軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六百三十一話 必殺技

近衛騎士団に加え、勇爵家の騎士たち。

数としては数千。

二十万の連合軍に比べれば大した数ではない。

けれど、その数千は帝国の最精鋭だ。

「これだけの数を王都まで運べるか?」

「どこかを経由する必要はあるが、可能だ」

父上の言葉に答えつつ、俺は転移門を開く。

一つは王国の冒険者ギルド支部に繋がっており、そこから王都までの転移門を開く。

これで父上たちは王都までたどり着ける。

父上はそれに頷くと、伴って来た馬車へ向かう。

そこから鞘に入った黒い長剣を取り出した。

帝国の意匠がふんだんに用いられたそれは、長らく封印されていた〝皇剣〟だ。

聖剣のような召喚機能はさすがにない。

ただ、その存在感は聖剣に勝るとも劣らない。

それを腰に差すと、父上はゆっくりと周りを見渡す。

皇帝が帝都の街に出てくることは珍しい。

しかも近衛騎士団や勇爵家の騎士たちも城から出てきている。完全装備で。

どう見てもこれから戦争に行くといった様子だ。

何事かと民たちが見物しに来るのは仕方ないだろう。

ある者は興味を、ある者は不安を。

それぞれ何かを抱いて、皇帝である父上を見つめている。

そんな民たちに父上は告げる。

「――帝国の民たちよ」

父上の声を聞き、騒がしかった周りが静かになる。

そんな中、父上はゆっくりと皇剣を抜き放った。

真っ黒な刀身が民の前に姿を現す。

「王国にて悪魔が現れた。我々はこれより帝国の代表として現地に赴く。熾烈な争いになるだろう。大陸に住まう全人類が結集する戦いだ。皇帝として……このヨハネス自ら近衛騎士団を率いて、それに参戦する」

誰も声を発さない。

奇妙な静寂が帝都を包んでいた。

それに対して、父上は皇剣を見せつけるように掲げた。

「かつてもそうだった。我々帝国は常に人類の最前線に立ってきた。悪魔が人類の命を所望するならば、我々が守ろう。安心して待っていてほしい。次にワシが戻ってきた時! それは勝利の凱旋だ! 五百年前の悪夢を今度こそ消し去ってみせよう!! これ以上、皆の子孫にいらぬ恐怖を残しはしない!! ここに皇帝ヨハネスは誓おう!! 我らは勝つ!! そして――帝国は新たな時代を迎えるのだ!! 帝国に栄光あれ!!!!」

父上の言葉を聞き、帝都が沸いた。

歓声が帝都全体を揺らす。

皇帝への賛美。帝国への賛美。

皇帝自らの出陣は、民の心を歓喜させる。

しかも今回は人類を守るための戦いだ。

近衛騎士団と勇爵家の騎士たち。

滅多に出陣することがない、帝国の最精鋭たち。

それを率いて、皇帝が出陣するのだ。

民たちは高揚し、皇帝の名を呼ぶ。

けれど、俺は喜ぶ気にはならない。

わざわざ、民に周知させたのは――自分に何かあった場合に備えてだろう。

皇帝が戦場に向かったという情報を流しておけば、皇帝の死を受け入れやすい。

そしてこれだけ高揚した民は何を思うだろう?

皇帝が戦死するほどの激戦。

それに参陣していた者こそ、次の皇帝に相応しいと思うだろう。

帝位争いは勢力争い。

しかし、民の支持も無視はできない。

だから俺は喜ぶ気にはならない。

自分の父が死を覚悟していて、喜ぶほど狂っちゃいない。

「共に行くか? シルバー」

「少し、やることがある。あとで行こう」

「そうか。では、先に待っておこう」

そう言って父上は近衛騎士たちと共に転移門へと入っていった。

すべての騎士たちが転移門をくぐったことを確認すると、俺は冒険者ギルド帝都支部のほうを見た。

「行かないのか?」

「なんか、皇帝陛下と一緒にいくのは気が引けちゃって……」

ひょっこり顔を出したのは帝都支部所属になっていたクロエだった。

わざわざ帝都支部にいるのも、万が一のときに参戦できるように、だ。

行かないという選択はない。

「戦場じゃ皇帝も冒険者も関係ないぞ」

「それはそうなんだけど……」

元々、平民だったクロエとしてはあの迫力ある一団と一緒に参戦するのは、どうも違うらしい。

ため息を吐きながら俺は転移門を指さす。

「行かないなら閉じるが?」

「ま、待ってよぉ……もういいかな? 自分も近衛騎士です、みたいな顔はちょっとできないから……」

とにかく一緒には行きたくないらしい。

戦の前に悠長なことだ。

しかし、すぐにクロエは笑顔を浮かべた。

「それじゃあ行こうかな。先に行って待ってるね! お師匠様」

そう言ってクロエはひょいっと転移門へ入っていく。

それを見届けると、俺は転移門を閉じて、城へ転移したのだった。

■■■

爺さんの部屋。

そこは爺さんが集めた不思議魔導具の宝庫だ。

その一部をヘンリックが利用しているが、それでも埃をかぶっている物も多い。

「爺さん、これらを使わせてもらうぞ?」

「好きにせよ。当然、悪魔に一泡吹かせるためじゃろうな?」

「もちろん」

「ならば、盛大にやってやれ」

そう言って爺さんはニヤリと笑う。

それに同じ笑みで応えつつ、俺は無数の魔導具と共に転移する。

場所は王都上空。

下ではもう戦いが始まっている。

続々と戦力も集まっているようだ。

だが、悪魔の数も多い。

だから。

≪我は銀の理を知る者・我は真なる銀に選ばれし者≫

相手は悪魔。

出し惜しみするほど馬鹿じゃない。

≪銀光は天を焼き・銀星は闇を穿つ≫

ゆっくりと銀の光が俺を包んでいく。

≪墜ちるは冥黒・照らすは天銀≫

父上は死ぬ気で悪魔に挑む気だ。

≪其の銀に金光は翳り・其の銀に虹光は呑まれた≫

息子としてできることはない。

けれど、シルバーとしてならできることはある。

≪いと輝け一条の銀光・闇よひれ伏せ屈服せよ≫

俺は決して家族を死なせはしない。

≪銀光よ我が身に君臨せよ・我が敵を滅さんがために≫

銀光が全身を包み込む。

相手は悪魔。

しかも数が多い。

ならば、数を減らすしかない。

使う隙があるかわからない大技は、さっさと使っておくに限る。

必殺技は――大事にしまっておくために覚えたんじゃない。

確実に相手を滅するために覚えたのだから。

≪――シルヴァリー・フォース≫