軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百八十九話 闘技場

皇后の誕生日。

大規模な祭りが帝都で催された。

その目玉となるのは帝都にある巨大な闘技場で行われる一騎打ち。

「結界を張ってくれて感謝する。シルバー」

「お安い御用だ。むしろこの場を用意してくれたことに感謝したい」

そう言って貴賓席に用意された椅子に座る父上と、シルバーが会話する。

皇族の席からそれを見ていた俺は、シルバーから話を振られた。

「エルナ・フォン・アムスベルグを説得したのはアルノルト殿下だとか。あなたが動くのは意外だった」

「知らないところで一騎打ちをされるよりは良いからな」

「だが、一騎打ちとなれば危険が付きまとう」

「さすがは冒険者だな。ノーネームが勝つと思っているのか?」

「さすがは皇族だ。アムスベルグが敗れるとは思っていないようだ」

「賭けるか?」

「ふっ……強気だな。あなたでは俺の望む物を出せないだろうから、賭けはしない。だが、勝つのはノーネームだろう」

「俺の幼馴染は負けんよ」

会話はそこで終わる。

皇族とSS級冒険者が言い合いをするわけにはいかない。

周りの者も何事かとざわついている。

ここには皇帝や皇后、さらには帝都にいる皇族。そして大貴族もいるのだ。

あまり目立つわけにはいかない。

「アルノルトが張り合うとはな。レオナルト、お前はどう思う?」

「もちろん、エルナが勝ちます」

「なるほど。ブリュンヒルト、お前はどう思う?」

「私もエルナが勝つほうに一票を」

「劣勢だぞ? シルバー」

父上が面白がって周りの意見を集め始めた。

だが、ここは帝国の貴賓席だ。

「冒険者が勝つと思う者が多いとなると、あなたが困るのでは? 皇帝陛下」

「それもそうだな。だが、これではつまらん」

「では、私はノーネームが勝つほうに一票入れましょう」

「ほう? 思いつきではないな? エリク」

予想合戦にエリクが加わり、父上は楽しそうに理由を聞く。

エリクはいつもどおり表情を変えずに告げた。

「ノーネームを信じたのではなく、シルバーを信じたのです。エルナの力を見たことがあるシルバーが、ノーネームを推している。信頼するには十分でしょう」

「なるほど。確かにその通りだ」

「エリク殿下は賢明だな。だが、俺は魔導師だ。これから行われるのは超一流の剣士たちによる一騎打ち。予想は当てにならん」

そう言ってシルバーは首を横に振る。

その仕草は実に様になっている。

このシルバーはヘンリックが幻術で姿を変えたものだ。

皇族として俺は出席しなければいけないが、父上がシルバーを自分の傍へ呼んでしまった。

違和感を避けるために、ヘンリックを代役に立てたというわけだ。

「では剣士に聞こう。アリーダ、セオドア。二人はどちらが勝つと思う?」

父上は護衛についているアリーダとセオドアに意見を聞いた。

どちらもエルナと同格かそれ以上の剣士だ。

だが。

「エルナですね」

「エルナでしょうな」

即答だった。

もう少し違う答えが返ってくると思っていた。

それは父上も同じらしい。

「意外だな。そこまで即答する理由はなんだ? 記憶が正しければ、二人との稽古ではエルナのほうが分が悪いはずだが?」

「稽古と一騎打ちは違います。あくまで稽古は稽古。負けても学びがあればよいという姿勢でエルナは臨んでいます。しかし、一騎打ちに学びは求めないでしょう。絶対に勝ちに行く。そういう姿勢を見せたエルナが相手では誰も勝てないかと」

「そもそも私たちが全力でエルナと戦ったのは、数年前のこと。あの時のエルナと今のエルナでは比べ物になりません。本人は剣技において、我々のほうが上だと思っているようですが……一年前時点で、よくて互角、今は我々が負けるでしょう」

「勇爵家の神童は伊達ではないということか」

二人の意見を聞き、父上は何度も頷く。

わかっているようでわかっていない、アムスベルグ勇爵家の凄さ。

剣士でしかわからない部分で、アリーダやセオドアは理解しているらしい。

まぁ、聖剣を勇爵から奪えた時点でだいたい想像できたことではあるが。

アムスベルグ勇爵家の中で、神童と評されるエルナは別格の存在だ。先代ノーネームがエルナの存在を知って、暴走を始めたように、規格外だらけの勇爵家でもなお規格外。

「やはりエルナ優勢か」

「しかし相手はSS級冒険者。いくらエルナといえど簡単な相手ではありません。勝負は最後までわからないものです」

「それもそうだな」

皇后の言葉に父上は頷き、椅子に深く座り直した。

そろそろ一騎打ちが始まる。

勝負はやってみなければわからない。

ましてや超一流同士の戦いだ。

闘技場には勇爵家の神童とSS級冒険者の一騎打ちとあって、大勢の人が集まっている。

どう考えても収容キャパを超えているが、それでも入りきらなかった人たちが大勢いるくらいだ。

これほど人が集まるのはさすがに珍しい。

「兄さん」

「ん?」

「大丈夫だよね? ノーネームは勇爵家を超えることを目指しているとかって噂を耳にしたよ」

「どこにでもお喋りはいるもんだな。たしかにそれは本当だ。だから一騎打ちという場を準備した」

「ルールは定められているけれど、破ろうと思えば破れるものだ。信頼していいの?」

「知らんよ。まぁルールを破って、何でもありならエルナも何でもありで勝負するだけだろう。ただ、そうはならないだろう。シルバーがノーネーム側のことは保証するらしいからな」

「保証しよう。エルナ・フォン・アムスベルグが聖剣を召喚しないかぎり、闘技場が破壊されるような事態にはならないだろう。まぁ、ただの一騎打ちでも半壊させようと思えば半壊させられる者同士の一騎打ちではあるが」

「余計に不安になってきたよ……」

レオの不安をよそに二人の入場が発表されたのだった。