軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

もしも願いが叶うなら

「コルネ。私、孤児院の慰問でしてみたい事があるの。それに協力してくれない。あなたの力が必要なの。」

「何でしょうか?」

「紙芝居を作りたいの。」

『紙芝居』。

それは、アニメーションや、プロジェクションマッピングが発達した令和の世では、滅び去った昭和の遺物のように思われているかもしれないが、文子が育った児童養護施設では今も生息していたのだ。ひっそりと。

たぶん、うんと昔に購入したか寄付されたかして、大事に使用し壊れなかったので廃棄されなかったのだろう。

でも、その紙芝居達のおかげで文子は『桃太郎』も『シンデレラ』も知った。『赤い蝋燭と人魚』や『知恵のある百姓娘』みたいな、ややマイナーな童話も知った。

紙芝居の良いところは、絵本の読み聞かせと違って、大人数が一緒に絵を見、文章を聞く事ができるところだ。

孤児院向きな娯楽なのである。

私は複数枚の紙を重ねて、理論を説明した。

文章を一枚ずつずらす、というのがよくわかってもらえなかったようだが、まあそれは実際に作ってみたらわかってもらえるだろう。

「大きな紙とクレヨンは私が用意するから、コルネが絵を描いてくれない?」

「文章はどうするのですか?」

「私が作る。」

正確には、地球の話をパクる。

すでに、何にするかは考えている。

そんなに長い話ではないので、私は紙にすらすらと文章を書いた。

『昔々、もしかしたら未来。ある街に仔猫の姉弟のレベッカちゃんとヨーゼフ君が住んでいました。ある日、二人の家に流れ星が飛び込んできました。「二人がとっても良い子なので、願い事を何でも三つ叶えてあげましょう。」とお星様は言いました。「わー、すごい。何にしようかな?」とヨーゼフ君は言いました。』

『「私は、大きなソーセージが食べたいなあ。」とレベッカちゃんは言いました。そしたら、お星様は「その願い叶えよう。」と言って、ポンっと大きなソーセージを出しました。ヨーゼフ君は叫びました。「何で、大切なお願いをそんな事に使っちゃうの!もう、お姉ちゃまのバカ、バカ、バカ!こんなソーセージなんて、お姉ちゃまの鼻にくっついてしまえばいいんだ!」すると「その願い叶えよう。」とお星様は言い、大きなソーセージがレベッカちゃんのお鼻にくっついてしまいました。』

『「えー!」とヨーゼフ君は叫びました。願い事ができるのは後一回だけです。「どうしよう。」とヨーゼフ君は言いました。レベッカちゃんは「ソーセージがお鼻にくっついていたら、恥ずかしくてもうお外を歩けないよう。」と言ってシクシクと泣き出しました。そんなレベッカちゃんを見ているとヨーゼフ君は、レベッカちゃんが可哀想になりました。。「仕方がないなあ、お姉ちゃまは。」と言ってヨーゼフ君はお星様に言いました。「お姉ちゃまのお鼻からソーセージが取れますように。」「その願い叶えよう。」とお星様は言いました。』

『するとポロリとソーセージがお鼻から離れました。「それでは、さようなら。」と言って、お星様はお空へ帰って行きました。レベッカちゃんとヨーゼフ君は、ソーセージをじっと見つめて「うふふ。」「あはは。」と笑い出しました。そしてその大きなソーセージを焼いて食べました。「おいしいねえ。」「うん。とってもおいしいね。」おいしいソーセージをお腹いっぱい食べて二人はとても幸せな気持ちになりました。そんな二人のずっとずっと上のお空で、キラキラと満天のお星様達がいつまでもいつまでも輝いていました。』

「お嬢様が今、考えたのですか?」

と、ユーディットに聞かれた。

「まさか。子供の頃に聞いた話だよ。」

「そうですか。あまりのクオリティーの高さに驚きました。と言いますか、本当にお嬢様とヨーゼフ様の間でありそうな会話だったので。」

某童話作家の話を丸パクリしたものだ。ただ、本家の童話では登場人物は夫婦である。

「ちなみに、ここまでは前置き。1番大切なのは最後の一言なの。」

『もしも、あなたの前にお星様が現れたら何をお願いする?』

「孤児院の子供達に『何かお姉さんにお願いしたい事なーい?』って聞いても、なかなか本音は話してくれないでしょう。当たり障りのない事だけ言ったりしてさ。これは、子供達から本音を引き出す為の物語なんだよ。」

「なるほど。なかなかあざといですね。」

とユーディットに言われた。

「ほっといてよ。ちなみに三人なら、何をお願いする。」

「頭が良くなりたいです。」

とコルネが即答した。

「聞いた事が何でも覚えていられるくらい賢い頭が欲しいです!」

「なるほど。ドリーは?」

「そうですねえ。白髪がなくなったら嬉しいです。若い時に比べて髪が少なくなったし、小ジワも増えたし。」

「そうかー。でも、ごめん。二人共、それは私にはどうしてもあげられないわー。ユディは?」

「この前、お館に戻った時、ベティーナが風邪を引いていたのでそれが治ったらな、と思います。」

「看病の為に家に戻る?私にしてあげられるのはそのくらいだ。」

「結構です。もう治りかけてましたから。ちゃんとお医者様に見て頂きましたし。」

「あ!お願いは三回できるんですよね。だったら、お父さんの病気が良くなったらな、って思います。」

とコルネが言った。それも、如何ともし難いな。

「なら、私もさっきのは無しで。息子の健康や幸せを願います。」

とドロテーアも言い出した。

「そうですね。結局は家族と自分と親しい人達の健康と幸福ですよね。」

とユーディットも言う。

「やめてよー。ソーセージ食べたい。とか言った私がバカみたいじゃない。」

そしたら、三人は声をあげて笑い出した。

「ソーセージは驚きました。」

「お嬢様、そんなにソーセージがお好きだったんですか?」

「なんか、ソーセージってちょっと卑猥なイメージありますよね。」

コルネがそう言ったので、私とユーディットはポカンとした。

「コルネ様!」

と叫んで慌ててドロテーアが口を塞ぐ。

・・何か、この子今まで私の周囲にいたお嬢様連中とは、やっぱちょっと違うわ。目と鼻の先に義兄の愛人が10数人住んでいた、というだけあって、きっといろいろ耳年増になってしまったんだろうなあ。

「言っておくけど、アジフライとか、アップルパイとかいろいろ考えたんだからね。でも、孤児院の子供達でも知ってる食べ物で、食べた事があって、毎日は食べられない特別な食べ物だけど、頑張れば1ヶ月に1回くらいは食べられる物ってんで、ソーセージにしたの。」

と言いつつ、私は考えた。一見子供向けの童話でもエロやグロが盛り込まれているのはよくある事だ。もしかして、作者の童話作家も暗喩を忍ばせたのではないだろうか?そして、だからこそ、物語は何百年の時を超えて語り継がれたのだ。

「でも、そんなに変だと言うならバウムクーヘンに変える。」

「変じゃありませんわ。コルネ様の言う事は深く考えないでください。たいした意味は無いんですから!」

ドロテーアが慌てて言う。ユーディットは苦い顔だ。

「まあ、とにかく。この話の絵を描いてよ。猫だけど、二足歩行でお洋服も着てて。でも、猫じゃなくても、もちろん良いよ。犬でも、ウサギでもアライグマでも。動物の方が可愛いかな、と思ったけどまあ、人間でもいいし。」

「・・人間はやめてください。お嬢様にそっくりな肖像画で、鼻にソーセージがくっついたら、私泣いてしまいます。」

ユーディットが言うと、ぷはっとドロテーアが吹き出し、慌てて表情を引き締めた。

「私、猫が大好きなので猫の絵を描いてみます。」

とコルネは力強く言ってくれた。