軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

海沿いの宿で

さて、本日の宿に到着した。

「すげえいいな……」

町の中心からやや外れた海沿いの宿。だが、海が見えるからなのか、飲食店や土産屋が多くあり、町の中心と同じくらい賑わっている。

俺たちの泊まる宿は、五階建てのビルみたいな宿だ。鉄筋コンクリート……いや違う。建築は多少齧ってるが、これは木造に鉄骨で支えを入れたハイブリッドな建築方式だな。

壁が白く塗られているのは、潮風による木の腐食対策か。

駐車場もデカいし、俺らが乗ってきたような寝台馬車が何台か止まっていた。

「おっさん、チェックインしよ!!」

「ああ」

当然だが、この世界に電話やネットはない。

宿の予約システムなどは存在せず、普通に現地に行って「今日泊まります、部屋空いてますか?」と聞くしかない……けっこうな馬車が止まってるけど、部屋あるのか?

宿の一階へ。ロビー、ラウンジがあり、水着の姉ちゃんや獣人がお喋りしながらトロピカルドリンクを飲んでいる。中には太った親父や筋肉質な男もいる。

ロッソたちの後ろで、俺はアオに聞いてみた。

「な、なあ……こんな高級宿、部屋空いてるのか? 今はバカンスシーズンだろ? 宿の空きとかないんじゃ……」

夏休み、出かける時は基本的に、一か月前には宿や新幹線などの手配をする俺。今日、今、泊りたいですなんて言って泊まれるのか不安だった。

アオは首を振る。

「これはこれは、毎年ありがとうございます。『 鮮血の赤椿(スカーレット・カメリア) 』の皆さま。例年と同じお部屋を用意してございますので」

「うん。あ、もう一部屋追加でいい? あっちのおっさんの部屋ね」

「かしこまりました」

あっさり部屋が確保できた。

ポカンとしているとアオが俺の背中を叩く。

「ね、大丈夫だった」

「お、おお……お前ら、ほんとスゲェんだな」

部屋は五階。階段かと思ったら、なんとエレベーターがあった。

もちろん魔道具。一~五階までのスイッチがあり、それを押すとその階まで行ける。

「なるほど。魔道具か……エレベーターがあるなら、エスカレーターとかもありだな」

「おじさん、お仕事の顔してる」

「あ、いや……そうだな。仕事忘れないと。せっかくのバカンスだしな」

五階へ到着。

ってか、スイートルームしかねぇ部屋じゃねぇか。

「アタシら三人は同室で、おっさんは隣の個室だって。さーて、汗かいたしシャワー浴びよっと」

「ではおじさま、今日はご自由にお過ごしくださいませ」

「おじさん、晩御飯……一緒に行くなら声かけて」

「いや、俺飲むし、三人で楽しんでこいよ。掃除は明日か?」

「ええ。明日、朝食後に行きましょうか。お部屋にお迎えにあがりますので」

「じゃーねおっさん!! 飲み過ぎないように~!!」

三人は部屋に入った。

さて、俺の部屋へ。隣の部屋は個室ということだが。

「……おお!!」

すっげえ部屋だった!!

ふかふかのベッド、高級な家具、ベランダにはハンモックがあり、さらに冷蔵庫に製氷機まで。

「おいおい、この冷蔵庫と製氷機、アレキサンドライト商会の新型じゃねぇか」

氷はすでにできているし、冷蔵庫の中は果物や果実水が入っている。

俺はグラスに氷を入れ、果実水を注ぎ、ベランダに出た。

屋根があるので日陰で、海風が心地よい。トロピカルドリンクを飲み、ハンモックに寝転がる。

「……バカンス」

始まった。俺のオーシャンバカンスが、リゾートで!!

「ふ、ふふふ、ふふふふふ……なんだか笑える。スマホはあるけどネットは繋がらないし、野球中継も見れない。でも、今この状況、メチャクチャ楽しい……!!」

煙草を出し、火を着ける。

灰皿はあった。なんとココナッツを縦に割ったような特注品だ。

「さぁ~……て!! 休暇、満喫するぜ!!

こうして、俺のオーシャンリゾートでの休暇が始まるのだった。

◇◇◇◇◇◇

気持ちよくて思わず寝てしまった。

外はすっかりオレンジ色の空……ってか、すげえ。

「……うぉぉ」

ベストタイミングなのか、水平線に太陽が消える瞬間だった。

オレンジ色の空、キラキラ輝く海、水平線に消える太陽。

こんな光景、見たこと──……。

『玄徳、お前、サーフィンやってみるか?』

『そりゃいいな。じいちゃんが教えてやる』

ふと、子供の頃を思い出した。

母親だった女と離婚し、苦労した親父……そして、親父を助けたじいちゃん。

親父がバイクを買い、じいちゃんと三人で海にツーリング。オレンジ色の空を見て、親父がそんなことを言ったっけ。

「……ははっ」

そういえば、親父とじいちゃん、どっちが俺とにケツするかで喧嘩したっけ。

「…………くそっ」

俺は目元を拭う……ああもう、なんだこれ。

「……親父、じいちゃん。俺、元気にやってる。異世界でさ……親父やじいちゃんに習った技術で生活してる。じいちゃんの言う通り……結婚しないで、自分の人生を歩んでる」

親父、じいちゃん……俺、今すっごく幸せだよ。

◇◇◇◇◇◇

さて、ひとしきり感動したところで、飲みに行く。

久しぶりに一人だ。アオ曰く「この辺、治安いい」とのことなので、ソロで出歩いても大丈夫。

「おお、けっこうな屋台街って感じだな」

整備された広い一本道で、両サイドに飲食店や居酒屋が並んでいる。

道の途中の少し開けたスペースには、屋台がいくつも並んでいた。

ふむ、こういう飲食店街が近いところに別荘あると嬉しいな。

「さて、軽く飲んでからメシかな。ラーメン屋でもないかな……あるわけないか」

いつか自分でラーメン打つのもいいかな。蕎麦打ちの経験はあるからラーメン麺もなんとかなる気がする。スープは魚介ベースの塩で……味噌とか醤油あればいいんだがな。

チャーシューとかも作ったことはある。メンマは……あれ竹なんだっけ。無理かなあ。

「にゃあ」

「ん?」

考え事をしながらあるいていると、足元に猫がいた。

いや猫じゃない。ネコミミの女の子だ。俺のズボンを掴んでジッと見上げている。

「なんだなんだ、迷子か?」

「うー」

「ん、どうした? おいおい、引っ張るなって」

「にゃうう」

白い髪のネコミミ少女は、俺をぐいぐい引っ張る。

よく見ると、転んだのか服が汚れているし、穴が空いている個所もある。

長い髪の毛というか、手入れしていないだけで伸びっぱなしにも見えた。

三歳くらいかな……こんな夜に、居酒屋街で何をしてるんだ?

「わかったわかった。一緒にいってやるよ。抱っこしてやろうか?」

「にゃ」

「あれー? おっさんじゃん!!」

なんつータイミング。女の子を抱っこした瞬間、ロッソたち三人が歩いてきた。

ブランシュが首を傾げて言う。

「あらまあ、その子は?」

「いや、引っ張られてな……なんか困りごとっぽくて、ついな」

「おじさん、優しい」

「ネコミミ可愛いじゃん。獣人の子だね。で、どこ行くの?」

「にゃうー」

女の子は広場を指差した。

「ちょうどいいや。アタシらもご飯食べて帰るとこだし、一緒に行ってあげる」

「ええ、護衛任務ですわね」

「まかせて」

「まあいいか。よしきみ、名前は?」

「ユキ」

白猫の獣人、ユキか。いい名前だ。

ブランシュがハンカチを出すと、ユキの顔や汚れを拭った。

そして、ユキに案内された広場に行くと、屋台が多くならぶ広場の隅っこで声がした。

「ユキ!! 全く、離れちゃダメって言ったじゃない」

「にゃあ……」

「あ、も、申し訳ございません。お客様、ですね」

お母さんだろうか、白猫の獣人女性が頭を下げた。

「お店……?」

ロッソが言う。

女性の屋台は、正直かなりボロかった。

それに、売ってるのはサツマイモっぽい芋。形もかなり悪く、ただ焼いただけだ。

一つ百セドル。あまり売れているように見えない。

「あの、この子に言われて来たんですけど……」

「す、すみません。この子、客引きのマネをして……危ないからやめろと、何度も言ってるんですが」

「にゃ……」

ユキを母親に渡すと、甘えるように胸に顔を埋めた。

「もう……危ないことはしちゃダメでしょ?」

「……にゃ」

「客引き、って……この子、やってるの?」

ロッソが言うと、母親は「はい」と言う。

「夫に先立たれ、働けるのが私だけなので……この子もお手伝いで客引きをして、何度も蹴られそうになったりしているんですが、やめてくれなくて」

「そうだったんですの……」

「いい子なんです。本当に」

「にゃうう」

どこにでも、こういうのあるんだな。

俺たちは芋を全部買い、この日は宿に帰るのだった。

晩飯が焼き芋か……俺の部屋に来たロッソたちと食べていると。

「あれ? この芋、けっこう甘いじゃん」

「売り物にならないお芋を格安で買ってると言ってましたわね」

「……おいしい」

「確かに美味いな。料理とかできればいいんだが」

ふと、気になったことをブランシュに聞く。

「なあ、やっぱり……孤児とかいるのか?」

「いますわね。大きい国には必ず、スラム街などはありますわ。でも……ユキちゃんはまだ、お母さんがいますから……」

「……可哀想」

俺はこの国のいいところしか見ていなかったけど……やっぱり、いろいろな苦労はあるんだな。

「明日、また行くか」

「うん。おっさん、明日は掃除だからね。アタシの海底にある別荘見て驚かないでよね?」

「いや絶対に驚くと思うぞ……」

とりあえず、明日は掃除に精を出しますかね。