作品タイトル不明
第六百四十七話 第二の権能
俺のシルヴァリー・ジャッジメントを食らったアスモデウスだが、何事もなかったかのようにそこから出てきた。
フォース状態の俺の銀滅魔法に飲み込まれたというのに、大した相手だ。
さすがに防御はしたようだが、並みの防御なら防御の上からでも破壊できる程の威力だったのだが。
「なかなか面白い不意打ちだったぞ?」
「光栄だな。では、こういうのはどうだ?」
言いながら、俺は真っすぐアスモデウスへ突っ込む。
意外な選択。
魔導師である俺が接近戦を仕掛けるとは思わなかったようだ。
アスモデウスは面白いとばかりに足を止めて、迎え撃つ。
俺はそんなアスモデウスに連続で魔力弾を放ち、視界をふさぐ。
「次はどんな攻撃をするつもりだ?」
「いつまで余裕でいられるかな?」
俺は両手を広げた。
そのまま両手を胸の前に持ってくる。
大技の予兆を感じ、アスモデウスは怪訝な表情を浮かべた。
わざわざ近づいて、大技を撃つのは不自然だからだ。
その不自然さはすぐに解消された。
俺の前に転移門が浮かびあがり、俺はそれに入る。
その門は俺とエルナの位置に出現した短距離の転移門。
一瞬で、俺とエルナの場所が入れ替わった。
「やるなら、言いなさいよ!!」
口ではそう言いつつも、いつでも攻撃できる準備をしていたエルナはアスモデウスに攻撃を仕掛けた。
俺相手には余裕を見せていたアスモデウスだが、エルナが相手ではそういうわけにはいかない。
咄嗟にエルナの聖剣を防御するが、かなり防御に力を割いているのがわかる。
その間に俺は詠唱を開始した。
≪我は銀の理を知る者・我は真なる銀に選ばれし者≫
アスモデウスの防御は破格だ。
並みの銀滅魔法では効果がない。
≪銀星は星海より来たりて・大地を照らし天を慄かせる≫
効果がない攻撃では援護にはならない。
こちらに意識を割かせる必要がある。
≪其の銀の輝きは神の真理・其の銀の煌きは天の加護≫
今、アスモデウスの意識はエルナへ向いている。
エルナの聖剣を危険視しているのだ。
≪刹那の銀閃・無窮なる銀輝≫
それと同等の警戒を俺へ向けさせる。
それができれば、エルナの攻撃が通るようになるだろう。
≪銀光よ我が手に宿れ・不遜なる者を滅さんがために――≫
エルナと熾烈な攻防を繰り広げるアスモデウスを見ながら、俺は静かに呟いた。
≪シルヴァリー・レイ≫
胸の前。
激しい光を発する銀の球を押しつぶすと、俺の周囲に巨大な光球が出現する。
フォース状態での完全詠唱でのシルヴァリー・レイ。
シルヴァリー・フォースは総合的な強化魔法だ。
俺自身の移動速度や攻撃力も飛躍的にアップする。
しかし、アスモデウスが相手ではその上昇値で、ようやく土俵に立てた程度。
不慣れな戦い方では効果がない。
あくまで俺は魔導師だ。
大魔法で相手を撃滅するのが最も得意とするスタイル。
七つの光球がアスモデウスに照準を合わせる。
それに気づいたアスモデウスは、エルナから距離を取ろうとする。
しかし、それを許すようなエルナではない。
アスモデウスと密着し、押し込み合いに持ち込む。
「逃がさないわよ!」
「ここまで近ければ撃てないのではないか?」
「どうかしらね?」
エルナはそう言ってアスモデウスから離れない。
その隙に俺はアスモデウスの周りに七つの光球を移動させた。
そして。
「足止めご苦労。代わろう」
俺の言葉と共に七つの光球から銀光が放たれる。
その銀光はギリギリの射線を通し、アスモデウスだけに照射された。
エルナと押し込み合いをしていたアスモデウスだが、右手で聖剣を抑え、左手で結界を張って、シルヴァリー・レイの防御に回る。
だが、どちらも不十分。
半端な状態ではどちらも防げない。
一瞬でそう判断したアスモデウスは、エルナの聖剣を逸らし、その隙に距離を取る。
逃がすまいと、俺は光球を動かす。
追跡してくる俺の光球を邪魔と判断したのか、アスモデウスは両手を広げた。
「はぁぁぁぁぁぁっっ!!!!」
破壊の権能を使い、周囲に展開していた七つの光球を粉砕する。
どこまでも強気なやつだ。
受けきるのではなく、さっさと破壊とは。
しかし、おかげで隙はできた。
「そろそろ聖剣の味を楽しんだらどうだ?」
光球を破壊したことで生じた隙を逃さず、エルナはアスモデウスの懐に潜り込む。
アスモデウスは咄嗟に右手を動かそうとするが、俺が作り出した銀鎖がそれを阻止する。
それは少しの時間しかアスモデウスを拘束できなかったが、エルナにはそれで十分だった。
「星の聖剣よ! その力を解放せよ……我が敵を打ち滅ぼすために!!」
黄金の光が刃に集束する。
そしてエルナは聖剣を上段から振り下ろした。
「光天集斬!!」
これまでで最大の光の奔流がアスモデウスを飲み込む。
第三段階での全力攻撃だ。
その威力はすさまじく、余波で大気が震える。
防御がどうこうのレベルではない。
その光量は太陽に匹敵する。
眩しくて見ていられないほどだ。
そして光が収まった。
「さすがに……」
無事じゃ済まないわよ。
エルナはそう呟きかけたが、最後は声にならない。
確実に食らった。
確実に飲み込まれた。
なのに、そこにはアスモデウスがいた。
とはいえ、さすがに無事ではない。
咄嗟にすべてを右手で受け止めたのだろう。
右手が原型をとどめておらず、それにもかかわらず体中に傷を負っている。
「はぁはぁはぁ……さすがに死を覚悟したぞ……」
そう言ってアスモデウスはニヤリと笑う。
化け物め。
思わず心の中で呟く。
あれで死なない奴がいるとは。
だが、ダメージはあった。
これを繰り返せば、さすがのアスモデウスも死ぬ。
その確信には至った。
なのに、アスモデウスの笑みを見ていると嫌な予感が止まらない。
そして、すぐにそれが間違っていないことが証明された。
「なるほど……魔王が敗北したのもわかる。大した威力だ……このままでは劣勢は覆せまい。余も本気でやろう」
そう言うとアスモデウスは一気に降下していく。
俺とエルナもそれを追い、降下する。
王都の中心。
そこでアスモデウスは片手をあげていた。
その手にはあちこちからエネルギーが集まっていた。
膨大なエネルギーだ。
どんどん膨れ上がっていく。
「消滅した悪魔の力を集めているのか……?」
「まずいわ! あんなもの放たれたら!」
連合軍は全滅する。
俺たちは阻止しようとするが、異変に気付く。
連合軍と戦っていた悪魔たちも力を吸い取られはじめたからだ。
「うわぁぁぁぁぁ!!!!」
「アスモデウス様!!??」
悪魔たちにも予想外だったのか、あちこちで叫んでいる。
そして残ったのは万全の状態だった数名の悪魔のみとなった。
残るすべてはアスモデウスの頭上にある巨大なエネルギー球へ変わってしまった。
「余に手傷を負わせた貴様らに敬意を表し、余の第二の権能〝吸収〟を見せてやろう」
「第二の権能だと……?」
「悪魔の権能が一つだけだと、どうして決めつけていた?」
アスモデウスはそう言うと頭上にある巨大なエネルギー球を自分の内へ吸収した。
巨大すぎるエネルギーによって、爆風が周囲に発生する。
それが収まった時。
真っ黒なオーラを纏ったアスモデウスがそこにいた。
「さて、貴様らに余の真の姿を見せてやろう」
そう言ってアスモデウスは笑う。
ドクンと、アスモデウスを包むオーラが脈打つ。
それに合わせて、アスモデウスの姿が大きく変化していく。
もはや依代に縛られる必要はないとばかりに。
「マジか……」
思わず素の言葉が出てくる。
そこには体長数十メートルの化け物がいた。
上半身は人間体、下半身は竜そのもの。
禍々しい地獄の悪魔にふさわしい化け物がそこにはいた。