作品タイトル不明
エーレンフロイト領の戦い(23)(フランツ視点)
「・・・。」
「骨格を見るに女性ですよね。喉仏も無いし。」
「・・・。」
沈黙を続ける男三人。
ミヒャエラは明らかに怯んだ。
「あ、あの。すみません。たいした知り合いでもないのに首を突っ込んだらいけませんよね。ごめんなさい。すみません!本当に申し訳ありません!」
ミヒャエラは蒼ざめて、頭を下げた。
「どうしたの?ミッフィーお姉ちゃん?」
トゥアキスラント人の子供達が、平謝りしているミヒャエラを見て不安そうな顔をして寄って来た。
「どうしたの?」
と言って、ジークレヒトとコンラートもやって来た。
「ミッフィーお姉ちゃんが侯爵様に、ごめんなさい、ごめんなさいって謝ってたの。」
と子供はジークレヒトに言った。
ちなみにミヒャエラ嬢は、まだ頭を下げたままだ。
「何があったんですか?」
とジークレヒトに聞かれたが、頭の中がパニック中で言葉が出て来ない。
「実はですね。」
と、カイが言った。
「ミヒャエラさんが、私達三人は同じ年くらいですか?と聞かれたんです。私と伯爵閣下は同じ年ですが、フランツ様は五歳年下です。フランツ様は少しショックを受けられたようで。」
「大人げねえ!」
とジークレヒトが叫んだ。
「侯爵!大人げなさ過ぎですよ。」
「しかし、私達は四捨五入したら40歳ですが、フランツ様は30歳です。御本人にとっては大きな差が。」
「閣下にそれだけ、威厳があるという事ですから。」
と、珍しくコンラートがおべんちゃらを言った。
「それに異性の年はわからないものですよ。自分もリエ伯母上とメグ叔母上とアルベルティーナ様がお幾つ違いなのか、よくわかりません。」
「コンラート。それ、本人達の前で言ったらアカンよ。グーで殴られるよ。」
とジークレヒトが言う。
「ミッフィーお姉ちゃん、グーで殴られちゃうの⁉︎」
子供の一人が怯えたような声をあげた。
「男に言うのはいいんだよ!」
とジークレヒトが性差別発言をする。
そう言うおまえは。いったい、どっちなんだっ!
と叫びたいが叫べない。
「ミッフィー君。パイ食べた?まだだったら食べに行こうぜえ。」
と言って、ジークレヒトがミヒャエラをその場から引き離しにかかった。
「・・余計な事を申し上げて、本当にすみませんでした。」
ミヒャエラがまた頭を下げた。
「いいえ、勘違いは誰にでもある事です。気になど全くしておりませんよ。でも、この話はもうここまでにしましょう。どうかもう言わないであげてくださいね。どんなに気のおけない方だとしても、一応侯爵家の人間ですので。」
とカイが優しく言った。言い方が上手い。ジークレヒトとミヒャエラでは、全く違う意味に聞こえただろう。
それにしても。うーむ。
ようやく回転を止めていた脳細胞が動き出した。うーむ。
と、そこへ。
カイの秘書が、慌てて病院へ駆け込んで来た。
「閣下!また、13議会から使者がやって来ました!」
すごく嫌な予感がした。
使者は領館の応接室で待たせ、私達は執務室へ戻った。
使者は私とリヒト両方に、手紙を持って来ているという。ハインリヒはもう王都に着いているはずだ。私への嫌がらせが失敗した事は報告済みだろう。そのうえでまた使者がやって来るなど、ろくな用件のわけがない。
使者は、ゲルハルト・フォン・カロッサという男だった。典礼大臣をしているエーベルリン男爵の親戚だという。エーベルリン男爵はディッセンドルフ公爵の片腕で、司法大臣のガルトゥーンダウム伯爵が右腕なら、典礼大臣は左腕。とも言える人物だ。
「お目通り叶いまして、恐悦至極にございます。まずは、お亡くなりになられた領地の方々にお悔やみを言わせて頂きます。」
ハインリヒと同じくらいの年齢のようだが、ハインリヒより遥かに人間が出来ているようだ。だが、油断できない。彼の名前を聞いたジークレヒトが、直後に言ったセリフから考えるにろくな奴じゃないと思う。
「卿も遠路遥々、ご苦労であった。それで、要件とは?」
私の背後の窓から、生ぬるい風が吹いてくる。三密を避ける為、窓を全開にしているのだ。だけど、この時間帯南向きの窓からは燦々と日が差し込んで来て暑いので、カーテンは閉じている。
「届けるよう命じられた書簡はこちらとなります。」
うやうやしい態度で、ゲルハルトは巻物を差し出した。
私とリヒトは、巻物を開いた。リヒトの額に青筋が浮かぶ。私も幻覚が見えているのかと思った。