軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第七百二十五話 大逆人ヴィルヘルム

「殿下は後ろにお下がりを」

現れた南部諸侯連合軍。

突撃前。

クリスタに下がるように告げたのはシュタイアート剣爵だった。

エメルト剣爵と対峙していたシュタイアート剣爵は、もう一つの剣爵家、ヘルムート家と合流して状況を打破しようとしたが、帝都周辺は敵だらけ。

包囲されないように動き回ることしかできなかった。

ヒットアンドアウェイを繰り返し続けた。大した被害は与えられないが、それでも鬱陶しいとは思わせられた。

逃げることもできたが、あえてそれはしなかった。

敵の本拠地近くにそれなりの勢力がいるということが大切だったからだ。

いずれ状況は変わる。

幸いなことに剣爵家への対応はエメルト剣爵に任されており、エメルト剣爵は自らの手で二人の剣爵を討つことに拘った。

その結果。

守備軍を突破してきた南部諸侯連合軍と剣爵家の軍に挟まれ、エメルト剣爵は命を落とした。

最期まで助けが来ると信じて。

「……下がっても一緒」

「ですが……」

クリスタの返答にシュタイアート剣爵は顔をしかめた。

まだ成人前の皇族。

ここまで軍勢を引き連れてきただけで十分すぎる働きだ。

戦場での働きは自分たちに任せてほしい。それが本音だった。

しかし。

「……ここで負けたらすべて終わり」

「負けませぬ」

「そう……だから私はここにいないと」

クリスタは傍に控えるネルべ・リッターたちに目配せする。

すると、ネルべ・リッターは旗を掲げた。

皇族の旗。

それを見て、南部諸侯連合軍の士気が上がる。

「ジンメル侯爵」

「はっ」

士気は十分。

視線の先にはモンスターたちに手こずるレオたちがいる。

本当なら自分が駆けつけたい。

けれど、それは叶わないから。

「先陣を任せる」

「お任せください」

指示を受けたアロイスは前へ出る。

そんなアロイスの背中にクリスタは声をかけた。

「……アロイス」

「はっ」

「……死んじゃ駄目」

「殿下の仰せのままに」

アロイスは微笑むと、剣を掲げて南部諸侯に号令をかけた。

「クリスタ殿下の命である!! 帝都を我らの手に取り戻す!! 今こそ!! レオナルト殿下に恩を返す時!! 突撃開始!!」

南部諸侯が突撃を開始する。

これで帝都は四方から攻撃を受けることになる。

しかし、相手はモンスター。

数も多い。

モンスターを排除するにはまだまだ時間がかかる。

その間に悪魔が出てくることも考えられる。

「……剣爵家、ネルべ・リッターは待機。悪魔が現れたら……向かってもらうから」

「……かしこまりました」

悪魔と戦うことの恐ろしさは十分わかっている。

死んで来いと言うようなものだ。

それをクリスタがあえて口にした。

この幼い皇女も覚悟をもって出陣してきている。

シュタイアート剣爵は認識を改め、静かに一歩下がったのだった。

彼女もアードラーなのだとわかったから。

■■■

「このままだとキリがないな……!」

レオは皇剣を握りしめながら呟いた。

帝国軍の切り札は皇剣とレティシアの聖杖。

さらにレオは聖符の準備もしていた。

いざとなればまた同時使用で結界を壊す。

もう一度使えば、体にどれほど負担があるかわからない。

それでも。

「ジリ貧よりはマシか……」

モンスターに戦力を割かれすぎた。

このまま時間を稼がれたら敵の思う壺。

大きく動く時だ。

だが。

「殿下! 左翼が劣勢です!」

「近衛騎士団を向かわせるんだ!」

疲れを知らないうえに数の多いモンスター。

対処に時間を取られる。

レオがここを離れたら、間違いなくこの場が劣勢となるだろう。

大きく動きたくても、大きく動こうとするだけで戦局が変わってしまう。

身動きが取れない。

そんなレオの背後。

モンスターが迫っていた。

振り返りながら倒そうとするレオだったが、その前にモンスターは消滅した。

そのモンスターだけではない。

周囲のモンスターが一瞬で消滅した。

「何かやりたいことがあるならやればいい。敵は引き受ける」

真っ黒なマントに赤いマフラーを巻いた男、ヘンリックだ。

二本の杖による攻撃でレオの周辺を一瞬で掃除してみせた。

手練れ。

そう認識し、レオはヘンリックに背中を預けた。

「助かるよ。君の名は?」

「名乗る名はない」

そう言うとヘンリックは周辺のモンスターを次々に倒していく。

さらに援軍は続く。

「ジーク様、華麗に参上!!」

「やぁジーク、助かるよ」

「任せておけ! このジーク様が来たからには! あれ? 終わってる……」

周囲のモンスターはあらかたヘンリックが片付けてしまった。

じきに新たなモンスターは来るだろうが、少しの空白。

それがレオには大事だった。

「ここを任せてもいいかい?」

「この胡散臭いマフラー男とか? マジかよ……」

「熊に言われたくはない」

「なんだと!? この愛くるしい姿が目に入らねぇのか!? 見ろ! こっち見ろ!」

見ようともしないヘンリックに対して、ジークは飛び跳ねながら自分の存在を誇示する。

だが、ヘンリックは興味なさそうに二本の杖を構えた。

「行くなら行け」

「……ありがとう。名は名乗ってくれないのかい?」

「名乗る名はない」

「そうかい……」

短いやり取り。

けれど、なぜか信頼に足ると判断できた。だからレオはその場を二人に任せた。

とりあえず二人がいれば戦線は維持できるはずだから。

「結界を破壊する! レティシア!!」

「……」

鷲獅子に乗り、空に上がったレオは皇剣を構えた。

もちろん聖符の準備もしている。

声をかけられたレティシアは少しためらった。

二つの四宝聖具に、皇剣。

それは絶大な力をもたらすかわりにレオの体に負担を与える。

対悪魔ならわかるが、結界の破壊のためにそれをするということは、その後も戦い続けるということ。

一体、どれほど体を蝕むか。

だが。

「大丈夫、僕を信じて」

「……はい」

レオに促され、レティシアは聖杖を掲げる。

最大威力の一撃で結界を破壊する。

予定にはない。

本来ならモンスターの掃討後、全軍で結界を破壊するはずだった。

しかし、時間を掛けている暇はない。

たしかに体への負担はあるだろう。

とはいえ、逆に言えばそれだけ。

「ここで結界を破壊できれば形勢は傾く……!!」

壊せるかどうか。

微妙なところだ。

現在、帝都に展開されているのは大結界・ 天球(フィルマメント・クーゲル) 。

帝都を守る最後の砦。

全力発動状態であれば何人の侵入も許さない絶対防御。

聖剣での突破も難しい。

それを突破できるかはわからない。

けれど、やるしかない。

現在、最高火力は自分だ。

「結界さえ破れば後に……!?」

繋がる。

そう言おうとしたレオは突然、結界から伸びてきた糸に絡め取られた。

そして一瞬で結界の中へと引きずり込まれたのだった。

球体状の天球。

そのうえに四角い空間が作り出されていた。

そこにレオは引きずり込まれた。

「天球に少し手を加えて作ってみた。アードラー以外は侵入できない決闘場といったところだな」

「……お久しぶりというべきですか? ヴィルヘルム兄上」

その四角い空間。

結界で形成された決闘場にヴィルヘルムがいた。

そしてヴィルヘルムは腰の剣を抜く。

「アードラーの数は減った。戦える者はわずか。お前を消せば戦意も挫けるだろう」

「同じことをそのままお返ししますよ」

声も顔も完全に記憶通りの長兄。

それに対してレオは皇剣を構えた。

「ここでお前を討てば戦いは終わる。大逆人ヴィルヘルム、帝国皇子として僕はここで……お前を討つ……!!」