作品タイトル不明
外伝2 第二十九話 救出の一手
「次は斬ります!」
「落ち着け。あの白い玉にはエルフの少女が捕らわれている」
「だとしても、長引かせれば敵の思う壺。人質のようなやり方をするのは追い詰められているから。一気呵成に攻めるべきです」
レイナの傍に転移した俺は、次の攻撃を急ぐレイナを諫めるが、レイナはそんな返しをしてきた。
その返しは確かに正しい。
ヴリトラは追い詰められている。
いつまでエルフ王の結界がもつかわからないが、今のところ、結界が続くかぎりはこちらが優勢。
つまり、結界が続いているうちに仕留めるべきだ。
人質を救出している余裕はない。
だが、だがである。
「〝俺は〟彼女を助けたい」
「……ならば助けるしかありませんね」
レイナは静かに太刀を鞘に納める。
「ですが、助けるなら一人でお願いします。私は次の一撃にすべてをかけますので」
「もちろんだ」
硬さを覚えた。
しかし、それで斬れるかどうかは別問題だ。
これは全身全霊を注ぎ込むしかない。
そう判断したなら、その通りなんだろう。
レイナは結界の外へ下がると、ようやく合流した自身の精鋭部隊に告げる。
「強化陣形! 私にすべてを集中しなさい!」
部下たちはレイナの号令に応えるように、陣形を組むと全員でレイナに強化魔法をかけはじめた。
「武人として一人で戦えないのは口惜しいですが、そもそも一対一ではありませんしね。ここは戦場……すべてを利用する将として死合に望みましょう!!」
レイナはそう言って座禅を組み、次の一撃に備える。
部下からの強化を受けて、最高の一撃を放つ気なのだ。
つまり。
「レイナの準備ができるまでが勝負か」
悠長にしている時間はない。
さっさと救出しないと本当に手がなくなる。
出し惜しみをしている時間はない。
≪舞え、漆黒の羽――ブラック・フェザー≫
無数の黒い羽が出現し、巨大な一対の翼を形成する。
それがヴリトラに襲い掛かる。
包み込むようにして、翼はヴリトラに攻撃するが、ヴリトラの鱗を破るには数では足りない。
稼げたのは時間。
だが、それだけでいい。
≪我は銀の理を知る者・我は真なる銀に選ばれし者≫
≪銀星は星海より来たりて・大地を照らし天を慄かせる≫
≪其の銀の輝きは神の真理・其の銀の煌きは天の加護≫
≪刹那の銀閃・無窮なる銀輝≫
≪銀光よ我が手に宿れ・不遜なる者を滅さんがために――≫
≪シルヴァリー・レイ≫
両手で光球を押し潰す。
七つの光体から銀色の閃光が放たれ、ヴリトラの体を痛めつける。
鱗は耐えている。
だが、衝撃を消せるわけじゃないし、鱗が魔法に耐性があるとはいえ、すべてのダメージを消せるわけでもない。
全方位からの銀閃攻撃のあと、俺は一点集中に切り替える。
もっとも致命的な弱点である傷ついた鱗は狙えない。
だが、一点集中攻撃はさすがに効いたのか、ヴリトラは急いで結界の外へ出ようと動き出した。
数百メートルの巨体が動いたことで、地面が揺れる。
しかし、それこそ俺が待っていたことだ。
「足元がお留守だぞ」
ヴリトラが動き出した瞬間。
ヴリトラの真下に巨大な魔法陣が浮かび上がり、黒い呪いの鎖がヴリトラの体を縛り上げ、地面に引きずり倒した。
「せっかく休養期間で魔力も回復してたのに……これじゃあまたしばらく休養だな」
呟きながら、俺は呪鎖を操り、パトリシアの入った白い玉を縛り上げる。
そして力を込めて、白い玉を割った。
そこからパトリシアが出てきた。外傷はないが、気絶しているようだった。
あとは転移で救出するだけ。
しかし、いかに呪鎖結界でもヴリトラを拘束するには少々、力が足りなかった。
俺が転移門を開こうとした瞬間。
ヴリトラは首だけを持ち上げて、口を大きく開いて真っ赤なブレスを吐いた。
極太。
そんな表現がピッタリなブレス。
受けきるのは不可能なため、用意していた転移門を回避に使う。
上空に短距離転移すると、ヴリトラはそんな俺を追うように首を持ち上げて、追ってくる。
どうにかそれも転移で避ける。
ヴリトラも必死だが、俺も必死だ。
あれは咄嗟に受けるのはさすがに無理だ。
そのせいで、パトリシア救出の機会を逸した。
呪鎖結界によって生じた鎖は次々に引きちぎられ、ヴリトラは体を起こそうとしている。
残った鎖に力をこめ、地面に押し戻そうとするが、ヴリトラの抵抗が激しい。
このまま転移でパトリシアを救出しに向かったら、奴の間合いで無防備になる。
どうにか隙を作らないと。
起きようとするヴリトラと、抑え込もうとする俺。
激しいせめぎ合いの最中。
俺の視界の端。
揺れる山脈を走るアレンの姿が映った。
とてもアレンとは思えないほど、軽快な足取りで進んでいる。
岩から岩へ跳躍しながら、向かうのはパトリシアのところだ。
「無謀だが……いいぞ! アレン!」
仮面の中でニヤリと笑いながら、俺はヴリトラを押さえつけることに集中する。
すでにアレンはヴリトラに接近している。
あと少し時間を稼げば。
そう思った時。
突然、ヴリトラが身をよじった。
それにより山の一部で土砂崩れが発生する。
咄嗟にパトリシアを守るための結界を展開するが、アレンに対する結界は間に合わなかった。
「アレン!?」