軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百七十二話 心友

ゴードンが天幕の中で目を覚ました時。

傍にはフィデッサーが控えていた。

「よかった! お目覚めになられた! 殿下! 私がわかりますか?」

「フィデッサーか……戦況はどうだ……?」

「……敵の攻勢により山頂を残して拠点は失いました。ウィリアム殿下がなんとか指揮を取ってくれたのですが……」

「……よく耐えた」

ゴードンはそうフィデッサーを労うと、顔をしかめながら体を起こした。

そして傷だらけの自分の体を見て、苦笑する。

「負けたか……俺は」

「まだ負けておりません! 山を下りることができれば再起の可能性は十分にあります!」

「そうだな……だが、そのためには連合王国の協力がいる」

そう言ってゴードンは天幕の入口を見る。

そこにはゴードン同様に傷だらけのウィリアムがいた。

歩くのも辛いのか、槍を杖代わりにしていた。

「目覚めたか……ゴードン」

「死に損ねたようだ……」

「なによりだ。私に何か言うことはないか?」

子供たちを兵器利用したことをウィリアムは暗に責めた。

フィデッサーはそれを聞き、顔を曇らせる。

勝つためだとしてもやっていいことと悪いことがある。

結局、あの一件のせいで軍は崩壊してしまった。戦略的に見ても悪手だったことは間違いない。

だが、ゴードンは笑う。

「子供を利用したことか……我ながら悪い手を打ったものだと思っているよ」

「それだけか?」

「謝罪が欲しいのか……? 俺の謝罪で何になる? 子供は無事だ。俺の弟たちが助けた。それでいいではないか」

言いながらゴードンはベッドから立ち上がり、フィデッサーの助けを借りながら鎧を身に纏う。

どこか今までとは違う雰囲気にウィリアムはゴードンを凝視する。

「本当に……ゴードンか……?」

「俺以外の誰に見える……? 深手で血を流しすぎたか……?」

「……お前は変わったものだと思っていた」

「馬鹿な男だ。変わったと思ったなら見限ればいいものを……国に反旗を翻し、これほど劣勢の中でも付き合ってくれるのはお前くらいだろうな」

「付き合いたくて付き合ったわけではない」

「そうだろうな。お前の父は人を見る目がない。俺に加担するなど愚か者のすることだ」

言いながらゴードンは自らの剣を腰に差した。

戦闘準備は整った。

鎧で傷は隠せているが、深手であることは変わりない。

安静にして、適切な処置をすれば命は助かるかもしれない。そのレベルの傷だ。

だが、ゴードンは安静にする気などなかった。

「愚かな友よ……まだ俺を友だと思ってくれるか?」

「正直、辞めたいと思っているが……腐れ縁は切れんものだ」

「そうか……なら俺の願いを聞いてほしい」

「なんだ? レオナルトと再戦でもする気か? 先約は私だぞ」

「いや……残存部隊を率いてヴィスマールに撤退してほしい。そして妻と娘を、いや――〝家族〟を頼む」

「……私にだけ逃げろと言うつもりか?」

怒気の孕んだ声でウィリアムが問いかける。

だが、ゴードンは静かに頷く。

「お前ならわかるはずだ……もはや連合王国への撤退しか手はない。お前がいなければ成立しない話だ」

「笑わせるな……父上は私を斬るだろう。帝国への手土産としてな」

「負傷兵ばかりとはいえ、一万近くの軍を率いていれば早々手は出せん。その後はお前次第だ」

言いながらゴードンは豪快な笑みを浮かべた。

そして拳を突き出す。

「友だと心の底から思っているなら……引き受けてほしい」

「私は……共に死のうと言ってほしかった」

「すまん。何もかも……こんな反乱に付き合わせたことも、苦労ばかりかけたことも……本当に申し訳なく思っている。だが、俺にはやることがある」

「何をする気だ?」

「裏切り者を粛正しなければいかん。こちらが疲弊している以上、そのうち万全の軍で攻撃を仕掛けてくるだろう。奴らはエリクの手の者だ。手柄をレオナルトに渡す気はないだろう」

「ならば、なおさら逃げねばならないのではないか?」

「二人では逃げられん。必ず背を追われる。俺は殿となって敵を食い止めよう。そして……ホルツヴァート公爵を討つ。俺のこの首は卑怯者にはやらん。このゴードンを討つのは……策を練り、味方を集めてきた弟たちだ。奴らは俺に勝ったのだ。報酬がないなど理不尽ではないか。ましてやハイエナのごとき輩に盗まれるなど、断じてあってはならん」

ゴードンの目に覚悟を見てとり、ウィリアムは自らも拳を突き出す。

二人の拳がぶつかりあった。

「お前の願いは聞き入れよう。私がすべてを預かる。家族を任せろ」

「頼んだ」

そう言うとゴードンはウィリアムの横を通り過ぎていく。

そんなゴードンにウィリアムは告げた。

「お前の友で……よかったと思っている」

「お前にとって俺が友であったことは汚点でしかないだろう……だが、俺にとっては誇りだ。連合王国に行き、お前と出会えたことは俺の生涯において最大の幸運だった。最期まで友であってくれたこと……感謝している。お前は常に心からの友だった」

ウィリアムは思わず振り向く。

ゴードンは振り返らない。

真っすぐ兵士たちの下へ向かっていき、告げた。

「山の裏側にいるホルツヴァート公爵家の軍を突破し、負傷兵たちを逃がす。俺と共に死ねる者だけ突撃準備を開始しろ」

そう言ってゴードンは馬の準備を始める。

それを見て、今までずっと地面を見ていた兵士たちが立ち上がり始めた。

やがて、絶望が蔓延していた拠点に活気が戻り始める。

そしてゴードンが馬に跨り、剣を掲げたところで士気が最高潮に達する。

「皆、これまでよく戦ってくれた! 最後の戦いだ! このゴードンに続け! 俺の背を追え! 俺の背が見えているうちは決して倒れるな! 皆の前には常に俺がいる! 遅れは許さん! 俺と共に駆けろ!! 突撃ぃぃぃぃ!!!!」

号令をかけたゴードンは騎馬隊を率いて山を駆け下りたのだった。

■■■

ゴードンに付き従ったのは五百騎のみだった。

満足に動ける兵士がそれだけ少ないということだった。

負傷兵の中には戦うと言い張る者もいたが、彼らは全員ウィリアムの下に預けられた。

一方、ホルツヴァート公爵家の軍は三千。

数の差は六倍。

だが、機先を制したことで敵の意表をつくことができた。

ゴードンに攻撃を仕掛けるために山を登り始めていたホルツヴァート公爵家は、防陣を敷くことができなかったのだ。

「ぬん!!」

ゴードンは一振りで数名の騎士を吹き飛ばし、道を切り開いていく。

その後を決死隊が続く。

ゴードンと共に死ぬと決めた彼らは強かった。

腹を刺され、馬上から引きずり降ろされても彼らは剣を手放さず、周りの騎士を道連れにするほどだった。

その様子にホルツヴァート公爵家の軍は動揺し、ゴードンの突撃を止められなかった。

だが、数の差がある以上、徐々にすり減っていく。

それでもゴードンはホルツヴァート公爵家の当主、ロルフの前までやってきた。

「裏切った報いは受けてもらうぞ……奸物め」

「これはこれは、ゴードン皇子。ずいぶんとお怒りのご様子ですね?」

「ああ、怒っている。貴様らが手柄欲しさに醜悪な行動に出たからな!」

ゴードンはロルフの護衛の騎士たちを吹き飛ばし、ロルフに剣を向ける。

だが、その瞬間。

ゴードンは炎に包まれた。

「馬鹿め! 貴様らのような化け物を相手にするのに、備えがないわけがないだろう!」

それは魔法だった。

周りに控えていた十人の魔導師が炎の魔法でゴードンを焼いたのだ。

炎は絶えずゴードンを襲う。

「こうやって備え、利口に立ち回り、私たちホルツヴァート公爵家は血を守り抜いてきたのだ! 争いばかりを起こす馬鹿なアードラーに奸物呼ばわりされる謂れはない!」

そう言ってロルフは勝ちを確信した笑みを浮かべた。

だが、そんなロルフの目に炎から飛び出てきた腕が映った。

「な、にぃ……?」

ゴードンの腕がロルフの首を絞めつける。

片手で動きを封じられたロルフは何か言おうとするが、炎の中から顔を出したゴードンを見て、顔を恐怖で歪ませることしかできなかった。

「お喋りな奴だ……すぐ逃げぬからこうなる……」

「がっ、くっ……!」

「臆病こそがホルツヴァート公爵家の強み。貴様はその点、ホルツヴァート公爵家らしくはない……」

「ま、て……」

「よく覚えておけ……ホルツヴァート公爵家が血を守り抜いてきたと言うなら……我らアードラーは磨き抜いてきたのだ!! 貴様ごときに馬鹿にされる謂れはないわぁ!!!!」

そう言ってゴードンは剣を振るってロルフの体を両断した。

そして上半身を魔導師たちに投げつける。

「その程度の炎でこのゴードンを止められると思ったか!!」

そう言ってゴードンは魔導師たちを斬り捨てていく。

当主が死んだことで、ホルツヴァート公爵家の軍は統制を失った。

そんな軍をゴードンたちは荒らしまわる。

追手を出させないためだ。

負傷兵を抱えたウィリアムの軍は山を下り切ったところだった。これからヴィスマールへの撤退に入る。

そちらにゴードンは視線を向ける。

すると空に赤い飛竜が見えた。

ウィリアムの飛竜だ。

その背に跨ったウィリアムが槍を掲げた。

「武運を祈る!!」

「……武運を祈るか……」

そう言ってゴードンは視線を逆の方向に向けた。

レオ率いる軍がもうすぐそこまでやってきていた。

ウィリアムたちを追わせないためにも、あの軍を止めなければいけない。

だが、ゴードンと共に突撃した決死隊は二百名足らずになっていた。

対するレオの軍は五千を超える。

向こうも疲弊した兵が多いだろうが、士気という点でホルツヴァート公爵家の比ではない。

それでもゴードンは笑う。

「フィデッサー」

「はっ! ここに!」

「昔を思い出すな……攻めしか能のない俺はいつも突撃を仕掛けていた……」

「おかげで武勲を立てやすかったのを覚えています」

「そうか……最期までとことんついてきてくれるか?」

「喜んで!」

「よし! 先ほどと同じだ! 俺の背を追え!! 俺の背が見えるかぎり! 諦めることは許さん! 行くぞ!! 続けぇぇぇ!!」