作品タイトル不明
独身おじさん、ウェディングプランナーはもうこりごり
「殺してくれ」
俺は、顔を押さえていた。
そりゃそうだ……俺の渾身のカラオケ、めちゃくちゃ滑ったし。
そのあとも、歌手によるソロコンサートとか奇術師のマジックとかあったけどもう耳に入ってこなかった……ううう、俺ってやつは。
すると、サンドローネが来た。
「ねえ、さっきのカラオケマイクだったかしら。仕様書ある? 雇った楽団がとても興味を示していてね。音を記憶して、それに合わせて歌う……ビジネスになりそうじゃない?」
「カラオケのことか……まあ、俺の世界にもあったぞ」
「聞かせて」
「やだ。少なくとも、今はやだ……」
「……あなた、盛大に滑ったこと気にしてるのね」
「うるせえ!!」
マイクを掴みカバンの中へ。少なくとも今は渡したくない。
気づいたが、ロッソたちがいなかった。どうやら知り合いのところでお喋りとか、バーカウンターでお酒とか飲んでるらしい。
すると、見覚えのあるツインテールが来た。
「はっはっは。ゲントク、久しぶりじゃの」
「えーと、ファルザンだっけ。いたんだ」
「失礼なやつじゃな。最初からいたに決まっておろう。結婚式……面白いイベントじゃな」
「だろ?」
すると、ケモミミチルドレンたちが俺のところに来た。
「にゃあ、おじちゃーん」
「がうう」
「きゅう」
「わううう。おじちゃん」
「おお、子供たち。うんうん、今日も可愛いな」
みんなドレス姿だ。この日のために新調したらしい。
ユキちゃん、クロハちゃん、シアちゃんは「うごきにくいー」と言っているが、リーサちゃんは嬉しいのかくるくる回って言う。
「きゅうん、おひめさまみたいなの。きれいなの」
「ははは、そりゃよかったな」
「ふふふ。いつの時代も、子供は宝じゃの」
子供たちは俺にドレスを見せに来てくれたのか、ロッソたちと喋っているテッサのほうへ行ってしまった。
「そういや、テッサは元気でやってるのか?」
「うむ。あやつは飲み込みが早い。いい魔道具技師になる」
テッサは、ユキちゃんの頭を撫でてニコニコしている。子供好きか……いい魔道具技師ってのは、子供に好かれちまうもんだ。
「あらあ~、ファルザンちゃん」
「おお、パルテノス。久しいの」
「うふふ。お久しぶり、元気にしてた?」
魔女同士の会話が始まったので俺は距離をとる……すると、会話に入れず黙っていたサンドローネもついてきた。
「ふう……少しは慣れたけど、十二星座の魔女、お二方との会話は緊張するわ」
「お前でも緊張するんだな」
「当たり前。魔女十二人が結託すれば、世界征服できる……そんな話もあるくらい強大な力を持つ方々なのよ」
え、初耳……せ、世界征服?
とりあえず聞かないことにする。するとサンドローネは言う。
「で、さっきのカラオケだったかしら。仕様書」
「お前、ぶれないな……結婚式会場でも仕事仕事って」
「ここは結婚式会場だけど、今は仕事の場所。そして今は仕事中。あなたも仕事中ってこと忘れていないわよね?」
俺のスベッたカラオケ熱唱も仕事……? それはそれで嫌すぎる。
俺は仕方なく、カラオケマイクをサンドローネに渡す。すると、シーモアたちと会話をしていたはずのリヒターがいつの間にかサンドローネの傍でマイクを受け取った。
「カラオケだったかしら……あなたの世界には何があったの?」
「カラオケボックスな。防音の部屋に入って、そこで友達とか集まってみんなで交代で歌うんだよ。そこで軽食食べたり、タンバリン鳴らしたりして……」
俺は、カラオケボックスについて説明する。
サンドローネは「なるほどね」と言い、メモを取っていたリヒターに言う。
「リヒター、王都で流行している音楽をピックアップ。貴族から庶民まで詳細な調査を開始。それと、アレキサンドライト商会お抱えの劇団に、それらの音楽を演奏できるよう指示を出して。イェランには、このカラオケマイクを複製させて」
「あ、だったら、マイクとスピーカーは独立させた方がいいな。デンモク……はないから、もう少しサイズを小さくして、歌いやすくできるかも」
「いいわね。じゃあ、明日以降、イェランとテッサをあなたの仕事場に向かわせるから、カラオケの試作機の制作をお願い」
「……少し休みたいんだが。俺、けっこう働いたし」
というか……今まさに結婚式の最中なのに、もう次のビジネスの話だ。
◇◇◇◇◇
それから、出し物が続き、結婚式も砕けた雰囲気になる。
その辺でビジネスの話とかも聞こえてきた。どうやら社交場みたいになってるようだ。
ドギーさん、べスさん夫婦やディガーさん一家も、新しい商談先ができたと喜んでいた。
そして最後、新郎新婦のあいさつで結婚式は終了……サンドローネが『アレキサンドライト商会が自信をもってお届けする、新しい結婚式の形です』と締めた。
なんでも、結婚式終了後に、貴族の方々が「やりたい」と殺到したとか。
さて、現在。
俺は職場で一人、のんびり煙草を吸っていた。
一階の作業場にある椅子に座り、たまたま近くを通りかかったへクセン、ついでにと呼んだホランドの三人で煙草休憩をしている。
「結婚式ねぇ……庶民のオレらには関係ない、って思うが、噂じゃ庶民でもやれるんだろ?」
ホランドが言うと、俺は頷く。
「ああ。互助会制度……説明めんどくさいから、アレキサンドライト商会のテキトーな店舗でパンフもらえよ。どうせ、ジェシカちゃんとかビンカちゃんのこと考えてるんだろ」
「うっせ。まあ……ジェシカがあんなドレスを着るところ、見てみたいがな」
にやにやするホランド……ちょっとキモイ。
ヘクセンはというと。
「オレぁもう関係ねぇなあ。息子夫婦は子供もいるし、自分で稼いでるから自分らでやるだろ。うちのカミさんもドレスは綺麗だっていうが、自分で着るとは言わんかったしな」
「いちおう、年代に合わせたプランもあるぞ。熟年夫婦が教会で、改めて夫婦の誓いをするみたいなのもあった気がする……奥さん喜ぶぞ?」
「……むう」
ヘクセン、こう見えて愛妻家だしな……たぶんやる。
ホランドは煙草を灰皿に押し付け、俺に「一本くれ」と煙草をねだる。断る理由もないので一本やり、マッチで火をつけて言う。
「そういやゲントク、お前また稼いだんだろ?」
「まあ、アイデア料金だけな」
パルテノスから「ありがとね~」と十億セドル振り込まれていた。あの野郎……俺への仕事の対価が十億セドルって当たり前になりつつあるのスゲー困るんだが。
パルテノスは、今は結婚式のアドバイザーとして、アレキサンドライト商会の『ウェディングプランナー』としてしばらく働くそうだ。エーデルシュタイン王国に滞在することになり、ポワソンがおびえているとかなんとかファルザンが言っていた。
まあ、エルフのスパンで言う「しばらく働く」は百年単位とからしい……俺が死んでもニコニコ顔の居乳お姉さんとして、この国でやっていそうだ。
すると、ホランドが言う。
「ゲントク、お前が来ていろいろ変わったよな」
「そうか?」
「ああ。魔道具技師業界、すげえ発展してるらしいじゃねぇか。お前の技術に魅せられて、職人希望が増えてるって聞いたぜ。お前のところ、ほんとに弟子取らねぇのか?」
「いらんいらん。俺は、俺が楽しく自由に人生を謳歌するために働いてんだ。弟子の育成とかごめんだ。自分のことで精一杯」
「かっかっか。おめぇらしいな」
ヘクセンが大笑いする。まあ、こんな気楽な会話ができるお前らといる方が、弟子といるより楽しい……とは恥ずかしいから言わない。
「少なくとも、ウェディングプランナーはこりごりだ。仕事としては楽しかったけど、やっぱ結婚とか俺には無理」
シーモア、フーシェラさんには幸せになってほしいけどな。
ユキちゃんたち子供が、小さいころからああいう結婚式を見ることができたのもいいことだと思う。あの子たちが結婚するころには、今の結婚式がスタンダードになる可能性だってあるし。
「さーて、もうデカい仕事はしらばくやらないぞ。外出もしない、書籍で言うなら短編集みたいなノリで、ショートストーリーみたいな日常を送るんだ!!」
「何言ってんだお前?」
「お前、たまに変なこと言うよな」
「うるせえ。さておっさんども……今夜どうだ? ヒロインのいない、需要のないおっさん三人組で夜の居酒屋で酒でも」
「いいね、ここ最近忙しかったからな」
「悪くねぇ。オレも店閉めたらいくぜ」
こうして、俺のウェディングプランナー体験は終わった。
デカい仕事だったが、終わればなんてことはない。
次につながるデカいフラグもなければ、新キャラ登場でハーレム候補なんてのもない!! ありきたりな日常で、オッサンたちと居酒屋で楽しく飲む日常が俺を待っている!!