軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百四十六話 撤退の計画

本陣が下がった場合、追撃しろと命令を受けていたフィンは敵本陣の中で最も護衛の厚い部分に襲撃を仕掛けた。

護衛の大部分は兵士。

しかし、フィンはその存在を感じ取っていた。

「ノーヴァ!」

ヘンリックの姿を捉えながら、フィンはノーヴァの手綱を引いて空に上がった。

今までフィンがいた場所に一瞬遅れて、ナイフが飛んできた。

ヘンリックの護衛についていた暗殺者たちだ。

ザンドラの陣営の三割ほどをヘンリックは受け継いだ。その中には暗殺者たちもいたのだ。

そんな暗殺者たちを率いるのはザンドラの側近だった暗殺者、ギュンターだった。

帝都での反乱時、セバスにやられたギュンターだったが、手当を受けて帝都を逃げ出すことに成功していた。

そしてヘンリックの下にはせ参じたのだ。

「殿下、お逃げを」

「ギュンター! 任せたぞ!」

ヘンリックは安堵の表情を浮かべながら、他の護衛と共に走り去る。

それを追おうとフィンが追撃をかけるが、ヘンリックに迫った瞬間。

後ろから魔法でできたナイフが飛んできた。

それをギリギリで避けたフィンは、ヘンリックの後を追うことを諦めた。

ほかの暗殺者ならいざ知らず、この男に背を向ければ死ぬと判断したからだ。

空に逃れ、再度追撃をかけることもできる。しかし、それでは先ほどの繰り返し。

「どうした? 空に逃げないのか?」

「追撃をかけているのは俺だけじゃない……俺は……あなたの足を止める」

「足を止めさせているのはこちらのほうだ。お前ほど厄介な相手はいないからな。白い竜騎士」

空を自在に飛び、遠距離からの攻撃もできる。

好き放題に動かれては撤退などできない。

どうにかして足を止めたいところだが、フィンとノーヴァを無理やり止められる相手などゴードン陣営にほとんどいなかった。

できることは注意を引き、向こうが止まるように仕向けるだけ。

その作戦は成功した。

あとは時間を稼ぐのみ。

「行くぞ!」

ギュンターはいくつものナイフをフィンに投げつけた。

フィンは横に避けるが、その進路上にもナイフが飛んでくる。

それをフィンは魔導杖で弾き、雷撃を放った。

しかし、ギュンターは軽やかな身のこなしで木に飛び乗ると姿を消した。

姿は見えない。しかし、確実にいる。

「ノーヴァ。任せたよ」

「キュー!」

竜騎士として超一流のフィンだが、地上での戦いにおいてはその技量はあまり役に立たない。

普通の兵士よりは十分強い。魔導杖を使える以上、高速で動く魔導師と変わりないからだ。しかし、相手が強者となると難しい戦いを強いられてしまう。

魔導杖が放つ魔法は強力ではあるが、珍しいわけじゃない。

ギュンターも何度か魔導師と戦ったことがある。それらと比べても威力自体は大差なかった。厄介なのは速射性。

しかし、姿を消せばその利を消せる。

不意打ちは暗殺者の得意分野。

自分の得意分野に引き込んだギュンターは、フィンの死角からナイフを投擲した。

投じたのは二本。一本は実体のあるナイフ。もう一本はその真後ろに隠れた魔法のナイフ。

咄嗟に弾いても二本目が突き刺さる。

ギュンターの得意戦法だった。

しかし、フィンは振り向くことなくそれを避けた。

正確にはフィンが避けたのではなく、ノーヴァが避けたのだ。

一瞬でその場を飛び立ち、反転する。

人から隠れることはできるし、不意もつける。

しかし、相手が飛竜となれば経験のないことだった。

ギュンターは驚き、目を見開くが、そんなギュンターにフィンは雷撃を連射する。

咄嗟に木から飛び降りたギュンターだが、空中で雷撃を右肩に食らってしまう。

「ぐぅ!!」

痛みによって一瞬、動きが鈍る。

そこを逃すフィンではない。

ノーヴァを加速させて突進してきた。

ノーヴァの鋭い爪がギュンターに迫る。

何とかそれを回避したギュンターだが、ノーヴァの突進からは逃れられない。

思いっきり弾き飛ばされて地面に叩きつけられたギュンターは、その場を動くことができなくなった。

だが、ギュンターの顔には笑みが広がっていた。

「何がおかしい?」

「おかしいさ……ここまで計画通りに行くとはな……」

「計画通り?」

「ヘンリック殿下が勝てるだなんて……俺たちは考えていなかった……所詮は借り物の配下たち……誰もヘンリック殿下のためには死なん……だから逃走プランを練っていたのさ……」

ギュンターがそう言った瞬間。

周りに控えていた暗殺者がギュンターの傍に現れる。

それと同時にギュンターとフィンの間に炎の壁ができた。

「くっ!」

フィンはその炎の壁を見て、慌てて距離を取った。

それ自体は大したことではないが、ここは山中。

炎魔法を使えばすぐに燃え広がる。

だが、すぐにフィンは異常事態に気づいた。

火が上がっているのはここだけではなかったからだ。

「まさか!?」

「早く味方に知らせにいけ……火の手が回るぞ……?」

「正気か!? 脱出できなくなるぞ!?」

フィンはいつでも空に逃げられるが、ギュンターたちは地上を進むしかない。

火の回り方次第では命はないだろう。

だが、ギュンターは嗤う。

「命などとうに捨てている……主君だけが先に逝ったのだ。後を追うのに迷いはない……!」

「くそっ!」

その目は冗談など言っていなかった。

ブラフではない。

自分たちが逃げられなくなっても、ここで追撃を阻むつもりなのだ。

それを察したフィンはすぐに戦いを放棄した。

すでにレオの部隊は山に入っている。

早く撤退しなければ山火事に飲み込まれる。しかも敵軍の大部分はまだ残っている。

ヘンリックを追うこともできるが、ヘンリックを討ったところで戦いは終わらない。

しかしレオがやられれば戦いが終わる。

フィンはレオたちのために空へ上がったのだった。

それを見送ったギュンターは、部下の暗殺者と共に山を下りる準備を始めた。

状況次第では命はない。だが、まだまだヘンリックには助けが必要だった。

ザンドラが死んだ今、ギュンターが仕えるべきはヘンリックのみ。

「行くぞ……ここで阻んだところで追撃は続く……」

痛む体を引きずりながらギュンターは撤退を開始したのだった。

山に入っていたレオの部隊は迅速に撤退し、態勢を立て直して山を迂回するルートを選択した。

その頃にはもうヘンリック軍は各将軍たちがそれぞれ部隊を率いて、撤退に入っていた。

留まれば攻撃に晒される以上、その判断は当たり前だった。

逃亡する兵も増えており、留まったところで戦えないというのもあった。

こうして城の前からヘンリック軍はいなくなったのだった。