軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六百八十二話 発明皇帝

「約三百年前……この帝剣城は作り上げられた。当時の皇帝の名はフリードリヒ・レークス・アードラー。発明皇帝と呼ばれるほど、稀代の天才だった。悪魔の脅威が少し人々の心から薄れ始めた頃、フリードリヒは真面目に対悪魔について考えていた」

その時点ですでに悪魔の侵攻は遠い昔のことだ。

帝国は大陸中央部で覇を唱え始めており、各国の仮想敵は悪魔ではなく、あくまで人類の国となっていた。

それでもフリードリヒは悪魔を研究し、その脅威をしっかりと感じ取ることができる皇帝だった。

「拡大していく帝国の中で、フリードリヒは知恵者を集めて、発明品について様々なアイディアを募集した。そんな知恵者の中にいた一人の魔導師。その魔導師は、魔力を集めることができる城を提案した。無茶な話だが、フリードリヒにはそれを実現できる技術があった」

他者が鼻で笑うようなアイディアを、フリードリヒは拾い上げる資質があった。

天才ゆえにほかの者とは違う視点で物事を捉えることができたからだ。

「そして、フリードリヒは帝都の象徴として帝剣城の建築に取り掛かった。古代魔法文明の遺跡を一部流用する形で作られたこの巨城は、当時、考えられる限りの技術が導入され、以後、常に皇帝の居城となった。その神髄は、魔力の集積。城は帝国の象徴であり、帝国中から大地を通じて魔力が集まる。人々が自然と発している僅かな魔力。憧れや興味、あるいは憎しみや怒り。感情と共に動く小さな魔力。それを集めることができた。ゆえに帝剣城は多くの機能を持つ最強の城となった」

帝剣城。

その中を歩くヴィルヘルムは、淡々と語り続ける。

それを聞くのは後ろに続くエリクだった。

「しかし、フリードリヒは満足しなかった。帝国の象徴となったこの城は偉大な発明といえたが……フリードリヒには物足りなかったのだ」

明確な脅威が見えていた。

ゆえにそれを払える武力を求めた。

対人類を想定するならば、過剰すぎる武力を。

それこそ、聖剣に匹敵する武器を。

「そこでフリードリヒは再度、多くの知恵者にアイディアを求めた。その中の一人、帝剣城の時にもアイディアを出した魔導師が、帝剣城で集めた魔力を流用する武器を提案してきた。荒唐無形だが、古代魔法文明の遺産を使えば実現できそうなアイディアだった。天才であるフリードリヒは古代魔法の遺産すら改良できた。まさしく、天才だった」

開発されたのは、帝剣城が集めた魔力を自在に操ることができる皇剣。

あまりの威力に、作った本人が恐怖に襲われて封印してしまうほどの代物だった。

「皇剣を作り上げてしまったフリードリヒは、よくアイディアを出してくれた魔導師に相談した。この城と剣をどうするべきか、と。その魔導師は、アードラーの血筋にしか使えないようにすればよいと言った。帝剣城の各種機能もそういうロックをかければ、大惨事は回避できると説いた」

ヴィルヘルムが歩いているのは帝剣城の地下。

通常、知られている最下層よりもさらに下。

帝剣城の心臓部ともいえる場所だった。

厳重なチェックもすべてパスしていく。

アードラーゆえに。

「帝剣城が集積した膨大な魔力も、それを操る皇剣も。来るべき時まで封印しておけばいい。いつか、必ず必要となる時が来る。そう言われて、フリードリヒは納得した。そしてアードラーの血に反応する各種ロックが開発されたわけだ」

宝物庫に存在する血を媒介とする危険な魔導具の数々は、その時に生み出された物だ。

そのほとんどが古代魔法文明時代の遺産を改良したもので、現在の技術では再現するのが難しいモノばかり。

それらをフリードリヒは未来に向けて残した。

悪魔への対抗兵器として。

「さて、ついたぞ」

ついたのは地下室とは思えないほど明るい部屋だった。

その中心部には直径数十メートルの宝玉があった。

質の高い最高純度の宝玉を〝虹天玉〟と呼ぶが、それはそれすら圧倒的に凌駕するものだった。

「かつて古代魔法文明が残した巨大宝玉。その名も〝神玉〟。これによって帝国中から魔力を集めるなどという壮大な強奪が可能となる。これが帝剣城の心臓であり、すべての要」

まるで太陽のように輝く神玉。

それにヴィルヘルムは近づいていく。

そんなヴィルヘルムにエリクは問いかける。

「ずいぶんと……〝詳しいな〟?」

「設計に携わったからな。皇帝フリードリヒの隣に立ち、無数のアイディアを出した魔導師。大した魔力もなく、何の脅威にもならない魔導師。それが当時の私だ。なんとか依代として見つけた魔導師を使い、私はよき相談役となった」

その無理が祟って、しばらくはまた動けなくなったがな、とヴィルヘルムは笑う。

そして。

「この帝剣城は大地を伝って、魔力を集める。つまり、帝国中の大地と繋がっているということだ。集めることができるなら、こちらから大地に流すことも可能」

ヴィルヘルムは右腕を伸ばし、神玉に触れる。

アードラーの防衛装置が発動すれば、即座に死亡するが、それは発動しない。

ニヤリと笑いながらヴィルヘルムは呟く。

「弱体化した我が権能でもこれを利用すれば、それなりの力を見せることができる!」

ヴィルヘルムは神玉を利用して、権能〝精神支配〟を帝国中に流し込む。

それは地震を巻き起こし、やがては帝国中に衝撃波を走らせた。

その変化を見て、ヴィルヘルムは満足そうにうなずく。

「ご苦労、フリードリヒ。たしかに必要となる時が来たぞ」

笑みを浮かべ、フリードリヒへ労いの言葉を投げかける。

これでまずは第一段階終了だ。

これによって民たちはヴィルヘルムが広めた宰相が諸悪の根源だ、という論調を信じることになるだろう。

意志の強い者や宰相を強く信じる者には効果が出ないだろうが、それは些細なことだった。

多数がヴィルヘルムを支持する状況を作れれば、それでいい。

「さて、それでは〝私のために〟溜め込んだ魔力を使わせてもらうとするか」