軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

光輝会(4)(ルートヴィッヒ視点)

レベッカ姫の姿を見て、僕の胸は高鳴った。

エレナローゼはトゲだらけの薔薇のような女だが、レベッカ姫は凛と立つ黒百合のようだ。

弟のヨーゼフと、赤褐色の髪色をした儚げな雰囲気の美少女と一緒に会場に入って来た。この少女が一頃、社交界で大変な話題になったハイドフェルト男爵令嬢コルネリアだろう。

コンラートと一緒じゃないんだ。てっきり、コンラートがエスコートして来ると思っていた。だったらエスコートを申し込めば良かった!

もしもエスコートを申し込んで、コンラートにエスコートしてもらう予定なので結構です。と言って断られたら、僕のニワトリのようなハートが再生不能になって立ち直れない。と思っていたのだが、ぜひとも申し込むべきだった!

エレナローゼはレベッカ姫の方をチラッと見たが無視をした。身分の低いレベッカ姫の方からエレナローゼに話しかける事はできない。

エレナローゼが無視していたら、レベッカ姫やヨーゼフは身の置き所がなく気まずい気持ちになるだろう。

僕はレベッカ姫の方に行こうとしたが、右腕をエレナローゼに、左腕をフィリックスに掴まれた。エレナローゼはともかく、フィリックスは何のつもりなんだ!

「エーレンフロイト様は、蝋纈染めのドレスね。しかも赤いドレスよ。もしかして、ブランケンシュタイン家のお茶会でも着られたというドレスかしら?どうして、同じドレスなんかを何度も着るのでしょう?」

とアデリナが言った。すると、エレナローゼは口元を扇で隠して言った。

「そんな事を言ったら可哀想よ。きっと新しいドレスを買うお金が無いのだわ。ふふふ。」

んなわけがあるかっ!

エーレンフロイト家は、全貴族トップ5に入る財産を持っているのだ。

エーレンフロイト領には海がある。そこから豊かな海産物と塩がとれる。

水晶の鉱山を持っているし、硅砂を輸出して莫大な外貨を稼いでいる。

エーレンフロイト家は、アイヒベッカー家の30倍以上の国税を国に納めてくれているんだよ!

「偽善活動とか、やってるからだろう。そのせいであの程度のアクセサリーしかつけられないなんて、みっともないよな。」

とダーヴィッドが言った。確かにレベッカ姫は紫水晶のブローチしかアクセサリーをつけていない。でも別に僕はシンプルイズベストで良いと思う。そもそも、水晶がエーレンフロイト領の特産品なのだ。

はっきり言ってエレナローゼのアクセサリーの量の方が異常だ。髪飾りにネックレス、ブローチにブレスレットにアンクレットに指輪と、これでもか、というほど宝石を身体中につけている。イヤリングだけは、平べったい銀細工で安っぽいが、こんなエレナローゼと結婚する奴は、金がいくらあっても足りないだろう。

視線の先では、アグネスとユスティーナ嬢が飛び跳ねるような足取りでレベッカ姫の側に近づいていた。優しい笑顔でレベッカ姫は二人に話しかけている。

会場が一瞬ザワっとした。

コンラートとジークレヒトが一緒に現れたのだ。普段ほとんどと言っても良いほど、社交的な集まりに現れない二人だ。しかも、二人揃って顔面偏差値が高い。何人かの令嬢がため息をついて二人に見惚れている。

「さすがは、アイヒベッカー家のお茶会ね。」

と言っている女の子がいた。

違う!

『さすが』なのはレベッカ姫なんだよ!

二人はレベッカ姫とヨーゼフに近づいて行った。それを見て僕の胸はズキっと痛んだ。レベッカ姫が二人に嬉しそうに微笑みかけたら、と思うと嫉妬で胸が焦げそうだ。ジークがヨーゼフに話しかける。

ジークとコンラート、ヨーゼフとエリアスの四人が話し始めた。それを一歩下がった位置でレベッカ姫は見守っている。

あれ?

じわりじわりと、レベッカ姫がフェードアウトをし始めたのだ。気がつかれないよう、そーっと、そーっと、ジークとコンラートから距離をとる。でも、コルネリア嬢がすぐに気がついて、レベッカ姫の側に寄って行った。レベッカ姫は金魚の入った金魚鉢を、じーっと見つめていた。それから大きなガラスの水槽に視線を移す。ジークが、レベッカ姫に呼びかけた。コルネリア嬢が振り返ったので、聞こえなかったわけではないだろう。なのに、なぜかレベッカ姫は無視をした。

なんだろう?

照れて、距離をとっているというのとは違う気がする。

よく、女の子達が男に向ける、好意丸出しのオーラがレベッカ姫の表情には一切ない。むしろ感じるのは、関わりたくない、というオーラだ。ケンカをしているような雰囲気でもないし、どうしたのだろう。

エレナローゼが、ジークとコンラートに声をかけに行った。僕の腕を掴んだままなので、僕も一緒に移動する。

「美しい午後の日ですわね。ジークレヒト卿、コンラート卿。」

この発言には、幾つものざわつく要素がある。

まず、エレナローゼよりジークレヒトの方が家格が上だ。初代宰相家であるヒルデブラント家は、筆頭侯爵家なのだ。

だから、最初の挨拶はエレナローゼからはしてはいけない。もしもしたら、うちの方があんたんちより家格が上なのよ、と言っている事になる。子供同士のお茶会とはいえ、無礼の極みである。

それに、初対面の男性は許可が出ない限り名前で呼んではいけない。まずは苗字を呼ぶべきなのだ。名前で呼び合う男女は、かなり親しい仲だと社交界では解釈される。何も知らない、周囲の女の子達は、そう思ったみたいで、また「さすがアイヒベッカー様」と言っている

「ええ、美しい午後の日です。アイヒベッカー令嬢。噂通りの慮外者ですね。名前で呼ぶ許可は出していないので名前では呼ばないでください。」

ジークは美しい微笑みを浮かべて言った。

この程度の毒舌、僕には予想の範囲内だったけど、エレナローゼはポカンとしていた。自慢の頭脳は、この返事を処理しきれなかったようだ

「おい!無礼なのは君だろう。ここが誰の家だと思っている!」

ダーヴィッドが、ジークを怒鳴りつけた。しかしジークは無視している。

そして、コンラート。

こいつがまた、何も言わない。目上の人間が挨拶してきたというのに。返事を返そうとしない。無表情で無言である。

確かに、エレナローゼの態度は悪い。しかし、お前達もここへ何をしに来たのだ⁉︎

そんな冷たい空気と世界が断絶しているかのように、レベッカ姫とヨーゼフの、のほほんとした会話が聞こえてきた。

「お姉様、お魚がいっぱいだね。」

「そうね。とても綺麗だわ。それに立派なガラスケースね。シンフィレア製かしら?すごいわね。」

「お姉様、ガラスに興味があるの?」

「ええ。私達の領地では硅砂がたくさんとれるけど、その硅砂のほとんどはガラス工芸が盛んなシンフィレア国に輸出してるでしょう。でもせっかくなら、自分達の領地でガラス製品が作れたらいいのに、って思うの。」

さすがレベッカ姫!領地の事にまで心を配って素晴らしい。感動してしまう。

「こちらのガラス鉢も綺麗ですね。中で泳いでいるお魚も宝石みたいです。」

とコルネリア嬢が言った。

「この鉢の中にいる魚は『金魚』っていうのよ、可愛いわね。」

「まあ、エーレンフロイト嬢も魚に興味をお持ちだなんて嬉しいわ。」

わざとらしいほどの大声で、エレナローゼが言った。会場にいる客達の視線がレベッカ姫とエレナローゼに集まる。

「美しい午後の日です。ご招待に感謝します。アイヒベッカー嬢。」

「同じ物を好きな方に会えるのは嬉しいわ。そうだ!エーレンフロイト嬢。こちらの水槽の魚達の事もぜひ、皆様に紹介してくださいな。」

おい!

エレナローゼの露骨な嫌がらせにムッとした。

水槽の中には、ぱっと見ても5種類以上の小魚がいる。そして別にレベッカ姫は、魚は飼っていない。なのに、わかるわけがないではないか⁉︎

レベッカ姫に「わかりません」と言わせて恥をかかせ笑いものにしたい、という魂胆が見え見えだ。

僕は、話題を変えようとした。

「それよりも、この蝶・・。」

「わかりました。あの下腹部に赤いラインのあるものはカージナルテトラ、尾びれの付け根に光る赤い模様があるのがホタルテトラ、淡いピンク色に白黒の模様の背びれのものはロージィテトラ、あの目が青い魚はアイスポットラスボラ、腹が赤く背中が青緑なのはラスボラアクセルロディ、そして薄い褐色に透明のひれのあの魚はグッピーです。」

・・・。

エレナローゼが何も言わない。間違っていたら、勝ち誇ったように間違いをあげつらうはずだ。という事は、レベッカ姫は全部正解したという事か?

「ベッキー様。あの尾びれがひらひらした魚は何ですか?」

コルネリア嬢が、レベッカ姫に質問をした。

「あれもグッピーよ。グッピーのオス。グッピーは性的二形と言って性別によって個体の姿形が全く異なっているの。ほら、カブトムシやクワガタムシ、それに孔雀とか鹿がそうでしょう。グッピーの場合、大きさはメスの方が大きいけれど、彩りはオスの方が美しいの。」

「そうなんですか。セーテキニケイっていうんですね。なるほど。人間もそうですよね。」

「・・・・・そうね。」

「なぜ、僕の方を見る。」

ジークがレベッカ姫をジロリと睨みつけた。

「すごい!レベッカ姫。魚に詳しいんだね。」

僕は叫んでしまった。

「美しい午後の日です。ルートヴィッヒ王子殿下にご挨拶申し上げます。魚は好きですので。」

少し恥ずかしそうな表情でレベッカ姫は言った。