軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百六十六話 待つ理由

俺が指揮を執り始めてから一週間が経った。

今のところ、帝都に異常はない。

「何で動かないのよ?」

エルナが俺の部屋まで訊ねてきて、そんなことを聞いてきた。

ロスアークについての書物を読んでいた俺は、それを閉じて窓から帝都を見下ろす。

「何も起きていないんだ。動く必要はない」

「一人死んだのよ?」

「なぜわかりやすく殺したと思う?」

「? なぜって……自分がいるってわかればセオドア副団長が出てくると思ったからじゃないの?」

「その通りだ。どうしてそんなことをしたと思う?」

「……わかりやすく話して」

俺の質問に答えず、エルナが顔をしかめながら答えを急かす。

そんなエルナに苦笑しつつ、俺は今の状況を説明する。

「近衛騎士団の副団長、帝都の大物だ。引きずり出すのは容易じゃない。だから自分から出てくるように仕向けた。あれで動けば、死体を出せば出てくると判断されかねない。だから動かず、準備に時間を割いた。実際、あれ以来、死体は出てないだろ?」

「こっちが気づいてないだけかもしれないわよ?」

「そこを気にしてたらキリがない。できることなら即捕まえたいが、無理をすれば悲惨な結果が待っている。セオドアの弟弟子、ナイジェルが持っている魔剣はおそらく、この書物に出てくる魔剣だ」

かつてロスアークは旅の中で一本の魔剣を発見した。

古代魔法時代、炎を操る古竜の体を素材として作られた魔剣。

その炎竜と同じ名をつけられた炎の魔剣〝 炎神(マルス) 〟。

現存する魔剣の中では、ノーネームが持つ冥神と並ぶ最高位の一本だ。

ロスアークが見つけた時は、ほとんど朽ちた状態であったらしい。

ゆえにそんな魔剣とも思わず、ロスアーク個人の所有物になった。

詳しく調べていれば、冒険者ギルドの預かりとなっただろう。

あまりにも危険だからだ。

セオドアがこの魔剣のことを詳しく知っていたところから見るに、ロスアークもこの炎神のことを知っていたか、あとから知ったんだろう。

エゴールに勝とうと思えば、これくらいの魔剣は必要になる。

ナイジェルが奪ったということは、少なくとも使えるレベルまで復活させていたと考えるべきだろう。

その気になれば帝都を火の海にできる魔剣だ。

無駄な刺激は避けたい。

「相手を警戒するのは結構だけど、時間が経てば行方を晦ます可能性があるわよ?」

「決着をつけるつもりで十年以上ぶりに姿を現したんだ。この期間、ナイジェルは攻撃剣術を極めていたんだろう。勝てる自信があるから出てきたはずだ。一度もその成果を発揮せずに撤退はしない」

「一戦交えるまで帝都にいると思っているの?」

「ああ。だから簡単には動かない。下手に追い詰めて逃がせば、また修行を始めるだろう。先送りにはしない。確実に仕留める」

相手は未知数。

考えうるかぎり、帝都において最強のメンバーを使えるわけだが、こっちは被害を出せない。

倒したけど、帝都の被害は甚大です、では話にならない。

「さて、用が済んだなら戻れ。怪しまれたくない」

「用は済んでないわよ。いつ動くのよ?」

「戦力が整ってからだ。俺に従ってもらうと言ったはずだぞ? 信用してないならそう言え」

「そういうことじゃないけど……」

エルナが唇を尖らせる。

そんなエルナを手で追い払い、俺は部屋で書物を読み始めたのだった。

■■■

夜。

誰もいない部屋。

真っ暗な中で声が響く。

「厄介事に巻き込まれているらしいな?」

本来、帝都にいるはずのない人物の声。

それに俺は静かに答えた。

「手を出すな。お前が暴れると帝都が崩壊する」

「お節介はしねぇよ。頼まれればやぶさかではないけどな」

窓に座っているのは大陸最強の弓使い。

五人しかいないSS級冒険者の一人、ジャックがそこにいた。

「結構だ。どうして帝都にいる?」

「ミアの様子を見てきた帰りだ。帝都に戻ったと聞いてな。挨拶くらいはしておこうと思ったのさ」

「ありがたいことだが、今の帝都はピリついている。さっさと離れてくれ」

「付き合いの悪い奴だ。酒くらい出してくれてもいいだろうに」

「暇じゃないんでな」

「そうか。手伝えることはないのか?」

「ないな。帝都内だからSS級冒険者に出番はない。ただ、聞きたいことはある。ロスアークについて知っていることは?」

俺の質問にジャックは笑う。

そして一言、懐かしいなと呟いた。

「ロスアークと俺の師匠は同じ武芸者だったから、接点があった。なるほど、弟弟子がやらかしているのか」

「そこまで知っているか。それじゃあロスアークと弟弟子の間には確執はあったのか?」

「そこまで知らん。ただ、弟弟子は戦災孤児。皇国と帝国との戦争が原因だそうだ。帝国に恨みがあってもおかしくはない」

「怨恨か……そこは本人に聞かないとわからないな」

「お前に気をつけろというのはおかしいが、帝国に恨みがあるなら皇族が狙われるかもしれんぞ?」

「そっちのほうがやりやすいんだがな。わかった。頭には入れておく」

「ミアに協力させるのか?」

「使える戦力は使う。嫌か?」

「使ってやってくれ。あの子も借りは返したいと思っているだろう」

そう言ってジャックはその場を後にしようとする。

そんなジャックに俺は声をかけた。

「王国の監視を怠らないでくれ。何か起こるとするなら、王国からだ」

「安心しろ。ギルドからもそういう指示を受けている」

そう言ってジャックは姿を消す。

静けさを取り戻した部屋から、俺は帝都を見下ろすのだった。