軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

外伝2 第十一話 鬼姫

「素晴らしい! 素晴らしいですよ! シルバー様!!」

歓喜。

そんな表現がピッタリな様子で、レイナは太刀を振るう。

一撃一撃が余波だけで周囲の地形を変えるほどの一撃だ。

それらを受け流しながら、俺は一定の距離をレイナから取っていた。

「魔力を纏わせた一撃で、この威力か。本気でやったらどうなることやら」

レイナにとって今は力を込めて太刀を振るっているだけだ。

特別な技を繰り出しているわけじゃない。

とはいえ、これほどの威力があれば特別な技は必要ないのかもしれない。

これまでこれに対応できた者はほとんどいないんだろう。

そうでなければ、あれほど喜ぶわけがない。

「もっと! もっと舞いましょう!!」

レイナが笑みを浮かべながら直進してくる。

これまでとは速度が違う。

とにかく俺の懐に潜り込む気なのだろう。

直線的で、そして速い。

そんなレイナに俺は迎撃として魔力弾をばらまく。

無数の魔力弾。

一発一発の威力も馬鹿にはできないものだ。

それらをレイナは。

避けた。

「ちっ……!」

隙間なく敷き詰めたのに、わずかに生じた魔力弾同士のズレを突いて、ありえない体の軌道で避けて、こちらに進んでくる。

這うような動きをするときもあれば、飛びながら体を横に倒したり、とにかく体を動かして、こちらの弾幕を回避している。

普通、速度を緩めるなり、太刀で弾くなりするだろうに、レイナはそんな素振りすら見せない。

当初の見立てでは下位の近衛騎士隊長くらいかと思ったが、これは上位の近衛騎士隊長たちに匹敵するかもしれない。

冒険者でいえばS級たちに近い。

ついにレイナは俺の弾幕をかいくぐり、俺の懐に潜り込んだ。

息遣いが感じられるほど俺の仮面に顔を近づけ、レイナは告げる。

「その仮面の向こうにはどのような顔が待っているのでしょうか……?」

「気になるならはがしてみろ」

「ええ、楽しみです!」

喜びを爆発させながら、レイナは太刀を下段に構える。

これまで右手一本で振っていた太刀を、両手で持ちながら。

「オルカーン流剣術奥義……蛇太刀」

真っすぐレイナは太刀で斬り上げてくる。

だが、その軌道に反して、太刀に纏わりついた高濃度の魔力の刃は複雑怪奇な動きを見せる。

グネグネと動き回り、こちらに攻撃を読ませない。

実体のある太刀は直線なのに、魔力の刃は曲線。

どちらも避けないといけないが、どちらにも対応するのは難しい。

二択を強いる厄介な技だ。

剣士同士の戦いなら決め技となるだろう。

だが、俺は魔導師だ。

避けるのが困難な技なら全方位で受け止めればいい。

丸い結界を張って、俺はレイナの攻撃をその場で受け止めた。

蛇のように複雑な動きを見せながら、俺の後方から迫っていた魔力の刃も、直線的に俺の首を狙っていた太刀も。

どちらも結界によって阻まれる。

「この技が防がれたのは初めてです……!」

「その割には嬉しそうだな?」

「ええ……この技で倒せる人にはほかの技を試せませんでしたので」

フフッとレイナは笑いながら右手で持っていた太刀を左手に持ち変える。

構えも左手主体のものへと変化する。

「手加減に手加減を重ねても……敵は脆く崩れていく。私は私の全力を受け止めてくれる人を探していました……私の武はどれほどのものなのか。それを確かめるために」

武人らしい考えだ。

強くなった自分の力を試したい。

けれど、出会ってきた相手はレイナにとって弱すぎた。

おそらく本来の利き手は左手。

あえて右手を使うことで、縛りを設けていた。そうしなければ相手がすぐに死んでしまうから。

試すことすらできず、相手が倒れていく。

強くなった自分の全力を試す相手がどこにもいない。

強い相手を倒すために強くなったのに、相手が強くない。

自分の力がまったく発揮できない。

強者ゆえの悩みにレイナは悩まされていた。

誰かと競い合いたい。確かめ合いたい。

それは誰でも抱く願い。

けれど、レイナは強すぎたがゆえにその願いが叶わなかった。

それが、俺という存在で満たされた。

「私は今……喜びで胸がいっぱいです」

「それはそれは結構なことだが……こっちは時間がないんだ。さっさと本気で来い」

周囲への被害を抑えるため、俺は魔力を制限していた。

けれど、レイナは相手をすぐに倒してしまわないように、戦いが長く続くようにコントロールする癖がある。

レイナのペースに付き合っていたら、ずっと戦いが終わらない。

俺はさっさと終わらせるためにここにいるのだ。

だから魔力の制限を外した。

膨大な魔力は可視化できるレベルまで濃度が上がり、心の弱い者では俺の傍には立っていられないほどの魔力が周囲に漂う。

別に放出したわけじゃない。

これはあくまで水漏れみたいなものだ。

零れ落ちる水滴と大差ない。

そんな俺を見て、レイナは驚愕に目を見開き、そしてスッと顔を引き締めた。

「非礼をお詫びしましょう……どうやら私は大きな勘違いをしていたようです」

「わかればいい。来い」

「――参ります」

どちらが上で、どちらが下か。

どちらが戦いの主導権を握っているか。

どちらが胸を貸しているのか。

それらを理解したレイナの顔に笑みはない。

楽しむ戦いは終わりだ。

これからレイナはひたすらに全力で、本気で。

俺に挑む。

レイナこそが挑戦者なのだから。