作品タイトル不明
第17話 雑用スキル。"整理整頓"、"料理"、"裁縫"
「はぁぁ~♡」
「ギルネ様! だ、大丈夫ですか?」
「ら、らいじょうぶ……お、思った以上に気持ちよくって……しかも、ティムにやってもらってると思うと……うっ!」
「す、すみません! すみません!」
僕の 洗濯(せんたく) スキル"手もみ洗い"を受けたギルネ様はベッドでのびてしまった。
ギルネ様の 呂律(ろれつ) も回っていない。
やっぱり、僕がやったせいみたいだ。
未熟なスキルで逆に疲れさせてしまった。
もっと精進しないと。
「も、もう大丈夫だ! はしたない所を見せたな!」
「ほ、本当にすみま――」
ぐぅぅ~
頭を下げると、僕のお腹も一緒に謝ってくれた。
僕は思わず赤面する。
そして誤魔化すようにギルネ様に提案した。
「す、少し遅い時間になってしまいましたが、朝食にいたしましょうか」
「そうだな! ティムはまだ病み上がりで大変だろう? 私が作ろう!」
「いえ、今度は僕がお作りいたします! あっ、で、でも、もちろん嫌でしたら――」
「食べるっ! 頼む、ティムの手料理を食べさせてくれっ!」
「か、かしこまりました! では恐縮ですが僕が料理をさせていただきます」
ギルネ様はとても食い気味に答えた。
きっとご自身もお腹が減っているのに僕のことを待っていてくれていたのだろう。
本当に優しいお方だ。
「あっ、そういえばギルドの食料をそのまま持って来てしまいました」
「うん? どういう事だ? ティムは何も持って来ていないと思ったが……」
「あぁ、 し(・) ま(・) っ(・) て(・) いるんです。なので食材は大量にあります。何でも作れそうですよ。ギルドには少し悪いことをしましたが……」
僕は雑用スキルの一つ、" 整理整頓(せいりせいとん) スキル"の"収納”を一部解除した。
このスキルは異空間に物を貯蔵し、いつでも取り出せるというものだ。
部屋の真ん中に大机と食材が出現し、置かれる。
その様子を見てギルネ様は口をポカンと開けた。
口を開けてしまうほどお腹が減っているのだろうか。
できるだけ早く作ってさしあげよう。
「ティム……空間を、操れるの……か?」
「これはただの雑用スキルですよ、"整理整頓スキル"で"収納"しているだけです。何が食べたいですか?」
「そ、そうか……はは、ヤバいな。ハンバーグは作れるかっ!?」
「かしこまりました! ハンバーグですね!」
僕がその場で腕まくりをすると、ギルネ様は不思議そうに聞いてきた。
「ここで作れるのか?」
「えぇ、空腹だと思いますので急いで作っちゃいますね」
「ケガをすると危ないし、そんなに 急(いそ) が――
僕は"調理スキル"から包丁を出現させる。
そして魔獣肉と玉ねぎを細かく切り刻んだ。
"調理スキル"の"加熱"で刻んだ玉ねぎを一瞬で炒める。
次にボウルを出すと、ミンチ状の魔獣肉と炒めた玉ねぎ、各種調味料を投入。
手早く手でこねて成形すると、"蒸し焼き"して完成したハンバーグをお皿に乗せた。
――なくても。って、あれっ?」
「すみません、お話の途中に……お心遣いありがとうございます! ハンバーグのソースは何か希望はありますか?」
「えっ!? もう出来てる!? は、早いな!」
「いつも1000人分作っているのでクセで早く調理してしまいました」
「ま、全く見えなかったぞ……。ソースはティムに任せる!」
「かしこまりました! 付け合せは……何か嫌いなお野菜はありますか?」
「嫌いな野菜だろうと、毒が盛られていようとティムの手料理なら喜んで食べるぞっ!」
「あはは、毒なんていれませんよ。ギルネ様にご満足いただけるようにがんばります!」
ギルネ様のご冗談に笑わせていただいた後、すぐにソースと付け合せの野菜を作り始める。
僕はハンバーグに三種類のソースをかけた。
中央にはお皿を分断するようにクリーミーなチーズソースを。
そして右側は赤ワインをベースにした濃厚なデミグラスソース。
左側はすりおろした玉ねぎをベースにし、ゆず胡椒と青じそを加えたあっさり味のソースをかけた。
付け合わせの野菜は栄養バランスを考えてジャガイモ、人参、小松菜をバターで炒めて塩胡椒を振る。
料理を完成させるとテーブルの上の料理道具に"洗浄"をかけて、余った食材と共に"収納"して片付けた。
"裁縫スキル"でテーブルクロスを作り出してテーブルを覆う。
"洗浄"を使えば必要ないんだけど、こういうのは雰囲気が大切だ。
そして、"収納"していた簡素な椅子も出して設置した。
ギルネ様のお尻が痛くないように"裁縫"でクッションも作って椅子の上に置いておく。
最後にお皿を並べて、作ったソースをハンバーグの上からかけた。
「お飲み物は何にしますか?」
「飲み物もスキルで出せるのか!?」
「いえ、すみません。僕程度のスキルでは水しか出せないようです。ただ、いくつか収納してありますので、取り出せますよ」
「み、水を出せるのも十分凄いが……じゃあ、オレンジジュースはあるか?」
「ご用意できますよ! 準備いたしますね」
僕は収納からオレンジとコップを取り出して料理スキルから 粉砕攪拌(ミキサー) を発動し、完成したオレンジジュースをコップに淹れた。
自分の分と、ギルネ様の分を注いでいく。
僕が注ぎ終えたコップを差し出すとギルネ様は感謝しながら受け取った。
「冷えてるっ! その、"整理整頓スキル"でしまった物は冷やして保存も出来るのか?」
「これは"料理スキル"と組み合わせています。冷凍調理法というものがありまして、素材によっては一度凍結させた方が味が染み込みやすくなったりするんです」
僕の説明にギルネ様は感心するように頷いた。
「そうか、料理スキルは他でも使えるんだな!」
「"洗濯スキル"も人に使ってますからね。雨の日に"脱水"とかは便利ですよ」
「ふむ、では今度ティムをバスタオルとして――いや! なんでも無い! 冷める前にいただこう!」
ギルネ様は何かを呟いた後、慌ててテーブルに着いた。
僕も向かい合って席に座る。
ちなみに、冷めてしまっても再加熱できるので安心だ。
目の前に座るギルネ様の凛とした美しい姿を見る。
そして僕は思わず呟いた。
「……成り行きとはいえ、こうして僕なんかがギルネ様と共に食事が出来る事になるなんて夢のようです」
「な、何を言っているんだ! 私だってティムと食事できる事を世界中に自慢したいくらいだぞ!」
「ギルネ様……ありがとうございます! では、いただきましょう!」
「あぁ! いただきます!」
ギルネ様は待ちきれない様子で僕が出現させたフォークとナイフを掴む。
そして、食べる前に急にピタリと動きを止めた。
「か、確認なんだが。ティム、君はこのハンバーグを素手でこねて作ったんだよな?」
「は、はい……そうですが……?」
「そうか! コレをティムが私の為にその小さな手で……よ、よし、心して食べよう」
ギルネ様は顔を赤くしてフォークを差し込んだ。