軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

森の影(6)(ルートヴィッヒ視点)

翌日の新聞にレベッカ姫とフィルの事がのっていた。

何紙かにのったが、どの記事も好意的な内容だった。野菜の配布場所で混乱が起こる事もなく、もらった人達は皆喜んでいたという記事だ。実際に『せんべい』を食べた記者は、とてもおいしかった。とせんべいを絶賛していた。

だが、貴族達の間での評判は散々だった。

「ニンジンにネギに米だなんて、家畜の餌じゃない。平民を馬鹿にしているわ。」

「新聞で広く告知をしたわけでもない。孤児院の近所で孤児院の関係者に配っただけよ。それなのに、たくさんの王都民に慈悲を施したように振る舞って、なんてさもしいのかしら。人間性の底が知れるわ。」

「国王陛下が、伝染病の流行を広めないよう集会を禁止しておられるのに、人をたくさん集めるような事をして病気が出たらどうするつもりなのかしら。本当に非常識ね。領地で苦労しておられる御父上が嘆かれるわよ。」

「フィリックス様にもお声がけするなんて本当に常識が無いわ。父親であるアーレントミュラー公爵が謹慎を命じておられるとの事なのに、巻き込んだりして。フィリックス様もフィリックス様だけど、あの小娘もどうなの?アーレントミュラー公爵の判断に逆らうなんてあまりにも無礼というものではないかしら?」

その噂を小耳に挟んで

「やかましーっ!」

と叫びそうになった。

ニンジンや米が家畜の餌だと言っているが、そんな物でもいいから欲しいというくらい困窮している人が増えているのだ。配布を新聞などで広く宣伝しなかったのは、配る野菜の数に限りがあるからだろう。素人集団が庭で作っている物だ。王都民全員に配れるほど収穫できるわけがないではないか⁉︎

集会云々についても、レベッカ姫はちゃんと騎士団に配布の予告をしたと聞いている。人間が多人数集まる何かをする時には、例えば路上で音楽ライブとか、政治的目的のデモ行進などする時は王都の騎士団に報告する事が推奨されている。人間がたくさん集まると騒動が起きたり、群衆雪崩が起きたりして危険だからだ。そして、計画性が無さすぎて危なっかしい集まりや、王室や政府への反抗と見做される集まりには騎士団の許可が出ない。騎士団が許可を出したという事は、政府が認めているという事だ。

自分達は困窮している人々の為、指一本動かそうともしないのに、他人を批判する為に使う舌の動きは絶好調のようだ。

文句があるなら、自分達も善行を行えば良い。と思っていたら

「私も貧民への施しをするわ!」

と言う人間が現れた。

「貧民が相手だからと価値の無い物を配ったエーレンフロイト令嬢とは違う。私はパンと肉、それに栄養豊かなスープを配るわ。」

そう宣言したのは、アーベルマイヤー伯爵令嬢コンスタンツェだった。

この女に対しては嫌な思い出しかない。

コンスタンツェ・フォン・アーベルマイヤーは僕がアカデミーでせっせとレベッカ姫に書き送っていた手紙を全部盗んでいたのだ!(二章の『手紙の行方』で、レベッカと揉めた令嬢です。)

それがバレた時、王宮で衣装室侍女長をしているコンスタンツェの母親はこう言った。

「娘の王子殿下をお慕いする心ゆえですわ。勿論、殿下は許してくださいますわよね。」

許せなかった。でも何もできなかった。

元々、僕がアカデミーの校則違反をしていたのだから大騒ぎする事もできない。

しかし、何より王宮の侍女長をしている彼女に逆らう力が僕に無かった。

侍女長を裁く権限は、統括侍女長と王と王妃にしかない。彼女に逆らい機嫌を損ねたら報復されるのは側妃である母上だ。後宮は女達の世界であり、その世界では母上よりもアーベルマイヤー伯爵夫人の方が力を持っているからだ。そして、事件を知っているはずの父上も何も言われなかった。

力が欲しい。王の座が欲しい!とこの時思いを新たにした。理不尽な目に遭っても泣き寝入りしなくてもよいだけの力が欲しかった。

事件の後コンスタンツェはアカデミーをやめ領地に引きこもっていたはずだが、いつの間にか戻って来ていたらしい。

今回大々的に平民への施しをする事で皆の話題になり、社交界へ返り咲く事を狙っているのだろう。その証拠に、友人やら寄子の令嬢達に「一緒に善行を施しましょう」と声をかけまくっているらしい。

まあ『善行を施す』事自体は良い事だ。アーベルマイヤー伯爵は13議会の一員だし、伯爵夫人は王宮の侍女長なので金は十分にあるだろう。勝手にやれば良い。

と思っていたが

「経験者がいてくれたら心強いわ。」

と言って、フィルにも声をかけたと聞いて嫌な気持ちになった。

僕はコンスタンツェが大嫌いだ。そんな彼女とフィルに親しくなどして欲しくなかった。だが、今回の『施し』が成功すれば、父上もフィルを許し、再び王宮に出入りする事を許可してくださるかもしれない。

そう思うと、「やめてくれ」とはとても言えなかった。そもそもフィルにそう言う機会が無い。

コンスタンツェがパンや肉の配布をするのは、グラウハーゼが次に報告にやってくる日だ。また、あの人形劇を見る事になるのかなと思うと、今から少しげんなりとした。

でっ。

グラウハーゼの報告日である。

だが、パンと肉の配布についての情報はグラウハーゼが来る前からもうけっこう聞いていた。王宮中その話題で持ちきりだからだ。

パンと肉の配布は大失敗に終わったそうだ。配布会場となった中央広場ではいまだに、怒りの収まらぬ王都民が暴れているという。