軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百九十話 ルール説明

「お集まりの皆さん。準備が整ったようなので、これより御前試合を開催させていただきます」

宰相であるフランツが魔法を使って、闘技場全体に伝える。

一瞬、闘技場がシーンとなった。

いよいよ二人が登場するからだ。

前哨戦として何試合か行うべきという案もあったが、父上がそれを却下した。

二人の前座となると誰がやっても霞む。引き立て役にもならないだろう、と。

観客も二人の一騎打ちを見に来ている。その判断は正しいだろう。

ここまで大々的にSS級冒険者が表舞台に出てくることはない。

ましてや勇爵家に挑むという形だ。

皇族という特殊な立場や、前線に出る軍人、冒険者。

これらの人間と帝都の人間は違う。

滅多なことでは勇爵家の者も、SS級冒険者も見られない。ましてや同格の相手との勝負。

民は見たくて仕方ない。

なんだったら、大抵の贅沢に慣れている父上も興味津々だ。

だが、そんな観客たちが黙り込んだ。

同時に歩いて出てきた二人の戦意に飲み込まれたからだ。

一人は桜色の髪に翡翠色の瞳。帝国が誇る勇爵家の神童。エルナだ。

もう一人は白装束に黒い仮面をつけた謎の人物。大陸で五人しか存在しないSS級冒険者。ノーネームだ。

二人とも無手。

剣は帝国側が用意することになっている。

誰もが黙る中、静かに宰相が告げた。

「……皇后陛下。陛下のために二人の剣士が名乗りをあげてくださいました。一人は帝国近衛騎士団第三騎士隊隊長、エルナ・フォン・アムスベルグ。もう一人は冒険者ギルド所属、SS級冒険者のノーネーム。どちらも大陸最高峰の剣士です」

「……両名に感謝を」

短く皇后が告げた。

長い言葉は不要だからだ。

そして二人の前に何本もの剣が用意された。

「武器はこの中から選択すること。帝国の名誉にかけて、不正がないことをここに保証しましょう」

宰相の言葉を受けて、二人が剣に手を伸ばす。

二人が使えば何の変哲もない剣でも、名剣に早変わりだ。

だが。

「シルバー」

「何かな? アルノルト皇子」

「後から難癖をつけられても困る。負けた言い訳は聞きたくないのでな」

「それは幼馴染のことかな?」

「もちろんノーネームのことだ」

「面白い。だが、たしかに帝国側にすべて任せるのもフェアではないだろう。宰相閣下!」

シルバーが声を拡散させる。

予定のない乱入だ。

だが、宰相は慌てない。

「何かな? シルバー」

「SS級冒険者の一人として、ここは俺が用意しよう。帝国を疑うわけではないが、勇爵家に負けてほしくない者がいるかもしれない。末端の不正は防げまい?」

「それは確かに一理ある。では、どう決めると?」

「俺の弟子の剣を使わせる。場所は帝国が用意したのだから、文句はないだろう?」

最後の言葉は父上に向けられていた。

父上は一つ頷く。

そして。

「構わん。好きにせよ。しかし、責任はお前が取れ」

「いいだろう。俺のこれまでの功績に誓って、この勝負に泥は塗らせん。クロエ!」

声をかけられたクロエは、ノーネームが出てきた通路から顔を出した。

クロエは今回、ノーネームのサポート兼護衛だ。

まぁ護衛という名の虫除けだが。

そんなクロエが自分の双剣を二人に投げた。

「東方、ミヅホ仙国の仙医トウイの作品です! 丈夫さは保証します!」

投じられた双剣は二人の傍に突き刺さる。

二人は手を伸ばし、感触を確かめたあと。

ノーネームは左に、エルナは右に。

一振りした。

それだけで左右に用意されていた剣たちが真っ二つになって吹き飛ばされた。

元々、あの双剣はクロエのダークネス・フォースに耐えられるように鍛え直されたモノだ。

二人の力にも十分耐えられるだろう。

「問題はないかな?」

「問題ないわ」

「問題ありません」

「それは良かった。武器の条件は一緒だ。差をつけるのは双方の実力だけだな。楽しみにさせてもらおう」

「高みの見物とは良いご身分ね。なんならこの後にあなたと勝負してもいいのよ?」

「遠慮しておこう。ただ……」

シルバーが一瞬、俺のほうを見た。

バレないように俺は顔色を変えないし、反応もしない。

これからは決められていた台詞だ。

俺の様子を見て、静かにシルバーは告げた。

「ノーネームの敗北はSS級冒険者全体の敗北と受け取ってくれて結構。君が帝国を代表しているように、ノーネームも冒険者を代表してこの場にいる。帝国の名もさぞや重かろうが、ノーネームは大陸全体を背負っている。あまり俺の同僚を舐めないほうがいい」

「それは楽しみだわ」

エルナの返事を聞き、シルバーは宰相のほうを見る。

あとはルール説明だけだ。

「最後にルール説明をさせていただきます。制限時間は十分。双方、魔剣と聖剣の使用は不可。不可抗力での殺人は罪には問いません。以上です」

シンプルなルール。

故意じゃなければ殺してもいい。これは殺しちゃ駄目といっても、二人の攻撃はだいたい必殺だからだ。

二人を縛るのは武器と時間のみ。

説明を終えて、宰相が父上を見た。

父上が立ち上がり、片手をあげる。

「帝国皇帝ヨハネスの名において――」

エルナとノーネームが同時に剣を構えた。

力みはない。

だが。

「始めっ!!!!」

皇帝の手が振り下ろされた瞬間。

二人の剣がぶつかり合ったのだった。