作品タイトル不明
紙芝居とお茶会(1)
さっそく私は、ユリアにクレヨンを、ユスティーナに植物紙を取り寄せてくれるよう頼んだ。
コルネは今まで、色のついた絵を描いた事がない。初めて描くカラー絵なら、絵の具よりもクレヨンの方が使いやすいだろうと思っての事だった。
クレヨンは、蝋と顔料を混ぜて作られる。蝋の原料は、クジラ油とかカイガラムシの抽出物とかいろいろあるし、すでにこの世界には石油から分留されたパラフィンワックスもあるが、ここはせっかくのプレゼントなので豪華に香りの良い蜜蝋製の物にした。
クレヨンと紙が届くとコルネは、勉強そっちのけで紙芝居作りに没頭した
ハンドベルの練習もお休みである。
ちなみに、ハンドベル仲間は増えたり減ったりを繰り返しながら、現在私を含め8人がレギュラーである。
まずユリアーナ(13歳)。
そして、へレーネ(12歳)とミレジーナ(11歳)。
この二人は、エリーゼの親戚だ。つまり、元々エリーゼ派閥の子らで、現在エリーゼの指示で出向中なのである。
それから、伯爵令嬢で情報大臣の娘のアグネス(10歳)。
子爵令嬢で、製紙業の盛んな領地から来ているユスティーナ(12歳)。
伯爵の従兄弟の娘で、食べる事が大好きなリーシア(13歳)。
男爵の姪で、父親が国立大学医学部の教授のオルガマリー(12歳)。
以上である。
夏休みの前にエリーゼ様に
「貴女の派閥の序列五位まで私をエリーゼ呼びする事を許します。」
と言われて恐怖に震えたものだが(手紙の行方(6)での話です)、ヘレーネとミレジーナは元々『エリーゼ様』と呼んでいたので、残りが、アグネス、ユスティーナ、リーシア、オルガマリー、そしてユリアでちょうど五人だった。
ユリアは
「そんな・・私なんかが恐れ多いです。」
と蒼ざめていたし、アグネスなんかは
「えー、別にどうでもいいんだけど。」
とほざいていたのを、無理矢理呼ばせている。
エリーゼ様には逆らえないからな。
クレヨンを手にして以来、コルネは毎日毎日、絵を描く事に没頭している。
「夕食の時間だよー。食堂行こ。」
と言っても聞こえてない事があるくらいなので、今までとはまた違う意味で心配である。
ドロテーアには描いている途中の絵も見せるのだが、私には「恥ずかしい。」と言って見せてくれない。まあ、営利目的で紙芝居を披露するわけではないから、下手な絵でもかまわないんだけどね。でも、教科書に描いてた雀の絵から思うに、そんなひどい絵になる事はないと思う。
そして1週間が経過。
「できました。」
とコルネは言った。
「わー、見せて見せて。」
「はい。」
と不安そうな表情でコルネは言った。そんな、出版社に持ち込みをする新人漫画家じゃないんだから、緊張をしなくても良いのに。
絵は四枚あった。
「おおー!」
と私は思わず声が出た。想像の遥か上をいく上手さだったのだ。
例えるならば、そう、まるでビアトリクス・ポターの絵のようだ。エプロンドレスを着たレベッカちゃんは、黒が多めのサバトラ猫で、白いシャツにサスペンダー付きのズボンを履いているヨーゼフ君はチャトラ猫だ。
二足歩行をしているとはいえ、本物の猫のようであり、それでもびっくりしていたり、おいしそうにソーセージを食べていたりと表情がある。
とても、12歳が描いた絵とは思えない。
一枚目は、大きな窓のあるこじんまりとしたダイニングのダイニングテーブルの上に、キラキラ光る五芒星がのっていて、仔猫達が驚いている絵。
二枚目は、ダイニングテーブルの上に仔猫の身長くらいあるソーセージが出てきて、仔猫達がもっと驚いている絵。
三枚目は、レベッカちゃんの鼻にソーセージがくっついて、レベッカちゃんが顔を覆ってしくしくと泣いていて、そんなレベッカちゃんの頭をヨーゼフ君が優しく撫でている絵。
四枚目は、テーブルの側の椅子に座った仔猫達が、ナイフとフォークを持ってこんがりと焼けたソーセージを食べようとしている絵だ。
「すごい、すごいよ!コルネ。感動だよ!」
「そうですか。気に入って頂けて良かった。」
気にいるも何も、壁に飾っておきたいレベルの上手さだ。
「孤児院に持って行く前に、ユリアやエリーゼ様にお披露目しよう。」
私は、急遽週末にお茶会を開催する事を決めた。
そして週末。私はお茶会を開催した。招待したのは、ハンドル仲間の七人。エリーゼ様。それとエリーゼ様と親しくしている令嬢を二人。そして、コルネの事を落ちこぼれだと思っているだろう副校長に、マナー講師のシュトラウス先生。それとあと刺繍講師のブルーム先生をお招きした。本当は絵画講師も招きたかったが、絵画講師のライゼンハイマー伯爵夫人は、正社員の教師ではなく、週に二回アカデミーに来てくださる非常勤講師なのだ。私は絵画の授業を受けた事がなく、面識が無かったのでお呼びできなかった。
用意したお菓子は、レーリヒ商会に用意してもらったクッキーにヨーカン。しょっぱい物もあった方が良いかなと思っての塩味のナッツ。そして、エーレンフロイト家の料理人セナに焼いてもらったバウムクーヘンだ。お茶は、ユリアの伯母さんとお義母さんが届けてくれた、ちょっと珍しいお茶である。
私の開くお茶会でバウムクーヘンを出すのは初めてなので、エリーゼ様とコルネとユリア以外の皆は「わー」と顔を輝かせていた。
「おいしいですー。」
と言ってリーシアは何故か涙ぐんでいた。
バウムクーヘンとお茶の感動が一段落したところで、紙芝居の登場である。
あがり症のコルネの演技力と朗読能力が、短期間では向上しなかったので、コルネが一番セリフの少ないお星様の役だ。それでも、コルネは緊張でぶるぶる震えていた。残りの役は、私がレベッカちゃん。ユーディットがヨーゼフ君。ナレーションがドロテーアだ。
めくる役は私である。
一枚目の絵を見せると、皆の間に衝撃が走ったのがわかった。ブルーム先生など、かけていたメガネを急に外し、さささっと磨いてまたかけ直していた。さては、真面目に見る気が無かったな!
二枚目の絵を見せると、皆が更に息を飲んだのがわかった。
「まあ、可愛い。」とか「素敵な絵ねえ。おほほ。」とかいう合いの手さえ入らない。皆が食い入るように絵を凝視している。
三枚目の絵に入ると、一応笑いが起こった。良かった。一応、これはコメディーなのだ。最後まで静まり返っていられたら、あまりにもいたたまれない。
でも、本当は二枚目から笑いが起こる予定だったのに。そしてエリーゼ様。なんでレベッカちゃんがしくしく泣き出すところで笑顔がパワーアップするの!
そして四枚目が終わると。拍手喝采が起きた。