軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百七十三話 ゴードン死す

「うおぉぉぉぉ!!」

ゴードンは決死隊を率いてレオ達の軍に突撃した。

だが、真正面から突撃したわけではない。

レオはウィリアムたちを追わせるために、軍を二手に分けた。

その追手部隊にゴードンは突撃を仕掛けたのだった。

「続け! この俺に続け!!」

前線で剣を振るいながら、ゴードンは口から血を吐き出す。

レオに受けた傷が開いたのだ。だが、止まらない。

後ろにいる部下たちが止まらないからだ。

自分が止まれば部下たちも止まってしまう。

「レオナルトぉぉぉぉ!!」

ゴードンは自らを奮い立たせて声を張り上げた。

ウィリアムを追わせないためだ。

別動隊にゴードンが襲い掛かったならば、別動隊にゴードンを任せてレオがウィリアムを追うということもありえる。

だからゴードンはレオの名を呼び続けた。

自らはここだと知らせるために。

「レオナルトぉぉぉぉお!!!!」

幾度かの叫びの後、ゴードンの視界に弟の顔が映った。

レオではない。

別動隊を率いていたアルだ。

その顔を見てゴードンは笑う。

アルに迫ればレオが出てくると思ったからだ。

だが、敵部隊は急速に退避を開始した。

もはや限界に達していたゴードンたちはそれを追うことができなかった。

そして、敵が弓隊を展開した。

「我が弟ながら……嫌な奴だ」

この状況で一番やってほしくなかったこと。

乱戦に付き合わず、一度立て直して遠距離からの攻撃。

ロルフとは器が違う。相手を侮っていないからこそ、最も嫌がる手を打ってくる。

さすがのゴードンにも打つ手がなかった。

矢が放たれ、それをゴードンは見上げた。

だが、ゴードンの視界に人の背中が映った。

一瞬の後。

ゴードンの代わりに無数の矢を受けたフィデッサーの姿がそこにはあった。

「フィデッサー!」

「……進みましょう……あなたの最期の道は……我らが……」

そう言ってフィデッサーは矢が刺さったまま馬を進める。

それにゴードンの部下たちが続いていく。

矢は絶え間なく続くが、彼らは止まらない。

そしてゴードンはその後を追った。

「うおぉぉぉぉぉ!!!!」

執拗な矢による攻撃。

だが、部下たちを盾としてゴードンはそれを突破した。

「フィデッサー!!」

いつも返事を返していた部下の声はもうしない。

そのことにゴードンは顔を歪めながら、弓隊に突撃した。

「進めぇぇぇぇ!!」

ゴードンの突撃は鬼気迫るものがあった。

だから弓隊が突破された時点で、レオは動いていた。

ゴードンの前にレオがゆっくりと降下してくる。

周りはレオが率いていた部隊が固めている。

ウィリアムへの追撃を諦め、ここでゴードンを確実に討つと決めたのだ。

「日和ったな! ウィリアムを追えばウィリアムも討てたものを!」

「日和ったんじゃない。あなたを認めているんだ」

そう言ってレオは剣を構える。

そしてノワールに乗ったまま突撃した。

だが、それに対してゴードンは突撃で返した。

剣と剣がぶつかりあう。

力比べが発生し、ゴードンはレオを弾き飛ばした。

ノワールから降ろされたレオは、空中で体勢を整えて着地する。

その手は信じられないほど痺れていた。

致命傷を負っている人間の一撃とは思えないほどの強さがそこにはあった。

「重かろう……俺と部下の命の重さだ……受け止めてみろ!!!!」

そう言ってゴードンは馬を進めてレオに襲い掛かる。

ゴードンの最大の長所は攻め。

今まで発揮されてこなかった長所が今、最大限に発揮されていた。

レオも反撃を繰り出すが、ゴードンは相打ち上等とばかりに剣を振るう。

結果、レオの攻撃はゴードンの動きを止めるには至らない。

一撃一撃が重く、レオは剣を受け止めるたびに吹き飛ばされた。

そしてレオはゴードンの一撃を受け流しきれず、思いっきり吹き飛ばされた。

「ぐっ……!」

「立て……立って向かってこい!!」

かつても同じ言葉をかけた。

ゴードンは馬を下りる。

同等の条件で戦いたかった。

かつてのように。

「はぁぁぁぁ!!」

「甘いわ!!」

レオは体勢を立て直し、連続の攻撃を仕掛ける。

息もつかせぬ連撃。

だが、ゴードンはそれをしのぎ切ってレオを蹴り飛ばす。

「手負いの俺にも勝てないものが皇帝になるだと……? 笑わせるな! 弱者に帝国の皇帝は務まらん! 甘く、弱いお前にそんな資格があるものか!!」

「僕は……昔の僕じゃない」

「ならば証明してみせろ……俺は俺よりも弱い皇帝など認めぬ!!」

そう言ってゴードンは一歩一歩レオに近づいていく。

言い知れぬ圧をレオは感じていた。

かつて感じた凄みが今のゴードンにはあった。

前線で部下の先頭を行く将軍としての覇気。

背後に多くの仲間を背負った歴戦の戦士としての自負。

剣には重みがあった。

受け止めきれずにレオは幾度も吹き飛ばされる。

だが、レオは諦めなかった。

食らいつき、やがてはその一撃を止め始めた。

そうなると足を止めての打ち合いが始まる。

「うおぉぉぉぉぉ!!!!」

「はぁぁぁぁぁぁ!!!!」

気を抜けば意識を持っていかれそうな一撃。それを受け止め、相手に反撃する。

だが、もはや死を覚悟したゴードンに生半可な攻撃は通じない。

それでもレオはゴードンから逃げることはしなかった。

その姿にゴードンは笑みがこぼれそうだった。

曲がりくねった自分とは違い、弟は真っすぐ育った。

諦めないという姿勢は将には必要だと教えた。将が諦めなければ兵士も諦めない。

それをレオは忠実に実践していた。ゴードンから距離を取り、ゴードンが疲弊するのを待つというのも一つの手だった。

しかし、レオはそんな手を使わない。兵士たちが見ているからだ。

勝たねば皇帝として認めぬと言われたから、それを真正面から打ち破ってみせるという気概がレオにはあった。

心が認め始めていた。

強くなった弟を。

意識が遠のきそうになるのを必死にこらえ、ゴードンは最期の力を振り絞って突きを繰り出した。

それはレオの首を狙った全力で本気の一撃。

だが、レオはそれを躱してゴードンの懐に飛び込んだ。

そしてゴードンの胸をレオの剣が再び貫いた。

今度は心臓を貫かれた。

完璧な一撃だった。

「……見事だ……さすがは俺の……弟だ……」

「ゴードン……兄上……どうして……?」

「許せ……愚かだった……多くのことをお前に……押し付けることになる……」

そう言ってゴードンは顔をあげた。

視線の先にアルの姿があった。

アルはゴードンに向かって一礼する。

ゴードンはそれを見て微笑むと、レオに告げた。

「死に方を選ぶ贅沢が俺にはあった……幸運だった……戦場で弟の成長を見られた……」

「そんな風に思うなら……どうして反乱なんか……?」

「どうしてだろうな……だが、起こしたことは事実……最期に見せてくれ……お前の……勝ち名乗りを……」

そう言ってゴードンはレオを押して剣を引き抜く。

そしてそのまま仰向けに倒れた。

だが、その目はレオに向いていた。

そんなゴードンに見つめられながらレオは剣を高く掲げた。

「国家の反逆者!! ゴードン・レークス・アードラーは第八皇子レオナルトが討ち取った!!」

その姿を目に焼き付けたあと、ゴードンはゆっくりと目を閉じた。

弟は自分を超えた。

奇妙な満足感がゴードンを包んでいた。

そんなゴードンの耳に声が届く。

「相変わらず脳筋ね」

「そういうな……俺にはこれしかできんのだ」

「まぁ満足できたならいいんじゃない? あとはあの子たちに任せましょう」

「そうだな……あとは弟たちに任せるとしよう」

そう言ってゴードンの意識はゆっくりと薄れていった。

帝都から始まったゴードンの反乱はこうして幕を閉じたのだった。