軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

70話 「謀られる者」

ツヴァイの言葉に、ジースがこらえきれないといった様子で笑みをこぼした。

「くはっ、テメェのイカレた脳みそに聞くだけ無駄だってのは知ってるがよ。なぁ、教えろよ。テメェはどっちかっつーと俺側だと思っていたがな」

「おなじ? なにが?」

ツヴァイは可愛らしい笑みを浮かべながら目を細めた。

「じゃあ、聞くがテメェ納得してんのかよ? テメェやこの俺を差し置いてそのガキが序列一位だって話だ」

「してるよ?」

「………………は?」

ジースの顔が困惑に歪む。

フィーアさんも驚いていた。

もちろん僕も驚いている。

起こった事実だけ述べるなら、ツヴァイは僕をかばった形になるのだろう。

「わたしのほうがききたいんだけどさ」

そう前置きをすると、ツヴァイはバカにするような笑みを浮かべてジースを見た。

「7位程度の雑魚が、なに勘違いしちゃってんの? そういうのさぁ~イタいんだよね。恥ずかしくて見てらんなくて」

嘲笑の色をにじませた声だった。底抜けに明るい笑みがツヴァイの顔には浮かんでいる。

「……邪魔するだけじゃ飽き足らず……吐く台詞は戯言ときたもんだ……たしかに。確認するまでもねぇ」

ジースはクク、と小さく喉を鳴らすように笑いながら、黄金の瞳をツヴァイへと向けた。

「死にてぇんだろ? テメェ」

暗がりに黄金の線が一筋浮かぶ。

これまでの中で最高の速度をもって、ジースはツヴァイに肉薄した。

絶対即死の威力をもって放たれる徒手での刺突。だが、それは空を切る。

同時に、ツヴァイはいつの間にか手にしていたナイフをジースの首筋に這わせるようにして、笑みを浮かべた。

「ほぉら? 死んじゃうよ?」

舌打ちと共に、白い首筋を迎えるようにしてあるナイフから逃れるように体を後ろに深く倒し、寸でのところで回避してみせるジース。

そのまま流れるように手を地面について後方へと飛び上がると、仕切りなおすようにしてツヴァイを鋭く睨みつけた。

ジースの白い首に赤い一筋が鮮明に伝う。

「……」

その一幕に僕は思わず息をのんだ。

あれだけの戦闘が、やり取りが、一瞬のうちに行われたのだ。

フィーアさんの忠告の意味と、幹部の高い実力を僕は今更ながら理解した。

しかし、今目の前で行われたそれは、腕試しや喧嘩なんかじゃ決してない。

「止めるべきではないでしょうか?」

僕は固まったまま動かないでいるフィーアさんにそう声をかける。

「……いいえ、ジースの矢印があなたに向かうよりは、 都(・) 合(・) が(・) い(・) い(・) 」

「しかし、あれでは……」

ただの殺し合いだ。

しかも僕自身、ただ眺めているには関わりすぎている。

「なにも心配する必要はないわ。幹部同士がやりあうなど特別珍しいことではない。けれど、あの組み合わせは正直言って 面(・) 白(・) い(・) 」

声色、表情。そこにははっきりとした興味と好奇心が浮かんでいた。

忘れていたが、彼女自身、幹部の一員なのだということを僕は再認識させられていた。

「そういやなんでかテメェとは殺りあったことがなかったな。コソコソと不意打ちの準備とはえらくビビってるじゃねぇかよ」

そう吐き捨てるように言って、ジースは笑みを浮かべながらゆらりとツヴァイへと歩みを進めた。

「なんでかって? それは自分の胸にに聞いてごらんよ。お得意の本能ってやつ? どっかで気づいてたんじゃないかなーって私は思うかな。ただまぁ、あんまり感度はよくないみたいだけど、ね」

ツヴァイはそう笑いながら言って、なぜだか僕を流し見た。

「その点わたしは感度がいいんだ。だからムカつくんだよねー」

ツヴァイは歪な笑みを浮かべると、苛立ちを隠そうとしない表情でジースを睨んだ。

「お前も、お前も、お前も、オマエモ」

ゆっくりと放たれるその言葉と同時に移り行く視線。

それはこの場にいる幹部たちに向けられていた。

そして最後に、その視線は、フィーアさんでぴたりと止まる。

「お前もだ。なんで 守(・) っ(・) て(・) い(・) る(・) 気(・) でいるのかな?」

その言葉に、フィーアさんは眉をひそめる。

「……なにを」

「すぐに分かるよ」

そう吐き捨てて、ツヴァイは再びジースへと視線を送った。

「ロイド様もこれじゃあガッカリだよね~」

ツヴァイの顔に悪戯な笑みが浮かぶ。

「そろいもそろって……不良品」

訪れた静寂にクスクスと響くツヴァイの笑い声。

それが合図になった。

ツヴァイとジース、互いの魔力がぶつかり合うようにして空間に衝撃を放つ。

吹き抜ける突風。

拮抗する赤青二つの輝きが、暗がりを一瞬にして白く明るく染め上げた。

競い合うようにして高まる二人の魔力量。その実力は伯仲している。

「フィーアさん。序列というのは能力の大小によって決められるのでしょうか?」

僕のその問いに、フィーアさんは即答した。

「ええ。その認識であっているわ。けれど奴だけは例外だ」

フィーアさんの目がジースを向く。

「奴はアイン……あなたの先代に敗れてからは自ら進んで7の数字を冠している。なぜかは知らないし、興味もないけれど」

一つの疑問が解消される。

しかし、同時に、もう一つの異常を僕は知った。

ジースが強いなんてことは、一目見たときに気づいていた。

最も警戒しなければいけないのは彼なのだと。

ではそれに伍するあの少女は――

「おらよぉぉぉぉぉ!!」

目にも止まらぬ疾走と共に、ジースの絶叫が響く。

右足でくりだしたその蹴りは、ツヴァイの二本の白い細腕が受け止めていた。

そして次の瞬間にはツヴァイが手にしたナイフが目にも止まらぬ速度で、ジースへと向かう。

「影の月序列2位……ツヴァイ。その戦闘力は本物よ」

フィーアさんの声が鼓膜を震わせる。

僕は、目の前で繰り広げられる光景に夢中だった。

一瞬のうちに互いに繰り出す必殺の一手を回避し続ける。

これが暗部なのだと、示すかのように。

「ッ……」

しかし、その均衡は傾きつつあった。

ジースの拳を両手で受け止めたツヴァイの顔が苦痛に歪む。

次々と力任せに振り下ろされる暴力の拳に、とうとうツヴァイの反応が遅れ始めた。

「…………」

はっきりとした優勢の状況。

しかし意外にもジースは無表情を顔に浮かべていた。

「テメェ……」

そして次の瞬間、永遠に続くかのように思われた攻防は突然にして終わりを迎えた。

ジースの放った蹴りがツヴァイの顔面に直撃する。

その威力を表すかのように、小さな体は衝突音と共に大きな穴となって壁を穿つ。

舞い上がる砂煙。

それを鬱陶しげに目を細めながら、ジースは無表情でツヴァイの元へと歩く。

「こんなもんかよ」

「……」

砂煙が晴れる。

僕の目は状況を鮮明にとらえた。

瓦礫を背にしたまま動かない少女の姿。

赤い血がだらりと、ツヴァイの鼻から流れおちる。

その痛々しい様子に触れることなく、黄金の瞳は見下ろすようにしてツヴァイをとらえ続けていた。

「答えろ。今のが全力か?」

「……」

言葉はなかった。だが、ツヴァイの顔に挑発するかのようなうすい笑みが浮かぶ。

「…………そうかよ。望み通り殺してやる」

ジースは狂気の笑みをその顔に浮かべた。

「…………殺せるかな?」

そしてツヴァイも。

その明らかな挑発をきっかけに、必殺の刺突が放たれる。

――それを見過ごすわけにはいかなかった。

フィーアさんの静止を振り切るようにして、僕はジースの前に躍り出る。

繰り出されたソレは必殺の威力をもって僕へとまっすぐ向かってきた。

フィーアさんを倣う様にして、ジースの右腕を掴むようにしてその一撃を止める。

目を見開くジース。

その驚きが黄金の瞳にはっきりと宿っていた。

いや、それよりも。

――小さな笑い声が鼓膜をたたく。

ジースのものではない。

フィーアさんのものでもない。

僕は後ろへと振り返る。

「ほぉら、 や(・) っ(・) ぱ(・) り(・) 」

嬉しそうに言って、ツヴァイはニッコリとほほ笑んだ。