作品タイトル不明
第六百三十話 悪魔の実力者
皇国。
皇王の城に客が来ていた。
それは皇国にとってありえない客だった。
仙国の代表であるオリヒメと、その護衛団だ。
「ここが皇王の城か! なかなか立派ではないか!」
「大陸随一を自負しております。仙姫様」
道案内をする大臣がそうオリヒメに言った。
しかし。
「いや、帝剣城のほうがすごかったぞ。妾が保証しよう」
「そ、そうですか……」
悪気もなくオリヒメは告げた。
ただ、それでも物珍しいのかキョロキョロと見渡している。
案内する大臣はその様子が不安らしく、冷や汗をかいていた。
相手は仙姫だ。
誇張なしで、大陸随一の結界使い。結界を城に仕込むなど朝飯前だ。
弱点のようなものを探しているんじゃないかと不安なのだ。
だが、そんな大臣に後ろにいた背の高い男が声をかける。
「大臣さんよぉ。そんなビクビクしなくても、何もしねぇよ」
「し、しかし……」
「俺が保証する」
「じ、ジークムント殿がそうおっしゃるなら……」
細身だが、鍛え上げられた肉体を持つ冒険者。
元々は大陸屈指の槍使いとして、名の知れたジークの言葉で大臣は、ひとまずの安心を得た。
それに対して、オリヒメは振り返る。
「なぜジークの保証で安心するのだ!? 納得いかぬ!」
「俺が名の知れた男前冒険者だからだな」
「S級程度で名の知れた……?」
「仙姫の嬢ちゃんと話すと傷つくぜ……」
純粋に疑問符を浮かべるオリヒメの反応にジークは肩を落とす。
オリヒメからすれば、有名な冒険者というのはSS級なのだ。
「ただまぁ、男前を否定しないのは嬉しいね。どうだい? 本当の俺は魅力的だろ?」
「そうだな! 背が高くなって鬱陶しいなどと思ってはおらぬぞ!」
「調子狂うぜ……」
会話がかみ合わない。
ジークはため息を吐きつつ、おもむろに質問をした。
「じゃあ仙姫の嬢ちゃんの好みのタイプは誰なんだよ? このジーク様に靡かないあたり、相当」
「アルノルトだな!」
「あー、そう……」
相当変わっているな、と言おうとしていたジークは口をつぐむ。
想像以上に変わっていたからだ。
どいつもこいつも、あの秘密主義の皇子のどこがいいのやら。
などと思っていると。
「クロエは前、シルバーと言っておったぞ! 良い趣味だと妾は思う!」
「あー、そう……」
秘密主義の奴のほうがモテるのだろうか、と錯覚しそうになる。
ジークの知る限り、シルバーは秘密主義の権化だ。
たとえ弟子の前でも仮面を外さない。
圧倒的に強いから許されているが、強くなければただの変態だ。
などと思っていると。
「こちらです」
大臣に案内されたのは城の地下。
大きな空間が広がるそこで、魔導師たちが儀式魔法の準備に入っていた。
その中央には皇国が派遣する宮廷魔法師団がいた。
「皇国全土から集められた百人の精鋭魔導師たち。噂に違わない実力者ばかりだな」
ジークはそうつぶやく。
しかし、その中にあって別格の存在感を放つ者がいた。
「来られましたか、仙姫様」
「うむ、来たぞ! ノーネーム」
中央にいたノーネームは仙姫を出迎える。
そして仙姫と共に中央へと歩いていく。
「悪魔が現れたとの報告も入っています。急ぎましょう」
「うむ! 妾たちはいつでもよいぞ!」
オリヒメと共に来たのはジークと、仙国の精鋭が十人ほど。残りは足手まといのため、オリヒメが置いてきた。
精鋭たちは宮廷魔法師団に負けない実力者たちだ。
しかし、それでも戦力になるか怪しい。
それだけ相手は強大なのだ。
「では、陛下。行ってまいります」
「行ってくるぞ! 妾たちが帰ってくるまで生きておれ! 皇王よ!」
「早く行け」
見送りに来ていた皇王はさっさと行けとばかりに、手でオリヒメたちを払う。
そんな皇王に見送られ、オリヒメたちは皇国の儀式魔法によって転移したのだった。
■■■
王都に現れた光の柱。
その破壊が困難だと察したエルナとジャックは、連合軍を後退させ、自分たちは警戒監視に当たっていた。
待っているのはじれったいが、待っていれば続々と戦力が集まる。
悪い手ではない。
しかし、相手のほうが早かった。
光の柱が突如として崩壊していく。
そして王都の城壁に人影が現れた。
「おいおい……」
その数は百を下らない。
ジャックには直感でわかった。
そのすべてが悪魔である、と。
その中央には王国の王太子、リュシアンがいた。
「ふむ、悪くない」
リュシアンは自分の体の感触を確かめ、ゆっくりと周りを見渡す。
城壁の上には同胞たちの姿があった。
そんなリュシアンの下に一人の男が駆けつけ、膝をついた。
「無事にご降臨され、安心いたしました。殿下」
「その殿下というのはやめろ」
「失礼いたしました。〝アスモデウス様〟」
「うむ、もろもろの準備、ご苦労だったな。ストラス大公」
五百年前の悪魔の侵攻に際して、すべての悪魔が魔王に付き従ったわけではない。
魔界に残った悪魔も存在した。
その中の実力者、アスモデウスは、魔奥公団のトップ、大公として暗躍していた忠実な部下であるストラスを褒めた。
少し予想外なこともあったが、概ね想定通り。
五百年前のように悪魔が問題なく通れるゲートは存在しない。
そのため、人間を依り代にして召喚する方法が必要だった。
人間が編み出した古代の召喚術式では、上位の悪魔以外は縛られてしまうからだ。
そして、その準備のためにストラスは派遣され、魔奥公団という組織と共に準備を整えた。
時代の影に生き、影の中で動き続けた。
それが今日、実ったのだ。
「ウェパル卿は結局、来られませんでしたか」
「やつは別派閥だからな。まぁ、よい。人間どもなど余たちだけで十分だ。魔王を討った勇者の子孫……それを討って、余の力が魔王を超えている証明としよう」
そう言ってリュシアンの体を依り代としたアスモデウスはゆっくりと腕を振ったのだった。