作品タイトル不明
第五百四十六話 冒険者の問題
「そういや、嬢ちゃんに聞きたいんだが」
「何ですか?」
「どうしてミヅホにいるんだ? 帝国の戦力増強として、配置替えしたんじゃないのか?」
候補地をめぐる中で、ジークがクロエに疑問をぶつける。
それに対してクロエは苦笑する。
「うーん、話せば長いんだけど……」
「そんなに長くはない」
事情を知っている俺は、深刻ぶるクロエに対してそう言った。
「なんだ? お前さんも知ってるのか?」
「元々、クロエを帝都に呼んだのは俺だ。帝都にS級冒険者を配置するという案があったから、クロエを呼べとギルド長に進言した」
「へぇ、それで? どうして嬢ちゃんはミヅホに戻って来てんだ?」
「後任が無能だった。それに尽きる」
「そういう言い方はちょっと賛成できないかなぁ。ミヅホは特殊だから」
「冒険者として無能なことには変わりない」
クロエが帝都に移動するということは、ミヅホに代わりとなる冒険者を送り込むということだ。
その代わりとなる冒険者が機能しなかった。
そうなるとクロエを帝都に置いてはおけない。
少なくともミヅホが落ち着くまでは、元に戻す必要があった。
「手厳しいねぇ。まぁ、ミヅホは評判悪いからな。冒険者の間じゃ」
「天候は変わりやすいし、地震も起きちゃう土地だから、モンスターの動きが予想しづらいんだよね。あたしは慣れてるけど、新任じゃ厳しいと思うよ」
「ギルド本部が杜撰な人事をしたせいで、俺の予定が崩れた」
「杜撰な人事ってのは言い過ぎじゃないか? 代わりに来たのもS級だろ?」
「A級とAA級が合わせて十人来て、地震が怖くて八人が逃げちゃったんだよね」
「それは杜撰だな」
一応、ギルド本部を庇ったジークだったが、クロエの言葉を聞いて認めざるをえなくなった。
クロエは元々、AAA級。それでミヅホをしっかり治めていた。
だからその程度の戦力でどうにかなると思ったんだろう。
だが、ミヅホで必要なのは戦力以上に柔軟性と対応力だ。
環境が変わりやすい土地だからこそ、冒険者としての資質が試される。強いだけでは駄目なのだ。
「本部は慌ててクロエに帰還要請を出した。このままじゃミヅホがパニックになりかねないからな」
「仙姫様からも正式に要請されたし、帰らないってわけにもいかなかったんだよ」
「そりゃあそうだろうな。特効薬みたいなもんだからな。弟子を呼んで、対悪魔に備えるって構想が崩れたから不機嫌なのか?」
「その程度で不機嫌にはならない」
そうは言いつつ、俺は不機嫌だった。
なぜなら慌てたギルド本部が、俺に話を通さずにクロエの帰還を決めたからだ。
まぁ、当たり前の決定ではあるんだが。
俺がすべてを知ったのはクロエが帰路についたあとだった。
「お師匠様に話が通ってなかったんだよ。除け者にされるとお師匠様、イラっとしちゃうんだよね」
「小さい男だな」
「こっちにはこっちの予定がある。悪手を打たれるのが嫌なだけだ」
クロエがいれば安心して帝都を空けることができた。それなのに勝手に帰還させられた。
苛立ちもする。
これから帝都を空けることは増えるはずだしな。
「まぁ、モンスターも落ち着いたし、そのうち帝都に行けると思うよ。後任が来ないと話にならないけど」
「せめてA級クラスの奴らをしっかり統率できる奴がいれば、話は違ってくるんだがな」
ミヅホのモンスターはそこまで強くない。
ちゃんとリーダーシップを取れる奴がいれば、A級冒険者たちだけでどうにか対処できるだろう。
問題はリーダーシップを発揮できる冒険者は、各地で必要とされていて空きがないということだ。
結局のところ、ないものねだりになる。
いないもんかね。
クロエの代わりになる経験豊富な冒険者が。
そうすれば、俺は安心して王国にいけるんだが。
そんなことを思ってると、最初の候補地にたどり着いた。
黄昏の森とほぼ条件が一緒の森だ。
黄昏の森はかなり魔力が溜まっている場所だった。
そういう場所じゃないと、いろいろと術式を使うのが厳しいんだろう。
だからこそ絞れる。
「見たところ変わったところはなさそうだな」
「確かにな。けれど」
「ここにいたのかもしれないね」
大陸でも稀有な古代魔法の使い手。
俺とクロエは他の魔導師たちとは違う。
微細な魔力の変化も感じ取れる。
その森には痕跡があった。
すでに去ったあとだが、間違いなく竜人族はここにいた。
「もうお引越しのあとみたいだね」
「俺たちが探しにくると察したか」
言いながら俺は腕を組んで思案する。
このままじゃ追いかけっこになりかねない。
そんなものに付き合う暇はない。
「クロエ、いい案はあるか?」
「うーん、試したいことが一つあるかな」
「じゃあ、それで行くぞ」