軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

外伝2 第三十三話 十年後

ヴリトラは倒せた。

しかし、エルフの国が負った被害も甚大だ。

それでも復興に向けて活気があった。

長年恐れていたものがいなくなったのだ。

大山脈周辺の開発も進んでいくだろう。

「腕はどうだ?」

「まぁまぁかな」

次の日。

俺は大山脈の向こう。

古代魔法文明が遺した装置の場所まで来ていた。

ついてきたのはアレンだけ。

俺がアレンだけは同行を許したからだ。

アレンは失った右腕を見つめながら苦笑する。

無くなったものは仕方ない。

そんなスタンスのようだった。

「右腕は惜しいけど……もっと大切なものがあるから。パトリシアと旅に出ようって話をしたんだ。彼女が俺の右隣にいるなら……悪くない取引だよ」

「……そうか」

「そんな落ち込まないでくれよ。鬼姫様も弟子にしてくれるって確約してくれたからさ……隻腕の剣豪の名をあんたの大陸まで伝えるよ。きっと」

アレンはそう言って左手で背中の剣を触った。

隻腕の剣豪はたしかにいる。

しかし、隻腕がハンデなのは間違いない。

「すまないな」

絞り出すように俺がつぶやくと、アレンは首を横に振った。

そして。

「あんたとの時間は短かったけど、濃かった。俺はあんたを見て……英雄の在り方を学んだ。きっと……両腕があったとしても、あんたについていかなきゃ俺は平凡だった。けど、今はあんたを見たという経験がある。たとえ百回同じ場面に出くわしても、俺はあんたについていくし、パトリシアを助けにいく。後悔はあるけど、それ以上に充実しているからさ。だから安心して」

アレンは笑顔を浮かべると、左腕を前に差し出した。

握手のためだ。

けれど、俺はそれに答えず、アレンのために転移門を開いた。

同時に装置も起動し始めた。

「その握手は取っておこう。いつかのために。これは俺とお前との盟約だ……友よ。いつか必ず、剣豪となって俺に会いに来い。フォーゲル大陸にあるアードラシア帝国。そこに俺はいる」

ゆっくり下がりながら、俺は右手を仮面にかけた。

そして仮面を外し、アレンに素顔を見せた。

「アードラシア帝国第七皇子……アルノルト・レークス・アードラーだ。お前のことを心から待っているぞ」

「驚いたな……思ったより若い。それに皇子様だったのか……まぁ、それに関しちゃあんまり驚かないけど」

笑いながらアレンも下がっていく。

そして。

「必ず会いにいく。誰もが驚く大剣豪になって。約束だ……アルノルト皇子」

「ああ、約束だ」

俺の返しに頷くと、アレンは転移門へ入っていく。

それを見届けた俺も、装置の作り出した転移門に入ったのだった。

■■■

手配していた別荘。

そこに転移した俺は、二人からの出迎えを受けた。

「お帰りなさいませ、アル様」

「ずいぶんと大変な調査だったようですな」

「ああ、疲れたよ。ただ、封印は終わった」

もうクタクタだと言わんばかりに、俺はアルノルトの姿に戻り、ソファーに座りこむ。

フィーネはそんな俺に何も聞かず、そっと紅茶を差しだした。

それを一口含み、実感する。

「帰ってきたなぁ……」

「今回はどこで、どんな問題を?」

「そうだな……内緒だ」

「おや? 珍しいですな。自分がどれほど苦労したかを語らないなんて」

「いつかしてやるよ。俺の友が来たら、な」

そう言って俺はニヤリと笑うのだった。

■■■

十年後。

帝国の海域に五隻の艦隊が接近していた。

見たことない船。見たことない設計。そして見たことない旗。

その船の上。

「船団長! 前方に艦隊! 黄金の鷲の旗を掲げています!」

「こ、攻撃してくるんじゃ……」

「馬鹿野郎! してきたってこっちには船団長がいるんだ! 怖がるな! 鬼姫様の弟子にして、大陸最強の剣士だぞ! 竜だって屠る剣豪だ! その実績でこの調査艦隊を任されているんだ! ビビるんじゃねぇ!」

ベテランの船乗りはそう言って、若い船乗りを叱咤した。

そして、そんな船の中を真っすぐ歩く男がいた。

「どうされますか? 船団長」

「向こうから接触してくる。速度を落とせ、挑発するようなことは控えろ」

「了解しました」

ゆっくりと艦隊は速度を落とし、相手からの接触を待った。

少しして。

『こちらはアードラシア帝国艦隊。ここは帝国の海域である。所属と目的をのべよ』

「ようやくですね、アレン」

船団長と呼ばれていた男の隣。

美しいエルフがいた。

パトリシアだ。

そんなパトリシアに語り掛けられたアレンは、ニヤリと笑う。

「ああ、だいぶ待たせた」

そう言うと、アレンは声を帝国艦隊に届けた。

「こちらはシュランゲ大陸よりやってきた三国同盟主導の調査艦隊だ。私は……船団長を務めるアレン。我々は友好を求めてやってきた。かつて……貴国の第七皇子アルノルト殿下に救われた恩がある。ぜひ、お会いしたい。どうかお取次ぎを」

アレンの声が届いた帝国艦隊は左右に進路を変える。

その後方より巨大な戦艦が現れた。

真っ黒な戦艦だ。

その戦艦より声が届く。

『こちらは……アードラシア帝国艦隊総旗艦……〝アルノルト〟。あなた方の目的は了解した。安全のため船上での調査のあと、問題なければ入港していただく。そして……アルノルト殿下へのお取次ぎだが……その名が出た以上、皇帝陛下にしっかりとお知らせするが……』

どうも歯切れが悪い。

アレンは怪訝そうな表情を浮かべる。

「さすがにいきなり皇子には会えないか?」

「あの方なら会ってくださいますよ」

わざわざ会いに来いと言ったのは向こうだ。

話さえ通せば会ってくれるはず。

アレンはそう信じていた。

けれど。

『……現在、帝国にはその名を持つ皇子、および皇族の方はいらっしゃらない。長く航海されてきたのに、申し訳ない。残念だ……しかし、皇帝陛下にはしっかりとお取次ぎをしよう。我が帝国はあなた方を歓迎する』

言葉を聞いたあと、アレンは瞑目した。

きっと何かあったのだろうとは思う。

けれど。

「アレン……」

「あの人は……約束を破ったりはしない。帝国にいないなら……大陸中を探すまでだ」

唇を噛み締め、体を震わせながらアレンはそう告げるのだった。