作品タイトル不明
我が家へと続く道(4)(フランツ視点)
「おっ?なんだ、なんだ?人間かあ?人間の泥棒が出るとか?」
とデリクが聞いた。
「いえ、今のところ人間は。実は、アイヒベッカー家の庭には大きな池があって、そこにウシガエルが大繁殖しているんです。」
とカーテローゼが言った。
「近くの村にいたのが水路を伝って池に来てしまって。それがミツバチを食べてしまうからとても困っているんです。」
「旅芸人のみんなが捕まえてくれるんだけど、何せ数が多くてね。もう、正直カエル肉は食べ飽きたわ。」
デイム・クリューガーが肩をすくめて言った。
「うわ!贅沢な悩み。カエル肉美味いのに。王都の中じゃもう新鮮な肉なんて手に入らないんだぜ!」
とデリクが言った。
「ここで、カエルの姿焼き売ったらいいじゃん。」
「駄目よ。火事防止の為に火を使った屋台をやっていいのは、料理人ギルドに加入している人だけなのよ。鍋にスープを作って持って来ようかとも思ったけど、運ぶのけっこう大変だし、食器もいるしね。」
とデイム・クリューガーが言う。
「養蜂をやっていなければ、ウシガエルがいてもちょっとうるさいな、ですむのですけれど、可愛がっているミツバチを食べられてしまうのはちょっと。今年は特別多いらしいんです。アイヒベッカー家の池は地下水が湧き出していて、北側にある村の水路に向かって流れています。今まではその村の方がカエルをとって数を減らしていたのだそうですけれど、その村が廃村になって人がいなくなってしまったんです。」
とカーテローゼが言った。
もしも我が家の庭や池にウシガエルがうじゃうじゃいたら、多分アルベルやゾフィーは大絶叫だと思うのだが、この子意外に神経が図太いな。
「廃村になったって、どうして?」
と私は聞いた。
「領主が農民に金を貸さなかったからですわ。」
とデイム・クリューガーが答えた。
でも、私には意味がわからなかった。
なので、デリクが説明をしてくれた。
「農民達は、領主や商人に借金を常にしているんですよ。で、収穫があると、借金を返すんです。そしたらお金が無くなるので、また新しく借金をして肥料を買ったり種を買ったり自分達が食う物を買います。で、次の年の収穫物を売って、借金と利子を返すんです。だから、領主が金を貸してくれなくなったら、畑に植える種イモも買えません。仕方なく、土地を捨てて街に働きに行くか、盗賊に転職するんです。」
・・・。
それは、どこの国の領主の話?
領主がそういう事をして農地の経済を回しているの?
私、農民に金を貸した事が無いのだけど?
私って、自分の事を領主だと思っていたけれど、もしかして領主じゃなかったのか?
私は混乱した。
フリーズしてしまった私の後ろで、護衛騎士のウルリヒにデリクが
「エーレンフロイト領は、そういう事やってないの?」
と聞いている。
「ちょっと、待ってくれ。その話の通りだとすると、領主は借金の利子と税金と、領民から二重取りをしているのではないか?」
と私は聞いた。
「ひどいとこだと、利子はツキイチらしいですよ。」
「月に一割!高利過ぎじゃないか⁉︎もしも、災害とかで、収穫物が駄目になったらどうするのだ?」
「子供を売るか夜逃げですね。だから、貧しい農村では、長男以外を皆出稼ぎに出すんですよ。」
それって、ヒンガリーラントの話だよな。え?エーレンフロイト領って、ヒンガリーラントじゃないの?
「全部が全部、そういうわけではなくて王都の周辺の村が、って事だと思いますよ。」
とウルリヒが私にささやいた。
そうだよな!私に内緒でカイがやってるとかじゃないよな!
「ちなみに聞くのだが、その廃村になった村の領主は誰なのだ?」
「エーベルリン男爵ですわ。」
とデイム・クリューガーが答えた。
ゲルハルトの所か!
うわー、本気で食料渡したくない!
というか、領民が飢えているから食料を渡せと言っていたけれど、その領民が消えているんじゃないか⁉︎
金を貸さなかったから、領民が夜逃げしたという事は、もう利子も税金も手に入らなくなるって事ではないか⁉︎心の底から馬鹿だと思う。
「元々が貧しい農村は、どこも大変みたいです。」
デイム・クリューガーはそう言って、ある農村の悲しい話を教えてくれた。
王都から徒歩で一日ほどの場所に、小さく貧しい村があった。村の人口は11世帯50数人ほどだった。
税金を払えば、もう彼らの生活はギリギリだった。子供達が近くの領都に出稼ぎに行って生活を支えていたが、天然痘が流行ると、出稼ぎ先が無くなった。領主も金を貸してくれず、村は行き詰まった。
「口減しをするしかない。」
と村長は決断した。
「子供のいる家庭から、一人ずつ子供を村から出すように。」
と村長は言った。
「王都では、裕福な貴族が孤児院に金を寄付し子供達が恵まれた生活を送っているという。王都に行けば、お腹一杯食べられるし、学校にも行かせてもらえて、給料の良い仕事に就けるという。王都にやる方が子供達にとっても幸せなのだ。」
と村長は言った。定期的に、村に来てくれる旅商人に預けて、子供達を王都に連れて行ってもらおうという話になった。
王都の孤児院に行けば恵まれた生活が出来る。
という言葉を本気で信じた大人はいなかった。
世の中、そんな甘い話は無い。領主が金を出している領都の孤児院は、ろくに食べる物も着る物も無く悲惨な場所だという話だ。そもそも貴族は残酷で無慈悲な存在だ。王都に行ったところで、待っているのは悲惨な末路だけだ。
それでも『村の意思』には逆らえない。同調圧力を突っぱねたら、待っているのは『村八分』だ。
「うちは嫌だ!」
と言う事は狭い村では許されないのだ。
子供がいる家は11世帯中8世帯である。
『捨てられる』のは、だいたい労働力にならない最年少の子供か、女の子だ。
ある家には、12歳の娘と3人の弟がいて、娘は病弱な母親に代わり家事の全てをやっていた。母親の看病もしていた。しかし「女の子だから」という理由で、その女の子が王都に行かされる事になった。
ある家の夫婦には子供が一人しかいなかった。母親は
「この子と離れるくらいなら死ぬ!」
と泣き叫んだ。
父親も、子供が五人いる家でも一人しかいない家でも一人ずつ子供を捨てなければならないというのは不公平ではないかと思った。
しかし、村の意思には逆らえなかった。
母親のあまりの悲しみを見ていた姑は
「私が代わりに王都へ行くよ。」
と言った。
「こんな年寄りでも、王都なら何某かの仕事があるだろう。だから私が行くさ。」
と言った。
「年寄りって言っても、まだ40代後半だけどね。」
と、40代のデイム・クリューガーは眉間にシワを寄せて言った。
「あいつんちは悩まなくていいからいいよな。」
と言われている家もあった。
その家には五人の子供がいたが、その家では親を亡くした親戚の少女を引き取っていたのだ。その子は五人の子供らの子守りをさせられていたのだが、口減しでその少女が捨てられる事になった。少女は13歳だった。
旅商人に連れて行かれる日、幼い子供らは親にすがって泣いた。
「病気がおさまったら必ず迎えに行くから、堪えてくれ。」
と親も泣きながら言った。
子供達に
「元気でな。」
と皆言ったが、その未来が暗い物である事を誰もが予見していた。
そうして旅商人の若い男は、5歳以下の5人の子供、12歳と13歳の少女、40代後半の女性を連れて村を出た。
だが、その旅商人の男はクズだった。