作品タイトル不明
第四百七十三話 近衛の神髄
「小賢しい!」
ナイジェルはそう叫びながら炎神を振るう。
ただ振るっただけで、強力な斬撃がアリーダとセオドアを襲う。
だが、セオドアがそれを風の魔法で防ぎ切り、その間にアリーダがナイジェルに肉薄する。
ナイジェルは空いている手に炎を溜めて、アリーダに向けて放った。
至近距離からの炎撃。しかもその威力は下手な魔導師の魔法以上。
それをアリーダは剣の一振りで弾き飛ばし、そのままナイジェルの心臓を貫いた。
そして即離脱。
見ればナイジェルの胸の傷はもう治り始めていた。
「再生能力は少しずつ弱まっているようですね……」
「こちらの消耗も激しいがな」
二人の息は乱れていた。
ナイジェルがあの状態になってからすでに三度。
致命傷をナイジェルに与えていた。
だが、どれも本当の致命傷にはなりえなかった。
セオドアもアリーダも生きた人間である。
自分の身を危険に晒して、ナイジェルの攻撃を掻い潜って攻撃を仕掛けている。
いくら猛者の二人とはいえ、精神的に追い詰められ始めていた。
「無駄なことを何度も何度も……いい加減、貴様らの相手も飽きた」
そう言うとナイジェルは両手で炎神を構えた。
ナイジェルの周りにあった炎が炎神へと巻き付き、やがて巨大な炎の竜となる。
今までの攻撃とは格が違う。
威力も範囲も。
避けることを諦め、セオドアとアリーダは迎撃の準備に移った。
セオドアは限界まで魔力を絞り切り、巨大な風の剣を形成する。
一方、アリーダは七種の魔法を周囲に展開。
それらを剣に集めた。
ただでさえ難しい魔法剣。
異なる魔法をかけ合わせる複合魔法。
片方でもできれば一流と呼ばれる技術だ。
魔導師が見たら卒倒しそうなレベルの合わせ技だった。
七種の魔法は反発し合い、今にも暴発しそうになる。それをコントロールしながら、アリーダは突きの体勢を取る。
「これで消し炭となれ! 獄炎竜!」
巨大な炎の竜が向かってくる。
まずはセオドアが風の剣でそれを受け止めた。
だが、セオドアの渾身の風の剣でも押し込まれる。
じりじりと迫る炎の竜。
余波でどんどん地面がえぐれていく。
当初は周囲に配慮していたセオドアとアリーダだったが、もはやそんな余裕はなかった。
ナイジェルを討つには全力で行くしかなかったのだ。
「奥義……虹滅剣」
アリーダは静かに呟き、高速の突きを放った。
同時に暴走寸前の魔法たちが解放される。
七種の輝きが混ざり合って炎の竜と激突した。
目も開けられないほどの光と共に、巨大な爆発が周囲を包む。
吹き飛ばされたセオドアとアリーダは、剣を杖代わりにして体を起こす。
「これほどとはな……」
「元々覚悟の上です……SS級の相手ならばこれくらいはやるでしょう」
ナイジェルが手にしているのは炎神。
大陸最高峰の魔剣だ。
ナイジェルほどの使い手が持てば、その危険度はSS級まで跳ね上がる。
苦戦は覚悟の上。
「向こうも楽ではないはずです」
アリーダはこの状況でも冷静だった。
煙が晴れていき、ナイジェルの姿が見えてくる。
ナイジェルも荒い息を吐いていた。
ナイジェルにとっても勝負をかけた一撃だったのだ。それが防がれた。
予想外だったに違いない。
「疲弊しているのは向こうも同じ。疲弊しているならば、あの再生能力も長くは続かないでしょう」
「お前の分析は的確だが……こっちも満身創痍だということを忘れていないか?」
「疲れたなどと言うつもりですか? 帝国の近衛騎士団長と副団長が揃って、敵の前に膝をつくなどあってはならないことです」
そう言うアリーダの右腕は満足に動いていなかった。
奥義というからには、それ相応の代償がある。
先ほどの技の反動が来ているのだ。
だが、アリーダは剣を左手に持ち替える。
「ここは帝国。そして私たちは近衛騎士。帝国の敵を討つ。それだけはっきりしていれば、力などいくらでも湧いてきます」
「やれやれ……」
その場を動かないセオドアを尻目に、アリーダは一歩一歩前へと進んでいく。
厄介な上司を持ったと思いつつ、セオドアもその後に続いた。
その姿を見ながら、ナイジェルは舌打ちをした。
渾身の一撃だった。
それを耐えきり、戦意を喪失するどころか、先ほどにも増す勢いで向かって来ている。
「鬱陶しい奴らだ……何が貴様らをそこまでさせる!?」
「あなたにはわからないでしょう。私たちは近衛騎士。護ることを主とした騎士です。守護する対象は多い。それが弱点だという者もいるでしょう。ですが、それは間違った意見です。護るべきモノが私たちを強くする」
アリーダとセオドアは同時にナイジェルへ切りかかった。
ナイジェルはその一撃を受け止めるが、その力に押された。
「なにぃ……?」
相手は満身創痍。
アリーダに至っては片手だ。
それなのに押されている。
ナイジェルには理解できなかった。
「理解できないか? ナイジェル。私たちがどうして強いのか」
「貴様らが強い? 馬鹿にするな!」
ナイジェルが押し返そうとするが、逆にさらに押し込まれた。
ナイジェル自身、疲弊している。
だが、条件は同じはず。
なぜなのか。
「人は受け継いでいく生き物です。種を、血を、意志を。帝国は、皇族は、そうやって存続してきました。それを守るのが我ら近衛騎士。白いマントを羽織ったその時より、私たちの背中にはあの方たちがいる。護ることこそ近衛の神髄。大切な人を殺したあなたには一生理解はできない力です」
アリーダの言葉と共に、ナイジェルは押し切られて斬撃をその身に受けた。
両肩に深々と剣が食い込む。
セオドアがナイジェルを蹴り飛ばし、剣を体から引き抜き、追撃をかける。
さきほどまですぐに再生していた傷が、すぐには再生していなかったからだ。
ナイジェルは何とか距離を取ろうとするが、上手く体が動かない。
度重なる再生で、ナイジェルも満身創痍に近かったのだ。
こんなところで。
ナイジェルがそう思った時。
ナイジェルとアリーダたちの間に、誰かが割って入った。
「困りますね。こんなところで暴れる予定ではなかったはずです」
「やっと来たか……遅いぞ」
「罠とわかっていて挑んだあなたのせいでは?」
不気味な黒いローブの人物がそこには立っていた。
新手、しかも立ち振る舞いからみて相当やる。
アリーダとセオドアは距離を取って、仕切り直しを選んだ。
「さすがは近衛騎士団の団長と副団長。炎神を全力で使う彼を相手に渡り合うとは。驚きです」
「渡り合ってなどいない!」
ナイジェルは荒い息を吐きながら、体の再生を終える。
そして首を鳴らしながら炎神を構えなおした。
ローブの人物は肩を竦めながら自分も剣を取り出した。
「まぁいいでしょう。疲弊した近衛騎士団の団長と副団長。悪くはありません」
「エルナからの報告で、ラファエルを捕らえようとした時、邪魔が入ったと聞きました。あなたですか?」
アリーダは聞いていた特徴から、そう判断していた。
ローブの人物は肯定も否定もしない。
それを見てアリーダは剣を構えなおした。
「答えないなら答えさせるまで。あの裏切り者の居所を吐いてもらいます」
「この状況で勝てると思っているのですか?」
「二対一でようやく互角。それが二対二になった。たしかに不利でしょう。ですが、ここは帝国。援軍があなた方だけだとお思いですか?」
瞬間。
声がその場に響いた。
「帝国第七皇子アルノルト・レークス・アードラーが命じる。勇者よ、その手に聖剣を取れ!」