケンシュタインは13議会のメンバーだ。となると第一位の・・・。

「まあ、名を上げたのは当主でなく息子だが。」

「・・ヒルデブラント。でもヒルデブラント侯爵は、政治に無関心で社交界にもさっぱり出てこないおとなしい方ではありませんか?」

「確かにヒルデブラントはおとなしい。だがそれは、鳴き声も足音もたてない蛇のおとなしさだ。言うなれば、ディッセンドルフは熊で、ヒルデブラントは大蛇だ。熊はトドメを刺さずに生きたまま内臓を食う。大蛇は音も無く忍び寄り血も骨も残さない。」

「・・だったら尚の事、ヒルデブラント家に権力を持たせるのは危険ではないですか?」

「それでもヒルデブラント侯爵の妹と息子が、西大陸の『救国の英雄』である事は確かだ。ディッセンドルフ派ではない13議会メンバーも、それは認めないわけにはいかないだろう。シュテルンベルクは何か文句を言いそうだがな。それでもヒルデブラント家の息子が、傑出した10代であるのは事実だ。彼に比べたらエーレンフロイト家の息子はぱっとしないからな。」

「・・・。」

エーレンフロイト家の息子と言えばヨーゼフの事だ。だけど、父上は将来義理の息子になる僕の事を言っているのではないかと思った。

ジークレヒトに比べて僕がぱっとしない。だから、エーレンフロイトを除外するのだと。そう言われているような気がした。

「ローテンベルガーを推薦しても良いかもな。ディッセンドルフ派にとってはエーレンフロイト以上に権力を持たせたくない相手だ。それをガルトゥーンダウムが反対しなかったら、ディッセンドルフ派とガルトゥーンダウムの亀裂はより深いものになる。」

「ガルトゥーンダウム伯爵を脅迫する原因を作ったハインリヒの未来が暗くなりそうな話ですね。」

「私もそう思う。トゥアキスラントにわざわざ貸しを作る必要はないかな。」

父上は楽しそうな口調でそう言った。

「ディッセンドルフは力をつけ過ぎた。それに対抗する為の強力なカードだ。どう使うかはゆっくり考えるつもりだ。仮にヒルデブラントの方を選んだとしても納得して欲しい。長い目で見れば、ディッセンドルフとヒルデブラントが大揉めに揉めて共倒れした後の席に座る方が、エーレンフロイトにとっては為になるかもしれない。」

熊と大蛇の異種格闘技戦。見てみたいような絶対に見たくないような恐ろしい光景だ。

「ディッセンドルフとヒルデブラントが揉めると、父上はお考えですか?」

「既に揉めている。エーベルリン家のゲルハルトはエーレンフロイト領にヒルデブラントを貶める毒を撒こうとした。その報復としてヒルデブラント小侯爵に、数ヶ月は落ちない染料で顔に落書きをされたらしい。『森影』の報告では、とても人に見せられないような文言を書かれたそうだ。」

「嘘でしょう!」

などと言う気にはなれなかった。

ゲルハルトはそういう事をしそうな男だし、ジークレヒトもそういう報復をしそうな奴なのだ。実際ゲルハルトは、王宮からの呼び出しを無視しているわけだし・・・。

「ルートヴィッヒ。おまえも気をつけなさい。おまえ、小侯爵に嫌われているようだからな。」

「父上!やっぱりヒルデブラントに権力を与えるのはおやめください!」

「ヒルデブラント小侯爵には国民の人気がある。先見の明があり、知恵があって危険な事でも必要とあらば実行する度胸がある。同じ国に同じ年の、そういった相手がいる事はおまえにとっては不快な事かも知れない。だがヒンガリーラントの初代国王は、このような言葉を子孫に残している。『王族にとって必要なのは、無能な善人ではなく、役に立つ嫌な奴である。』小侯爵のような人間を上手く利用してみろ。そうすればおまえは、今よりも高い場所に立てる。」

その言葉の意味する事は一つだ。

しかし、それの何と困難な事か。

僕はため息と共に、最後の一口の紅茶を飲み込んだ。

夜になった。

もうじき、グラウハーゼが僕の部屋に報告に来る時間だ。

グラウハーゼが報告に来る内容はもう既に知っているし、今日こそ報告は20秒で終わるだろう。だからその後の時間、グラウハーゼとゆっくりお茶を飲もう。そう思って、用意をしている。

今日、アーベルマイヤー家の末路と共に、父上がどれだけ高くジークレヒトを評価しているかを知った。

確かにジークレヒトは、『情報』という点で僕よりもはっきりと先に行っている。僕は天然痘が上陸するまで、種痘の事もグラハム博士の事も知らなかったが、その遥か前からジークレヒトは、グラハム博士の為に行動していたのだ。王子である僕が、グラハム博士の悲劇を知っていたからといって、グラハム博士の為に同じ事ができたわけではない。だが、情報力、計画力、そして実行力においてジークレヒトが比類ない存在であるのは確かなのだ。

そのジークレヒトと張り合う為に、僕にはグラウハーゼのような人間が必要だ。だから、彼が僕の為に喜んで情報を持って来てくれるよう、いつも熱心に働いてくれている彼の労をねぎらおうと思う。

茶器は二人分だが、席は四つ用意した。黒ウサギと白ウサギの為の席だ。お茶受けに用意したのは甘い菓子ではなく、焼いたトーストだ。バターとニンジンのジャムを添えている。

そう言えば、まだ『ぴょんちゃん』を食用呼ばわりしてしまった事を謝っていなかった。あの、黒ウサギと白ウサギにも名前があったりするのだろうか?なんとなく、グラウハーゼの性格的にありそうな気がする。

窓の外の空に、まん丸の満月が輝いている。この月をレベッカ姫も見ているだろうか?そして、遠いエーレンフロイト領にいる侯爵や、ジークレヒトも。

そう考えていると、ドアをノックする音が聞こえてきた。