軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

番外編6 レゼダとイリスのおままごと

魔導宮のマントを着けた物々しい魔道士達の後ろを、スカーフをかぶった少女と帽子をかぶった少年が荷物を持って歩いている。

なんともチグハグな組み合わせだが、最近よく見かける風景で町の人々はニコニコとした眼差しを彼らに向けていた。

魔道士見習いと呼ばれている少女と少年は、イリスとレゼダである。今日はワクチン普及のため手伝いをしているのだ。

町の教会の片隅を借りて、希望者にワクチンの吸引をする。魔道士達が説明をし吸引させる。イリス達は接種前後の待ち時間に説明をしたり、子供と遊んだりしているのだ。

接種に怯える子供達も、年の近いイリス達が遊んでくれるので少しは緊張がほぐれるらしい。

「おねーちゃんは、ママね!」

小さな子供がイリスの手を引っ張る。

「で、おにーちゃんが、パパ! おにーちゃんが『ただいまー』って帰ってきて?」

どうやらおままごとをするらしい。

イリスとレゼダは顔を見合わせ笑う。

「ただいまー」

レゼダは子供の指示に従った。

「ほら、ママ! 『あなた! なんで毎日帰りが遅いの! 浮気しているのしってるのよ!』って言って!!」

ツインテールの女の子にけしかけられてイリスは思わず噴きだした。

「っは? え? なに? いきなり修羅場!?」

「そしてパパ!『煩い! 俺は仕事で疲れてるんだ!!』よ!」

レゼダもゴホゴホと咽せている。

「それでママは泣くのよ!『仕事仕事って……ごまかされないわっ!』」

フンスフンスと力説する女の子を前に、レゼダはニッコリと微笑んだ。

王子様スマイルを向けられて、女の子はポッと頬を赤らめ口を噤んだ。

レゼダのイケメンオーラは幼女すら陥落させるらしい。

……さすが、レゼダ殿下。

イリスは呆気にとられてレゼダを見ていた。

するとレゼダがイリスに顔を向ける。唐突に目が合って、イリスは驚いた。

「僕は嘘でもイリスにそんなこと言えないな」

そういうと、そっとイリスの手を取って、手の甲に口づけた。

イリスはボンと沸騰する。子供達はワーッとはやし立てる。

「っあ、ちょ!」

「ほら、子供達のために正しいパパとママ、しなくちゃ、ね?」

レゼダがウインクをする。

「『ただいま、ママ』」

イリスはメダパニだ。

正しいパパとママ? 正しい夫婦ってなによ?? この世界の下町の夫婦ってどんな感じなの?

イリスはうーんうーんと唸りつつ、引きずり出したのは思い出したのは前世の記憶だ。

あ! そうだ! そういえば、ハナコロの薄い本で、カミーユたんがレゼダに言ってた! カミーユたんは下町育ちなんだから、きっとこれが正解ね!

イリスはひらめく。

「あなた、お帰りなさい! ごはんにする? お風呂にする? それとも、わ・た・し?」

ノリノリで小首をかしげると、レゼダがカーッと顔を赤らめて、口元を押え、視線を彷徨わす。

子供達はキョトンとしている。

シーンとした空気の中で、イリスは我に返った。

やっ、やってしまったー!! 薄い本をソースにリアルで行動してはいけなかったー!!

「あ、わ、ごめんなさいっ! ふざけすぎましたね? 忘れてください! なかったことにっ!!」

ワタワタとイリスが手を振って後ずさる。

恥ずかしすぎる! 穴があったら入りたい!

「おねーちゃん、かわいいー!! あたしも! あたしも!」

ツインテールの女の子はそう燥ぐとイリスのセリフを繰り返した。

「『それとも、わ・た・し?』」

その子を皮切りに、周囲にいた子供達がキャッキャと真似をする。言葉の真意を理解しないからこその屈託のない言葉遊びだ。

「やーめーてー! 真似しないで!」

イリスは顔を真っ赤にし、真似をする子供達を追いかける。

子供達はめいめい散らばって、追いかけっこの初まりだ。『鬼さんこちら』のかわりに『それとも、わ・た・し?』と燥ぎながら逃げ回る。

「こらー! もうやめなさいってばー!!」

イリスは自慢の俊足で、子供達を次々に捕まえに走る。

取り残されたレゼダはポカーンとその様子を眺めていた。

「とても盛り上がっていますね」

レゼダに声を掛けたのは、魔道士のシティスだ。

「うん」

「あの『それとも、わたし』というのは下町で流行っているのですか?」

シティスが真面目な顔をして尋ねる。

レゼダは思わずクスリと笑う。

「僕も知らなかった」

そう答えつつ、小首をかしげて尋ねるイリスを思い出し、思わず口元がニヨニヨとしてしまう。

イリスは既に最初の目的など忘れてしまったかのように追いかけっこに興じている。そんな単純なところもレゼダには可愛らしく思えるのだ。

幸せそうなレゼダの様子にシティスは微笑ましく思う。

イリスと知り合う前のレゼダは、小さいながらも王子然として振る舞っていて隙がなかった。そのことをシティスは心配していたのだ。

しかし、イリスと一緒のときは子供らしい表情を垣間見せる。また、自分の意思で政治に関わろうとすることも増えてきた。今までのレゼダは自分から前に出ることはなかった。いつでも兄より一歩下がり、自分の気持ちを表すことは少なかったのだ。

イリス嬢に出会ってから、レゼダ殿下は良い刺激を受けられているようですね。

シティスはレゼダごしにイリスを見た。イリスは侯爵令嬢とは思えない勢いで、子供達を追いかけている。

すでに捕まえられた子供達は集まって、最後のひとりを応援している。

「つかまえたー!!」

イリスは最後のひとりを捕まえると、肩で息をしながらレゼダの元へ帰ってきた。

「やっと、おわりました! ぜーんぶつかまえてあげたんだから!」

ニコニコと満足げに笑うイリスに、レゼダも微笑む。

「おかえり。ごはんにする? お風呂にする? それとも、ぼ・く?」

レゼダはコテンの小首をかしげる。

ブッとシティスは噴きだして、イリスは思わず叫んだ。

「もー! 私のライフはもうゼロよっ!!」