作品タイトル不明
第六百四十六話 戦力差
連合軍には二人の防衛対象がいた。
一人は皇帝ヨハネス。もう一人は聖女レティシア。
どちらかがやられたら、戦況は一気にひっくり返る。
そんなレティシアの近くで、レオはウィリアムと共に奮戦していた。
「はぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」
気合の声と共にレオは剣を突き出す。
鷲獅子と共に放ったその突きは、完璧な突きだった。
よほどの熟練者でなければ避けられない。
そんな突きだったが、悪魔は簡単に避ける。
しかし、それにショックを受けるほどレオも甘くはない。
避けた悪魔に対して、魔法を放つ。
≪その炎は天より舞い降りた・善なる者たちを救うために・至上の聖炎よ・気高く燃え上がれ・魔なる者を打ち滅ぼさんがために――ホーリー・ブレイズ≫
聖魔法。
さすがの悪魔もそれに対してはしっかりと回避した。先ほどの突きとは避け方が違う。
余裕のない避け方。
ゆえに隙ができる。
そんな悪魔に対して、ウィリアムは上から攻撃を仕掛ける。
「貰ったぞ!!」
ウィリアムは竜魔槍による魔法攻撃を連続で行う。
もちろん最大出力だ。
いくつも攻撃が当たる。
悪魔の横を通り過ぎ、ウィリアムは振り返る。
それなりのダメージは与えたはず。
そう思ったウィリアムだったが、五体満足な悪魔を見て舌打ちをした。
「ちっ! 我々では攻撃力が足りんか!」
「しかし、防御しています。やっていることは間違いじゃない」
「なるほど。では、防御が間に合わない攻撃を叩きこむか」
「そうしましょう」
ウィリアムと合流したレオは冷静に分析する。
何をしても効かないなら防御する必要はない。
ウィリアムの一撃を悪魔は防御している。つまりは防御の必要性があったのだ。
ならば、防御させなければいい。
単純なことだ。
しかし、だから難しい。
今ので悪魔も警戒している。隙を突くのはより難しくなった。
どうやって隙を作るべきか。
そうレオとウィリアムが考えていた時。
それは突然やってきた。
一本の矢が高速で悪魔に迫る。
長距離からの狙撃。
それにより悪魔は右腕を失った。
「なんだと!?」
気づいて、右腕で防御して、そのうえで右腕を失った。
悪魔は攻撃の方向を見る。
戦場を走り回る弓兵がいた。
四方八方に矢を放っている。戦場にいるすべての悪魔に矢を放っているといってもいい。
悪魔たちとて万能ではない。対峙している敵に意識を割いている。そこにあれほどの攻撃をされては、どうしても対応が遅れる。
あれは危険だ。
放置すれば戦況に関わる。
悪魔の中で弓兵の危険度が跳ね上がった。
ゆえに意識が弓兵へ向かう。
その隙をレオとウィリアムは見逃さなかった。
「うおぉぉぉぉぉ!!!!」
まず突撃したのはウィリアムだった。
騎竜と共に突撃し、至近距離で竜魔槍を放つ。
幾度も放ち、悪魔に防御を余儀なくさせる。
その間にレオは飛んだ。
ウィリアムの後ろから悪魔に迫り、ウィリアムから距離を取ろうとしている悪魔に対して、組み付いたのだ。
「捕まえたぞ!」
「こっちのセリフだ!」
組み付いてきたレオに対して、悪魔は攻撃を仕掛けようとする。
悪魔の攻撃は強力だ。
生身で受ければ無事では済まない。
しかし、今回はレオのほうが早かった。
≪その炎は天より舞い降りた・善なる者たちを救うために・至上の聖炎よ・気高く燃え上がれ・魔なる者を打ち滅ぼさんがために――ホーリー・ブレイズ≫
聖なる炎により、レオは悪魔を燃やす。
それも何度も、何度も。
ひたすらに燃やす。
「ぐわぁぁぁぁぁっ!!!!」
組み付かれている状態での聖炎。
躱しようがない。
悪魔はなんとかレオを振り払おうとするが、レオは決して手を離さない。
そんなレオを見て、悪魔は地面に向かって急降下を開始した。
地面にぶつかっても悪魔は平気だ。しかし、レオは違う。
「貴様だけ死ね!!」
悪魔は聖炎に体を焼かれながら叫ぶ。
それに対して、レオは告げる。
「僕は死なない!」
衝突の前にこの悪魔を仕留めきる。
そんな決意をレオがしたとき。
レオの下に声が届いた。
「殿下!!」
「っ!?」
レオは咄嗟に悪魔から手を離した。
そんなレオをウィリアムが回収する。
ひよって手を離したか、と悪魔が笑った時。
悪魔に突撃する竜騎士がいた。
白いマントを羽織った白い竜騎士。
駆けつけたフィンだった。
フィンは悪魔に肉薄すると、最大威力で雷撃を放った。
ウィリアムの竜魔槍とは比べ物にならないほどの威力。
それによって聖炎でボロボロになっていた悪魔は地面にたたきつけられた。
「くそっ……人間風情が!!」
「攻撃態勢! 撃てぇぇぇ!!!!」
そんな悪魔に対して、ウィリアムは周囲にいた竜騎士たちと共に全力攻撃をかける。
もちろんフィンもそれに加わる。
悪魔にとっては大した攻撃ではない。しかし、ボロボロの状態ではそんな攻撃でも効いてしまう。
空から地上への魔法攻撃。
それは悪魔の消滅が確認されるまで続いたのだった。
「はぁはぁ……」
「助かったよ、フィン」
「ご無事でなによりです、殿下」
自らの鷲獅子に乗ったレオは、肩で息をしているフィンに対して声をかける。
悪魔と戦い、辛くも勝利したうえで、全力で駆け付けたのだ。さらに先ほどの戦闘。
さすがのフィンも消耗していた。
しかし、それはレオも同じだった。
皇剣と聖杖の二重強化。
これがなければとうの昔に倒れていただろう。
「戦況は……?」
「最悪だ。しかし、まだ戦線は保っている」
フィンの質問にウィリアムが答える。
連合軍は形の上では優勢だ。
第一陣の悪魔の多くを撃退している。
しかし、すでに悪魔の第二陣が召喚され、その一部が加わっている。
前線でエゴールとリナレスが奮闘しているが、二人ではどうしても防ぎきれず、連合軍側に悪魔が流れ込んでくる。
連合軍は血を流しながらそれを食い止めている。
犠牲は甚大。
すでに連合軍は戦力の三分の一を喪失していた。
普通の戦闘なら即時撤退レベルの損害。
だが、相手は悪魔。退けば人類に未来はない。
「休憩は終わりだ。次の悪魔を抑えにいくよ。僕らにできることはそれしかない。粘って粘って、粘り抜いて……空に託すしかないんだ」
そう言ってレオは上空を見上げる。
姿は見えない。
それでもそこでは人類最強の二人が最強の悪魔に挑んでいる。
文字通り、人類の命運は二人にかかっている。
連合軍は消耗し続けている。悪魔と戦える精鋭も数を減らしている。
あれほど声を上げていた冒険者たちの姿も相当減った。
果敢に悪魔へ挑んだからこそ、命を散らしたのだ。
近衛騎士の数も見るからに減っている。
「頼むよ、シルバー、エルナ。長くは持たない」
一人、そうつぶやきながらレオはウィリアムたちと共に新たな悪魔の下へ向かうのだった。