軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

60話 「生徒会室にて」

「――さて」

言って、机を挟んで向かい側に座っているロイド先輩が机に両肘をついたまま、僕へと視線をよこしてくる。

どこか鋭さを感じさせる視線に、僕は思わずその場で立ったまま唾を飲み込んだ。

新生徒会のお披露目が終わってすぐ、ロイド先輩に呼ばれて生徒会室にやってきたところまでは良いのだが……。

「…………」

まだ日の昇っている時間だというのに室内はうっすらと暗く、机の上にあるロウソクの火が、不思議な異様さを更に際立たせていた。

……この雰囲気には少し慣れてきたけどね。

「まずは、あらためておめでとう、とでも言うべきだな。ユノ・アスタリオ。これでお前は名実ともに新入生の代表と言ってなんら差し支えない存在になったわけだが……」

そう言葉にした後、ロイド先輩はどこか含みのある笑みをその顔に浮かべた。

「あらためて不思議な奴だ……というのがお前への率直な感想になる」

「不思議……ですか?」

「武勲に名高いアスタリオ家に生まれながら、おまえは無能という烙印をもって自らの名を広く知らしめてきた。名をはせる、と言い換えてもいい」

なにも間違ってはいない。

確認するようなその口ぶりに小さな違和感を覚えつつも、僕は黙って言葉の続きを待った。

「しかし、今のお前は歴史ある闘技大会の覇者、そしてこの学園において栄誉ともいうべき生徒会への加入を果たし、俺の前に立っている」

「……」

「事実、言葉だけをこうして並べれば、“不思議”といった俺の感想も理解できるはずだ」

「……それは」

元は無能であったはずの僕が、闘技大会で優勝して、生徒会に入る。

……たしかに。

体が緊張で固くなるのを自覚した。

今に至るまで僕は暗部への加入の是非を再び問われるとばかり思っていたから。

「……」

不安が一気におしよせてくる。

初めて出会ったときに、僕はロイド先輩に実力の一端はすでに見せている。

だから今、暗に問われているのは、僕の実力、そのものへの疑問。

考えてみれば、切れ者であるこの人がその謎を置き去りにしたままにするとは思えない。

だが、そう。どれだけ違和感を持たれようとも、僕は自分の意思を貫くだけだ。

「たしかに、そうですね。けれどそれは僕が女神アテナと契約をしたからです」

「……と、いうと?」

「考えてもみてください。先日の闘技大会において活躍したのは、僕を含めて神との契約を既に果たした者ばかりです」

僕とティナ、そしてマロ。

いずれも既に神との契約を済ませている。

「一生に一度とも言われている神との契約を闘技大会の前におこなう、というのは冷静に考えればリスクの高い選択です。僕らはまだ新入生で、高名な神が契約を結んでくれる可能性は決して高くない」

「……たしかに。いかに生徒会への道が 拓(ひら) けるといっても、優勝しなくては意味がない。お前の言う優位性とリスクには賛同しよう」

「そうです。だから僕は――」

「――マロ・バーン」

ロイド先輩はその名を口にすると鋭い視線で僕を見た。

「ユノ。お前と同じ新入生でありながら、奴は英雄神の一柱と契約を果たし、先の闘技大会に臨んでいる。そしてお前は奴に勝った。もとは野良神である女神と契約を果たしたお前が、だ」

心臓が早鐘を打つ。

やはりこの人は僕に対しての疑問を今、ここではっきりとさせるつもりらしい。

――『ゼウス』

僕が生まれてすぐに契約を結んだ神の名を知っていた、ロイド・メルツ。

やはり誤魔化し切れてはいなかったのだ。

「それは……」

どう返答しようか僕が頭を悩ませていた時だった。

「クク……」

突然、ロイド先輩の笑い声が沈黙をさくようにして小さく響いた。

「いや、すまない。少し遊びが過ぎたな。結論から言ってしまえばお前が優勝することも、生徒会に入ることも俺にとっては想定内でしかない。お前がそれぐらいやってのけることは初めて出会ったその時に、既に把握している。だから、唯一疑問があるとすれば――」

「……」

「ユノ・アスタリオの強さの秘密……女神アテナとの契約によって覚醒したのか……それとも」

言葉尻にしたがって小さくなっていくその言葉を僕は最後まで耳にした。

だが、ロイド先輩は言葉を続けることはせずに、代わりに小さく息を吐くと仕切りなおすようにして口の端を吊りあげた。

「だが今大切なのは、お前が俺と同じく、この世界に疑問を抱いている、という一点のみ。同じ特異点でありうるという点だ。――聞かせてもらおうか。返答を。共に深淵を覗く意思がお前にあるのかを」

一時はハラハラさせられたが、ようやく僕の予想通りの展開に着地した。

返答。つまり 暗部(影の月) への加入の是非。

あの町(カンナ) で体験し、感じた大きな疑問。

“ゼウス”という神。そして僕自身への。

そのすべてに近づけるという漠然とした予感が目の前にある。

けれど、既に僕の考えは決まっていた。

「……辞退しようと考えています」

「理由をきこうか」

「……」

正直に言って、迷いはある。

けれど僕は万能じゃない。

神様をもっともっと有名にするという目標。

そしてルナの騎士としての役割。さらにそこに生徒会としての役目も加わった。

既に僕は大切なものを……大切にしなくちゃいけないことを多く抱えている。

「暗部に入って得られるものは、ほとんどが僕自身の為のものだからです」

そうだ。僕自身への疑問なんてものは、すべてやり終えたその時にでも追い求めればいい。

「僕には目標があります。生まれて初めて達成したいって思えた大きな目標が。だからそれをまずは達成したいと、そう思っています」

僕がそう答えると、ロイド先輩は何かを考えるように瞳を閉じた。

「……なるほど。ユノ・アスタリオ。やはりお前は興味深い」

言って、ロイド先輩は閉じていた瞳を開けると再び僕の目をまっすぐに見た。

「目標、か。そう身構えずともお前の意思は尊重しよう」

「……ありがとうございます」

意外にもあっさりしたその言葉に僕は少しだけ気の抜けた感覚を味わっていた。

おかしな話だ。僕がそう願ったというのに。

「だが、そうだな。もう少し雑談にでも付き合ってくれ」

「……雑談?」

「ああ。せっかくだからな」

言ってロイド先輩は、僕――ではなく僕の後ろにある生徒会室の扉へと視線を向けて口を開いた。

「もういいぞ」

「――失礼します」

そんな、どこか聞き覚えのある女性の声と共に、閉じていた扉が開かれた。