軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【22】休暇

異母妹との感動の再会は割愛する。

異母妹、グラシエラはまるで生き別れた恋人と奇跡の再会をしたかのような熱量で、ベルタをラマルタ太守の館に迎え、片時もそばを離さないように姉妹で晩餐までの一日を共にした。

晩餐にはグラシエラの夫であるラマルタ新太守も合流し、三人で楽しい個人的な時間を過ごした。明日にはハロルドを含めた王家の視察の一行がやって来て、彼らと町を見て回った後にベルタも帰ることになる。

「姉さまとお会いできて良かった。二年前のお輿入れの時はバタバタしていて突然決まったでしょう?私はあの時ちょうど母方の家で行儀見習いをしていて、お輿入れを知ったのも直前で、最後のご挨拶も叶わなかった。もしこのまま一生姉さまと会えなかったら、姉さまの嫁入りを決めた父さまを恨むところだったわ」

「あなたの相手をするのはお父さまも大変だったでしょうね」

ベルタが想像するだに面倒な思いをしていると、グラシエラの夫のオラシオがげんなりした顔でしきりに頷いている。

「姫さまのご想像の通りだと思うぞ。グラシエラはまるで悲劇の主人公のように別離を嘆き悲しんだ」

ラマルタを継ぐことになったオラシオは、元はカシャの分家の出自で、ベルタのことは昔から姫さまと呼んでいた。

彼は、グラシエラのことは昔はどう呼んでいただろうか。ベルタの記憶の限り二人の接点はあまり思いつかなかった。

「それにしてもあなたたちが結婚していたことには驚いた。誰が働きかけた縁談だったの?」

新婚夫婦は、左右対称の鏡のように同じ動作で顔を見合わせた。

「特に誰がというわけでは。何とはなしにそういう流れになったというか」

「そうね。私もオラシオさまも縁談からあぶれたまま適齢期だったわ。何より姉さまに御子がお産まれになって、しばらくこちらへお帰りになりそうになかったし」

グラシエラが危うく言い出しそうなことを、オラシオが止めた。

「グラシエラ。そういう話は今の姫さまの立場上相応しくない」

彼女はあまりよくわかっていなそうな顔で頷いた。

さて楽しい時間の間中、ずっとベルタの影に控えて辛気臭い顔をした護衛の存在があった。

ベルタは一日中彼を無視して過ごしていたが、無言の主張があまりに鬱陶しいので、片付けるならさっさと片付けることにした。

一日の終わり、ベルタは侍女に就寝前の茶を支度してもらっている間に、壁際の男に話しかけた。

「何か私に言いたいことがあるなら三分だけ聞いてあげるわ」

ジョエルは言葉を選ぶように数拍迷った後、余計な前置きを止めて直球を投げてきた。

「どうかアンリが賜る処分を軽くして下さいますよう、妃殿下にお願い申し上げます」

彼の双子の片割れアンリは、今頃大河の向こうで謹慎しているだろう。こちらが視察中ということもあり、その処分は棚上げされている。

「それを決めるのは私ではない。というよりも、私がどうしてアンリ・オット―のために陛下に働きかけると思うの」

「ご無理は承知で申し上げております。妃殿下にかばっていただこうなどと厚顔なことは申しません、ただ、あのような事態でアンリの無礼を陛下が認識された以上、処分に際して妃殿下のご意向を酌まれることでしょう。お望みとあらばアンリは職を辞させ、二度と妃殿下のお目にはかからないよう当家で配慮いたします。ですからどうか、当家の爵位剥奪や本人を修道院へ送るようなご進言はご容赦くださいませんでしょうか」

三分で相手にするにはいささか重たい話題だ。

そもそもからして、ベルタはなぜジョエルが尻拭いに奔走する羽目になっているのか疑問だった。

「アンリがあそこまで増長する前に、どうしてあなたが止めなかったの?」

あまりジョエルの主張には興味を持てなかったが、気になることはあったので会話は続けた。

「アンリは確かに愚かですが、無礼を承知で申し上げれば、元は南部頭領の姫君である妃殿下に傾倒し過ぎる輩こそ、私は愚かだと感じます」

ジョエルの背後に灰色の王宮が見えた気がして、楽しい旅行気分を少し萎えさせた。

「ジョハンナ・シュルデのような恥知らずの貴族連中こそ最も愚かです。妃殿下が、この国の命運を真実憂うようなご出自ではないことを理解していません」

「そうね。三人の中では確かにあなたが一番賢い風見鶏ね」

ベルタは会話を切り上げるために、とりあえず彼の弱点を突いた。

「賢いあなたならわかると思うけれど、人妻への不毛な恋はさっさと諦めたほうが賢明よ」

ジョエルは普段通りのすまし顔で取り繕うかと思ったが、意外にもばっと顔を上げて一瞬後には顔を真っ赤に染めた。

生意気な年下を虐めている気分で、思っていたよりも強い反応にベルタは加虐心を刺激された。

「シュルデ子爵には会ったけど、あの二人は噂通りのおしどり夫婦だった。ジョハンナがただの幼馴染だった頃に捕まえられなかったのが運の尽きね。どうせ小さい頃から素直に好意を示せなかったんでしょう」

「あ、貴女に、何がわかるんです!」

彼は本当に、結構苦しい恋をしているのかもしれない。そこまで重たい気持ちが実感としては理解できないベルタにとって、ジョエルの反応は新鮮だった。

ただ、わからないなりに訳知り顔で助言をした。

「あなたたちの教義では離縁は現実的ではないのだから、無謀な願いは持たない方が身のためよ」