軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百六十話 挨拶回り

玉座の間での話し合いが終わったあと、俺はレオと別れて、後宮に向かった。

帰還の挨拶をするためだ。

「無事、帰りました」

「元気そうでなによりよ、アル」

一年前と変わらず、落ち着いた様子で母上はそう言った。

元気そうでなにより。

それは俺の台詞だった。

まだ病気は散発的なもので留まっているらしい。

そのことに安堵しつつ、俺は母上が用意していたお菓子に手を伸ばす。

その時、後ろから目隠しをされた。

「誰だ?」

「誰だと思う……?」

久しぶりの声だが、間違えるはずもない。

俺は迷わず答えた。

「変わってないみたいだな? クリスタ」

「変わってる。少し背が伸びた。お帰りなさい、アル兄さま」

手を外し、後ろを見るとそこにはクリスタがいた。

たしかに少しだけ、本当に少しだけ背は伸びたかもしれない。

ほとんど誤差だが、本人にとっては大きな進歩なんだろう。

頭を撫でていると、クリスタの後ろにいた少女が手を振ってくる。

「お帰り! アル兄!」

クリスタよりも背が伸びただろうか。

クリスタの友人であり、騎士見習いのリタだ。

だが、その背には白いマントがつけられていた。

それを見て、俺がフッと笑うとリタはハッとした様子で膝をついた。

「近衛騎士見習い、リタ! アルノルト殿下に拝謁します!」

「近衛騎士見習い?」

「エルナが自分で鍛えるって言って、無理やり部下に引き入れたのよ。実績は十分だったから、特例が認められたの。とはいえ、選抜試験を通っていない近衛騎士は存在しないわ。だから見習いなのよ。今はクリスタの専属護衛ね」

「なるほど。つまり、前と変わらないってことか?」

「うん、リタとはずっと一緒」

そう言ってクリスタは俺から離れて、リタと手をつないで笑った。

リタはどうすればいいのかわからず、ただオロオロとしている。

近衛騎士見習いとして、身に着けるべき礼儀は確かに存在する。

だが。

「硬くなる必要はない。エルナも俺には砕けた態度を取るだろ? 時と場合だ。今は普通にしていろ」

「おー! さすがアル兄! わかりやすい!」

リタは快活な笑みで何度も頷く。

エルナも自分の態度がある以上、リタを叱ることはできないだろう。

「さてと、じゃあ俺は行きますね」

お菓子をつまんで、口に放り込むと俺は席を立つ。

さすがに母上も苦笑する。

「もう少しゆっくりできないのかしら?」

「あとでまた来ますよ。とりあえず帰ってきた挨拶だけは今日中に済ませようと思って」

「じゃあ、久々に食事でも用意しておくわ」

「お母様の手作り、嬉しい」

「じゃあ遅くならないように戻りますよ」

俺は肩を竦めながらその場を後にした。

■■■

帝都の最外層。

そこにある小さな道場。

俺はひっそりとその道場を覗く。

すると、そこで一人の男が素振りをしていた。

「……ついに門下生がいなくなったか」

「今日は休みなんだよ!」

ポツリと呟くと、男が思いっきり否定してきた。

そして振り向いた男と目が合う。

「よう、久しぶりだな」

「お前なぁ……まず久しぶりが先だろうがよ……」

顔をしかめながらガイがため息を吐いた。

だが、すぐにガイはニヤっと笑う。

「まぁいい。良く帰ったな、アル」

「ああ、やっと宰相なんて面倒なものから解放されたよ」

「ずいぶん派手にやらかしてたらしいな? 貴族という貴族を摘発したとか」

「そこまでじゃない。まぁ似たようなもんだが」

「噂は帝都にも届いてきて、お前の評判は最悪だぞ? 皇太子殿下の恨みを貴族にぶつけてるって」

「そんなんじゃない。単純に職務としてやってただけだ」

「お前がそんな勤勉な性質かよ。どうせ悪だくみの過程だろう?」

さすが幼馴染。

よくわかってらっしゃる。

肩を竦めると、ガイはそれ以上追及せずに話題を変えた。

「それはそれとして、この一年で色々と帝国は変わったんだ。それを聞きに来たんだろ?」

「察しが良くて助かる。レオに聞いてもいいんだが、第三者から聞いたほうがわかりやすいからな」

「まぁ、俺も噂程度でしか知らないけどな。一応、帝位争いは膠着状態だ。帝都周辺の高位貴族たちは軒並み、エリク殿下を支持して、辺境の貴族はレオを支持してるみたいだぜ」

「それは予想通りだな。元からエリク側の貴族がほとんどだ。諦めるしかない」

「大臣も大半はエリク殿下よりだ。それでも互角なのは――西部筆頭クライネルト公爵、北部筆頭ツヴァイク侯爵、そして南部筆頭ジンメル伯爵、いやもう侯爵か。三つの家が大々的にレオを支持しているからだ。ここ最近、実績を残した貴族といえばこの三家だからな。名のある貴族はエリク殿下につき、実のある貴族はレオについている。それが平民から見た帝位争いだ」

ガイはそう言って帝位争いの説明を終える。

おおむね予想通り。

ガイは詳細を知らない一般人だが、実際のところも大差ないだろう。

変化を嫌う貴族はエリクにつき、変化を求める貴族はレオにつく。

大半の貴族がエリクにつくのは、今更レオについたところで旨味はないからだ。

劣勢の時に協力してくれた者こそ、信頼に値する。

帝位争いが二者択一となった今、どちらかにつかねば明日はない。

多少なりとも地位のある者は、レオを恐れる。

レオが皇帝になれば、今、地位がない者たちが地位につく。

その時、誰かが地位を譲らねばならないからだ。

エリクの場合、それはない。

現状維持が約束されている。エリクはそういう風に立ち回っているからだ。

維持か変化か。

互いにメリットがあり、デメリットがある。

「それと、これは冒険者ギルドの話だが……ギルド本部は高ランクの冒険者を本部に集めたり、王国周辺に配置し始めた。一年前の悪魔騒動で相当警戒してるみたいだぞ」

「当然だな。あれだけ被害が出たんだ」

当初、悪魔の討伐は公にはされていなかった。

だが、被害が多すぎて隠しきれなかった。

王国にて悪魔が出現し、SS級冒険者が討伐した。

それがギルドの説明だ。

しかし、平民ならともかく冒険者はそれを鵜呑みにはしない。

悪魔の出現なんていうのは一大事であり、本来なら周辺の冒険者が動員される。

わざわざSS級冒険者が複数で動いたということは、計画された動きだったということ。

自然と、その舞台になった王国への不信感につながる。

それに拍車をかけるのが、今回の本部の動きだ。

本格的に王国にどう思われようが構わないと決めたらしいな。

「それでだな。帝国にもS級冒険者が増員されるらしい。帝都支部の奴らは、シルバーと揉めるんじゃないかって最近はひやひやしているよ」

「もめるなんて子供みたいなことしないだろ」

「お前はシルバーを知らないからそう言えるんだ。中身はガキだぞ? エルナと一緒だ」

ガイの言葉に俺は笑みを作りつつ、固まる。

まさかエルナと同類扱いされるとは。

心外な。

否定したい気持ちを押さえつけつつ、俺はガイの話に耳を傾けるのだった。