軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

6話 「いざ女学園――前編」

例えるならそう――摘みたての果実。

まだ熟しきっていないであろうその果実から感じるのは、若さと、あどけなさ。

その爽やかで甘酸っぱい空気を、僕はこれでもかと肺に詰め込む。

「あら、騎士学園の子かしら」

「うふふ……可愛いわね」

品のあるお姉さま達が優雅に笑う。

そう。

僕は今……聖フェリス女学園の――――校門前で棒立ちしている。

「……防御魔法かな」

あと一歩が踏み出せない……!

男子禁制の女学園ではあるが、魔法騎士学園の生徒であればその限りでは無い。

それを知っていても尚、そびえ立つ壁は高く険しい。

そんな時。

「まったく、心配になってきてみれば、案の定ね」

僕の隣に静かに降り立った 女神(おさななじみ) ――アリス。

そして――。

「わぁ……綺麗な所ですね。ユノさん」

そう言って真紅の瞳を輝かせる僕の神様――アテナ。

神様の方がずっとずっと綺麗ですよ。

そんな二人に連れられて、僕はようやく女学園への潜入に成功する。

「……はれるや」

女学園の中は僕の想像を超える景色が広がっていた。

白を基調としたゆったり広々とした空間。

廊下や壁には金銀であしらわれた装飾が施されており、思わず目を閉じてしまう程、辺り一面が輝いている。

いや、目を見張るべきはそんな所ではない。

所かしこに行き交う美少女の群れ。

彼女たちが 一度(ひとたび) 動けば、華やかな香りが僕を襲う。

そんな中、二人の女生徒が僕たちに近づいてくる。

「あら、アリス様、ご機嫌麗しゅうございます」

「皆さん、アリス様がお見えになっておりますわよ」

「え、アリス様がお見えに?」

その一声でアリスに群がる、上品で優雅な美少女たち。

そして、それに負けない程の優雅さで対応する、我が幼馴染。

「ごきげんよう皆さま。お久しぶりです」

その姿はずるいくらいに様になっていた。

「あら、アリス様、そちらのお連れ様方はどなたですか?」

美少女たちの目が、一斉に僕とアテナに向けられた。

僕はドラゴンに睨まれたゴブリンのように身を固くする。

「……えっと、私の友人のユノ・アスタリオと、つい最近そのユノと契約した神、アテナ様です」

「「「「…………」」」」

過ぎていく時間が僕のライフを削っていく。

「まぁ、こちらがあの美しいと噂のアテナ様なのですね!」

「す、すごいですわ! さすがは美少女神、美しさの格が違いますわ」

「え? え?」

神様は賛辞の集中砲火をあびて可愛らしくも戸惑っている。

僕は笑顔を浮かべて、次いで見える筈の無い大空を見上げる。

これが魔法騎士学園との差なのだろう。

僕の名前がアリスの口から告げられた瞬間、この場にいる女生徒たちは一瞬、目を泳がせると、瞬時に状況を理解し、神アテナを褒めちぎった。

一度も僕は罵られなかった。これはうちの学園ではありえない事だ。

良い事の筈だ……なのに、それなのに、目からあふれ出る涙が止まらない……!

僕はここにきて自分の置かれている状況を理解した。

これはまずい。非常にまずい状況だ。

「ユ、ユノ? 私、ちょっと知り合いに会ってくるわね。もう学園内に入れたことだし、大丈夫だよね?」

アリスの気遣いが痛い。

僕は小さく頷いた。

神様は……依然として女生徒たちに囲まれている。

僕は方向転換をしてその場からいち早く脱出した。

「……情報を集めよう」

重い足取りの中、僕は心機一転、状況の改善を画策する。

より多くの女生徒と接して、まずは僕のイメージの改善に努めよう。

僕は勇気をだして、廊下の隅で優雅に微笑む女生徒二人に声をかけた。

「ごきげんよう、お嬢様方。今日は良い天気ですね」

「あら、ごきげんよう。魔法騎士学園の方ですわね?」

「もしかしたら私達と同じ一年生ではなくて?」

僕が声をかけると二人の女生徒は優雅な微笑みを携えてそう口を揃えた。

掴みはばっちり。

侮るなかれ、僕とて騎士家の三男坊だ。

「ええ。ちょっと今日はお見合いの為に情報収集に参りました」

「うふふ、殊勝な事ですわね。誰かお目当ての方が?」

「いえいえ、すれ違う人が皆美しくて見とれていた所です」

僕がそう言うと、二人は楽しそうに微笑んだ。

さて、良い雰囲気だ。切り出すなら今だろう。

「お二人はもう声をかけるお相手は決めているのですか?」

僕がそう問うと、二人は少し考えるような仕草を見せる。

「いいえ。私達も決めかねていますの」

「普通に考えるなら、アリス様一択なのですけれど、当然他の方も同じように思っている筈ですので競争率が激しいんですの」

なるほど……さすがはアリス。大人気のようだ。

「アリス……さんは確かに有名人ですもんね。じゃあ、そうだな、ユノ・アスタリオとかどうです?」

僕がそう言った瞬間、二人の美しかった顔が一瞬崩れるのを僕は見逃さなかった。

「さすがにありえませんわね。家柄は合格ですけれど、聞けばその方、とんでもない暴君だそうじゃありませんか」

「ええ。私も同意ですわ。それにアスタリオ家始まって以来のポンコツと小耳に挟んでおりますもの」

「……そ、そうですか。ははは、大変だなぁ、ユノ君は」

誰か僕をボコボコにしてくれ。記憶が消えるくらい強く。

「ねぇ、そう言えばあなたお名前は? 実は私、ちょっとあなたの事が気になってきましたの。私の名前は――」

さようなら。名も知らぬ美少女よ。僕は逝く。

はち切れんばかりの力を足に込め、僕は廊下を疾走した。