作品タイトル不明
第七百二十四話 三方向の援軍
「くそっ……!!」
帝都のすぐそば。
最後の守備軍を打ち破り、帝都に攻めかかろうとするレオたちの前に立ちふさがったのは無数のモンスターたちだった。
南部で門が開いた時と同じ。
無数のモンスターが門より出てきたのだ。
その数は南部の時の比ではない。
見渡すかぎりモンスター。
その多くがアンデッド系のモンスターではあるが、中には見たことがないモンスターもいる。
このモンスターたちを突破しなければ、帝都にはたどり着けない。
さらに帝都には結界がある。
こんなところで戦力を消耗している場合ではない。
それはよくわかっていた。
けれど。
「後方の陛下に援軍要請を!」
レオは前線の指揮官として判断を下した。
■■■
「レオナルト殿下より援軍要請です!」
帝都に攻め込むレオの軍勢は一万程度。
西部諸侯連合軍や連合軍の主力は後方で待機していた。
わかっていたからだ。
帝都の結界をどうにかするには火力がいる。
それも尋常ではない火力が。
だから、露払いはそれ以外で行いたかった。
だが、そう簡単にはいかなかった。
「私が出ましょう」
「勇爵は待機だ。クライネルト公爵、西部諸侯の出番だ。出られるな?」
「もちろんです、陛下」
指示を受けたクライネルト公爵は馬に跨ると、西部諸侯たちに号令をかけ始めた。
それを見ていた勇爵が口を開く。
「敵の数が多すぎます。私も出るべきかと」
「それには及ばん。ワシの護衛に戦力を割く必要もあるまい。出られるか? アリーダ」
「陛下の仰せとあらば」
勇爵は結界への攻撃において要。
ゆえに皇帝は信頼する近衛騎士団も投入することにした。
しかし。
「近衛騎士隊長も数が減ったな……」
精強を誇った近衛騎士団。
その数は半数以下まで減っていた。
第二近衛騎士隊長、第四近衛騎士隊長、第五近衛騎士隊長、第七近衛騎士隊長、第十近衛騎士隊長、第十二近衛騎士隊長。
計六名の隊長が王都での決戦で命を落とした。
そしてエルナは不在。
ここには五名の近衛騎士隊長しかいなかった。
それでも。
「数が減っても……近衛の矜持は消えません。白いマントに恥じぬ戦いをお見せしましょう」
「……大丈夫か? アリーダ」
ヨハネスは近衛騎士団長であるアリーダに問いかける。
大丈夫なわけがない。
ヨハネスは問いかけたあとに、すぐに自分の問いを恥じた。
アリーダはテレーゼの実の妹だ。そしてヴィルヘルムは姉の夫。義兄にあたる。
ショックを受けないわけがない。
すでに弟を亡くしている。そのうえ姉も命を落とした。
さらに敵は義兄の姿を借りている。
普通の者なら戦えるわけがない。
だが。
「ご心配には感謝します。しかし、私は帝国の近衛騎士団長。親族が命を落とそうと……蹲るわけにはいきません。それに……私より辛い方が傍におられるのに悲しんでもいられません」
アリーダは悲し気にヨハネスを見つめた。
アリーダにとってヨハネスは自分のすべてだった。
父の親友であり、幼い頃からずっと見てきた。もちろん、どれほどヨハネスが子供たちを大切にしてきたかも、よくわかっていた。
近衛騎士となり、剣を捧げた。
皇帝として国のために心を砕く姿を間近で見てきた。
だから、わかる。
次々と舞い込んでくる訃報によって、ヨハネスが今にも倒れそうだということが。
それでもヨハネスは皇帝として振る舞っている。
それが必要だから。
ならばこそ。
「アリーダ……」
「散っていった戦友たちに報いるためにも、ここで負けるわけにはいきません。幸い、敵は人間のフリをすることをやめたようです。気兼ねなく帝都を攻められるというもの」
敵の動きは変わった。
あくまでヴィルヘルムとして動いていた時とは違う。
なりふり構わず、魔界からのモンスターを使っているのが良い証拠だ。
ヴィルヘルムであると誤認させることに固執しなくなった。
その必要がなくなったのか、それともそういう状況でなくなったのか。
どちらにせよ。
余計な迷いを抱かずに済む。
「近衛騎士団!! 出るぞ!!」
アリーダは馬に跨ると出陣し、残る近衛騎士隊長たちも後に続く。
その後ろ姿を見ながらヨハネスは呟く。
「状況は最悪だな……」
モンスター相手に近衛騎士団を投入することになった。
どれほど敵に悪魔がいるかもわからない。
帝都の結界も突破しなければいけない。
援軍は期待できない。
やらねばいけないことばかりだが、手が足りない。
「悪魔が出てくる前に帝都を占拠したいところだが……さすがに難しいか」
「帝国内の戦力では落とせないと判断して結界を発動させているでしょうから、難しいかもしれませんな」
「舐められたものだ」
ヨハネスがつぶやいた時。
戦場に角笛の音が響いた。
それを聞き、ヨハネスはニヤリと笑う。
「所詮我らは本命までの前哨戦……しかし、爪痕くらいは残させてもらうぞ。悪魔ども」
■■■
「守備軍がなかなか手強かったせいというのもありますが、少し遅くなりましたね」
「けれど、間に合ったわ」
東部より来たのはリーゼロッテの軍だった。
リーゼロッテの横にいたミツバは、表面上は帝都が無事であることにほっと息を吐く。
いつ帝都がなくなっていてもおかしくはない状況だ。
帝都が無事ならば、中にいる民も無事かもしれない。
「義母上、後ろへお下がりを」
「……頼んだわね、リーゼ」
「お任せを」
ミツバを後方に下げると、リーゼは剣を抜く。
そして。
「モンスターに囲まれるレオを助けに行くのは二度目か」
「僕は初めてですね、前回は惜しくも露払いでしたので」
リーゼの横に進み出たユルゲンがそんな軽口をたたく。
そんなユルゲンの軽口にリーゼはニヤリと笑った。
「そうだったな。では、遅れるなよ? ユルゲン。今回は隣にいろ」
「もちろんです」
「東部連合軍! 出るぞ! 目標は帝都! まずはモンスターの数を減らす!」
駆けだしたリーゼに従って、東部国境守備軍と東部諸侯たちが突撃を開始する。
そんなリーゼたちから少し遅れて、二つの角笛の音が響いた。
それを聞き、リーゼは微笑む。
「ユルゲン、どうだ? 私の弟妹たちは。まだまだ幼い二人が見事、軍勢を引き連れてきたぞ」
「さすがは殿下の弟君と妹君ですな」
「いずれお前の弟妹にもなる」
「はい!? 今、なんと? 聞こえませんでした!」
全力疾走の馬上。
しかも突撃のために皆が雄たけびをあげている。
叫んだとしてもなかなか声が通らない。
しかも、あえて少し小声で言ったため、ユルゲンが聞き返してくる。
「聞こえづらかったか?」
「ちょっと、上手く聞こえなかったですね……申し訳ありません」
「では、帰ったあとの楽しみに取っておけ」
そう言うとリーゼはコキリと首を鳴らす。
かつては兄たちと共に戦場へ出た。
今は弟妹たちと戦場へ出ている。
自分には見本がいた。今は自分が見本となるときだ。
「戦働きとはどういうものか……見せてやらんとな。全軍! 私に続け!!」
モンスターを蹴散らしながらリーゼは先陣を切っていったのだった。
■■■
「突撃開始!!」
ルーペルトが剣を振り下ろすと、北部諸侯連合軍が進撃を開始した。
けれど、その中心にいるのは北部諸侯ではなかった。
「藩国の騎士たちよ! 北部の騎士たちよ! 今こそ勇猛さを見せる時!! 帝都は難攻不落! ゆえにこそ! 一番乗りは自分たちがいただくであります!!」
藩国から騎士を率いてルーペルトに合流していたトラウゴットは、頑なに先陣を譲らなかった。
頑固な北部貴族ですら、あまりの頑なさに先陣を譲らざるをえなかった。
それほどの覚悟でトラウゴットは戦場に出ていた。
「トラウゴット陛下! 無理はなさらないでください!」
「わかっているでありますよ! シャルロッテ嬢! 無理はしないであります! ただ……帝都にふんぞり返っている我が兄の偽物を一発殴りにいくだけであります!!」
「それが無理だと言っているんです! まずはモンスターの掃討からです!」
「ではその後に!」
「その後は結界の破壊です!」
「ではその後に!」
「その後は城攻めです!」
「ではその後に!」
「それならご自由に! 余力があればですが」
「それなら心配ご無用」
言いながらトラウゴットは大剣を振るって、モンスターを両断する。
「この日のために剣の稽古をしてきたであります!」