軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

我が家へと続く道(2)(フランツ視点)

私が一方的に知っているだけで向こうは私を知らないだろう。なので、声をかけるのをためらった。

しかし、デリクが中年の女性と面識があったらしい。

「えっ⁉︎デイム・クリューガーじゃないですか?ここで何してんですか?」

と声をかけた。

「あら、デリク君。どっか出かけてたの?」

「エーレンフロイト領に手紙を届けがてら、取材に行ってたんっすよ。」

エーレンフロイト領と聞いて、隣にいた少女がパッと振り返った。

「ちょ、ちょっと、後ろのイケメン、何となく見覚えあるわ。まさか、エーレンフロイト侯爵様⁉︎」

中年の女性がデリクにつかみかかった。

「そうですよ。苦しいっす!デイム。」

「バリーでいいって言ってるでしょ。やだあ、近くで見るとすごいかっこいい。あたし今日すっぴんなのにー。」

「高名な、デイム・クリューガーにお会い出来て光栄です。フランツ・フォン・エーレンフロイトです。」

と私は挨拶した。『光栄』というのはお世辞ではない。彼女は名高い人権派弁護士で、現代の『聖女』と呼ばれている人だ。金貨を彼女の背の高さまで積んでも彼女を雇う事はできないと言われているが、自分が興味を持った事件には手弁当で参加する。極めて優秀な人なので、法曹界では『魔女』とか『女帝』とか陰で呼ぶ人もいるくらいだ。司法大臣などにとっては不倶戴天の天敵だろう。

彼女が、女性に与えられる唯一にして最大の貴族称号『デイム』を賜った時は、色ガラスのワイングラスを叩きつけて怒ったという逸話があるくらいだ。

こんな、会いたいと思っても簡単に会えない超有名人に、私より先に娘のレベッカは会っている。

そのきっかけになったのが、今デイム・クリューガーのすぐ側にピッタリとはりついている少女だ。

カーテローゼ・アイヒベッカー。うちのレベッカに罪をなすりつけようとして返り討ちにされた女の妹で、その罪に連座させられ終身刑にされかけた少女だ。

その裁判は最初から最後まで傍聴したので、私は彼女の顔を覚えていた。

結局彼女は、レベッカの口添えとデイム・クリューガーの尽力により釈放された。現在では、親戚であるアイヒベッカー侯爵に庇護されて暮らしていると聞いている。

「・・あの、ベッキー様のお父様なのですか?」

カーテローゼはおずおずと聞いてきた。

「うん。そうだよ。」

というと、花が咲くようにカーテローゼは微笑んだ。

裁判で見た時は、蝋人形のように青白く生気のない娘だと思ったが、今は、日にも適度に焼けて、生命力に溢れている。今の生活がきっと幸福なのだろう。

「で、ここで何してんですか?」

とデリクがデイム・クリューガーに聞く。

「見ての通りパン屋さんをやっているのよ。アイヒベッカー家にはでっかいオーブンがあるからね。一個買ってちょうだいよ。」

「じゃあ、こっちの無料のパンを・・。」

「買えっつーとるでしょうが!」

「無理ですよ!俺の薄給じゃあ。水に浮きそうなほど財布が軽いのに!っつーか、何もかも高いですよね、この周辺で売ってる物。他に買う場所が無いからってアコギな商売してるなあ。とゆーか、人多すぎません?エーレンフロイト領に行く前に、ここを通った時はもっと人少なかったっすよ。」

「食べていけない農民達が、王都に押しかけて来ているのよ。仕事があるんじゃないかと思って。王族やお金持ちの貴族が無料で施しをしてるって噂も流れてるらしいし。」

「仕事なんか無いっしょ。店やら宿やらどんどん潰れて王都の中でも失業者が溢れているのに。マルテさんの下宿に住んでいる出稼ぎ娘達も、今年は契約してもらえなくて、でも貧しい実家の農家には帰れないってんで、必死になって他の仕事探してるんすよ。」

「そうね。この数ヶ月で、女性の軽犯罪もすごく増えたわ。万引きしたとか食い逃げしたとかと、普通の女性が路上で客をとって、やり逃げされそうになったので、相手の男をナイフで刺したとか。」

・・最後のは軽犯罪か?と思ったが、普通に生きていたはずの人達が普通に生きられなくなって来ているのだ。という事はわかった。デイム・クリューガーはそんな人達を支援する為、ケート監獄に通いつめているのだそうだ。

ケート監獄は、女性囚人専用の監獄だ。王都から徒歩10分の小高い丘の上にある。

だけど、そこへ行く為に城門の外に出ると、王都に二週間先まで入れなくなる。なので、王都から徒歩30分の場所にあるアイヒベッカー侯爵邸に、居候をしているのだそうだ。

「タダ飯食べてんのも申し訳ないから、こうやってパンを売って小金を稼いでいるのよ。待機する人達の人数がどんどん増えているから手堅く儲かる、と聞いたのに意外と儲からないけれど。」

それは、パンをタダで配っているからでしょう。と思うが、その優しさこそがこの人を『現代の聖女』たらしめているのだ。