作品タイトル不明
ローテンベルガー家の悲劇(2)
「ほほう。」
思わず低い声が出てしまった。
「今現在のエーレンフロイト家って、実のところ何がそんなにすごいの?ローテンベルガー家とどこがそんなに違うの?」
「エーレンフロイトとローテンベルガーは全然違う。エーレンフロイト家は、王国に5つしかない、私有の騎士団を持つ家門だ。」
「あー、外国と国境を接しているど僻地の領地は、騎士団が持てるんだっけ。」
「正確には、大陸公路がつながっている領地だ。外国と国境を接していても、国境に五千メートル級の山脈や千尋の谷があるような領地は持ってない。騎士団を所有しているのは、ディッセンドルフ公爵家、オーベルシュタット公爵家、ハーゼンクレファー公爵家、シュテルンベルク伯爵家、エーレンフロイト侯爵家の5つだ。」
「へー。」
長い名前をよく記憶しているものだ。
「エーレンフロイト家に濡れ衣なんか着せてみろ。騎士団が徹底的に抗戦するぞ。しかも、エーレンフロイト侯爵夫人はシュテルンベルク家の出身だ。嫡女のレベッカ姫になんかあったら、2つの騎士団が暴動を起こす。いくらディッセンドルフ家でも、騎士団2つは敵に回せない。」
それはどうかな?
いや、ディッセンドルフ家でも2つの騎士団は敵に回せない、って方じゃなくて。騎士団が徹底的に抗戦するって方。
騎士団の連中。お父様はともかく私の事はめっちゃバカにしてるからな。
「エーレンフロイト家は、過去に大変な不幸はあったが、それゆえに不忠者がトリミングされた。今も残っている騎士達は特別に主家に忠誠を誓う騎士達ばかりだ。一口に騎士団と言っても、他の家とはレベルが違う。」
へー、そうなんだ。アレでレベチな騎士団ならば、きっと他の家の騎士団は不満分子まみれでクーデター寸前なのだろうね。
「おまえ、なんか目が虚ろになってるぞ。話が難しかったか?」
「ううん。シュテルンベルクはわかるけど、他の家名がダラダラと長くてちょっと意識飛んだだけ。」
「ははは、わかるわかる。」
そうか、わかってくれるか。
「シュテルンベルクは特別な一族だもんな。子供でも知ってるよな。」
そっちかい!
「初代がなんか有名人なんだっけ。」
「おまえね。酒場とかカフェでそういう投げやりな事言うと袋叩きにされるぞ。別にアンケートをとったわけではないけれど、俺の体感的に、シュテルンベルクは王都民に1番人気のある貴族家なんだからな。」
「へー。」
「『聖女エリカ』様の崇拝者は今でも多いし、現在の当主は評判も良い。宰相に次ぐ次席大臣の医療大臣をしてるんだぞ。」
「宰相に次ぐ大臣って、そういうのって軍隊とかお金扱ってる大臣じゃないの?」
「国の成り立ちに、聖女エリカ様がガッツリ絡んでるこの国は、西大陸で一番医療の進んだ国だ。だから、次席は医療大臣なんだ。」
おいしいお菓子をくれたりハンドベルをくれたり、気前の良い親戚のおじさんだと思っていたが、そんな偉い人だったのか。知らんかった。
「50年前はエーレンフロイト家も公爵家だった。だから、シュテルンベルク家は、唯一の公爵家以外で騎士団を所有している一族だったんだ。国の歴史上どれだけ重要な一族かわかるってもんだろ。第二王子の婚約者は、そのシュテルンベルクの血を引くエーレンフロイトのお姫様だ。物理的には最強だ。」
「そんな理由で婚約者を選んだわけ?打算的過ぎてなんかちょっと・・。」
「いいじゃないか。最初から一緒になれば不幸になると分かりきっている女と結婚して、結局不幸のどん底に突き落としました。ってより、俺はよっぽど立派だと思うがね。」
・・・そういえば私も、5分前まではそう思っていたのだった。
我が身の事と考えると、冷静に思考するのが難しい。
「しかも、レベッカ姫は、一個人としても強いからな。海賊のボスに人質にされて、そのボスを自力で叩きのめすなんて、ディッセンドルフ家が雇った暗殺者もさぞ、ぞっとした事だろう。」
私が今ぞっとしたわ!暗殺者とか雇ってるの⁉︎
思わず、キョロキョロと辺りを見回してしまった。
「『ローテンベルガー家の名誉は回復された』ってさっき言ってたけど、ローテンベルガー家を陥れた人は罰を受けたの?」
「それは無理だな。王様の母親と王妃様の父親だぜ。そこを追及したら、王様自身に累が及ぶ。」
だったら全然意味がねえ!
「それに、名誉が回復した時にはもう両方とも死んでいた。王様の母親は、はしかで。ディッセンドルフ公爵は、狩りをしている最中に行方不明になって、その後クマに食い殺された死体が見つかった。クマに生きたまま食われたのか、何者かに殺されて放置された死体をクマが食ったのかは謎らしい。まあ、当然ながらいろんなところで恨みを買ってた人間だからな。」
ぞっとする話が2連発だ。ヒルデブラント邸でドーベルマンにかじられかけた事を思い出してしまった。貴族家の当主がそんな死に方をするとは、明日は我が身かもしれないので素直に『ざまあ』とは思えない。って言うか、クマどこにいたの?領地?それとも王都の側?
「はしかで、って、王様のお母さんは第一王子と同じ死因で死んだの?」
「それが、はしかの恐ろしいところさ。王妃様も、第一王子と同じ時にはしかに感染し回復したように見えた。ところが脳内では病原菌に持続感染していた。そしてゆっくりと脳の炎症が進んでいき、何年も経ってから死に至ったってわけだ。正式な病名は『亜急性硬化性全脳炎』だったかな。だいたい、はしかになってから5年から10年経って発症するから、亜急性というんだ。ちなみに治療法は無い。」
「・・そんな病気があるんだ。」
「はしかにかかった人間の中で、かかるのは数万人に1人と言われているから、珍しい症例ではあるのだろうけどな。当時は『第一王子とローテンベルガー家の呪いだー』とか言ってた人も多かったぜ。まあ、呪いと思いたい気持ちもわかるけど。だって、はしかにかかったけど治った、って王都民いっぱいいたんだぜ。自分もなるかも、と不安になるより『アレは悪事の報い』って思いたいよな。」
私も思いたい!なぜなら、私レベッカも10年くらい前にはしかになってるの。その頃は、お父様が法科大学に通ってて、隣国のアズールブラウラントに住んでいて、その国で流行ったのだ。小さい頃になったから軽症ー。免疫ついてラッキー。と思ってたけど、やだ何それ怖い!
それに私って、いろんな人に『邪魔者』って思われてるのね。
第二王子にだけ思われてるのかと思っていたけれど、第一王子の関係者にはより深く思われてるって事だよね。当たり前だけど。
私っていったい誰に殺されたんだろう?
と今更ながら考えた。
ディッセンドルフ家の関係者って可能性もあるし、それにローテンベルガー家の存在も不気味だ。
ローテンベルガー家が、次の王様になって欲しいと思っているのはきっと第三王子だろう。家臣の娘が生んだ子供なのだから。
第一王子と第二王子が争って、勝ち残った方を更に排除すれば、第三王子に王座が転がり込んで来る。
『ローテンベルガーは家畜のようにおとなしい』って噂されてても、本当に噂通りおとなしいかは分からない。噂というものがまるで当てにならないのは我が家の噂を聞いていたらよく分かる。それにそもそも、家畜ってあんまりおとなしくないよ!
日本にいた頃、外国の話だけど、飼ってたブタに飼い主が食い殺されたってニュースをテレビで見た事あるし、文子の親友の農家の子がペットに飼ってたニワトリは、お客様(私)に飛び蹴りくらわしてきたりしてたからね。
デリクの話を全て鵜呑みにはできないけれど、でも我が家が平民の方々にどう思われているのか、客観的な意見を知る事ができて良かった。
と思いながら、私は昼食の皿洗いをする為立ち上がった。
ああ、それにしても貴族社会は闇が深い。