軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

58話 「新たな力」

「あの……ユノさん」

神様のいない街からルナ邸へと帰ってきた翌日のこと。突然僕の部屋に神様がモジモジしながらやってきた。

「……神様? どうしましたか?」

扉から顔をひょっこりと出し、部屋を覗きこむようにしたまま動かない僕の神様。

真紅の瞳が僕を見つめたまま不安そうに揺れている。

「……神様?」

「あの、あの……実は……」

神様はそう言って、おずおずと室内に入ってくると何かを決心したのか僕の目をまっすぐと見つめながら口を開いた。

「……何かが……!」

「何かが……?」

「何かが……できそうなんです……!」

「な、なんだって!?」

そう言って少し興奮気味に体を前のめりにする神様。

瞬間、僕の頭の中に様々な情報があふれ始める。

闘技大会での優勝により僕、ユノ・アスタリオの評価は大幅に上昇した。たぶん。

それによって神様の知名度もきっと上昇したはずなのだ。

その結果、導き出される答えは、ただ一つ!

「神様! もしかして新たな力が……!」

「……っ!」

神様もその可能性に気づいていたのだろう。嬉しそうに顔をふにゃりと綻ばせると、少しだけ得意げな顔をして僕の目の前へとやってくる。そして――

「……いきます……!」

胸の前でぎゅっと両手を握り、やる気満々の神様。

「……ごくり」

そしてそれを固唾を飲んで見守る僕。

「……おお!」

変化はすぐに訪れた。温かな光が神様の体を包み込んでいき、心地よい風が室内に広がっていく。

この光景を見るのは初めてでは無かったが、僕は変わらぬ喜びを感じていた。

とうとうだ。待ちに待ったこの日がやってきた。神様に新たな力が宿る日が!

脳裏に浮かんで離れない不安も、恐怖も、吹き飛ばす程の達成感。

僕の歩んできた道は決して間違ってはいなかったということだ。

それから少し経って、眩いばかりに輝いていた光が次第に小さくなっていく。

この輝きが収まった頃には、きっと神様に新たな力が宿っているのだろう。

「……ッ!」

そしてその時は訪れる。神様を中心に生まれていた風が止み、僕の目の前で瞳をぎゅっと閉じたままの神様が現れた。

「「……」」

訪れたのは静寂。僕の見た感じでは神様の体に変化はない。今回はぷかぷかと浮かんだり、温かな光を出せるようになった時とは異なる種類の力なのだろうか。

「…………ユノさん」

「……はい」

神様の目がゆっくりと開いていく。

「私……とうとう……!」

真紅の瞳がぶわっと潤む。

「とうとう新たなスキルを獲得しました!」

「神様っ!」

嬉しそうに瞳を輝かせる神様の姿に思わず僕も涙腺が緩む。いや、まて、ということは既に僕の身にも新たなスキルが宿っているということだ。

こうしてはいられない!

僕はすぐさま意識を集中させて自らに宿ったスキルの正体を探ってみる。

「ど、どうですか?」

不安そうに、されどやっぱり嬉しそうにして僕を見つめる神様。

僕としてもすぐにでも新たなスキルを披露して、神様を更に喜ばせてあげたいのだが……。

ど、どこだ……!

体中から汗が噴き出してくる。どれだけ意識を集中させても、獲得したという新たなスキルが見つからない。

「ユ……ユノさん?」

まずい! 神様の体が小刻みに震えだした。今にも泣きだしそうな顔をして、瞳を更に潤ませていく。

まてまてまて。落ち着けユノ・アスタリオ。まずは、ますはスキルの名を聞いてみようじゃないか。

「か、か、神様? 実はまだスキルについての知識が乏しく、うまく扱えないんです。その……新たに獲得したというスキルの名前を教えていただけないかと思いまして」

「あ! す、すみません! 今回新たに獲得したのは【魔力増強】というスキ――」

魔 力 開 放。

瞬間、僕の身から魔力が溢れ出し、ゴゴゴゴと言う地響きと共に室内に濃厚な魔力が広がっていく。

「……す、すごい!」

瞳をキラキラと輝かせ、感動している様子の神様。まだだ。こんなものではない!

僕は更に魔力の放出を高めようと、体に力を込めた――瞬間。

「あ」

パリーンという音と共に吹き飛んでいく窓。

神様がビクリと体を震わせて吹き飛んだ窓の方を向いたまま固まっている。

どうやら少し、調子に乗り過ぎてしまったようだ。ルナから怒られるのは時間の問題だろう。しかしである。

「すごいです神様!」

言って僕は神様の両手を握る。

「……ほ、ほんとですか?」

「はい! 体からどんどん力があふれてきますよ!」

たしかに言われてみれば、なんとなくではあるが、ちょっとだけ魔力が増えたような気がしないでもないのだ。

これは間違いなく新たなスキルが宿ったということだろう! うん。

「や、やった! やりましたよユノさん!」

そう言って嬉しそうに僕の手をブンブンとする神様の姿に、思わず顔がにやけてしまう。

元々、異常な魔力量を誇る僕である。きっと感覚が麻痺しており自分では気づきにくくなっていたのだろう。

恐らくだが、僕と同じく女神アテナと契約を交わしているティナであればもっと分かりやすくスキルの獲得を実感しているはずだ。

「やりましたね神様! 二つ目のスキル、おめでとうございます!」

「あ、ありがとうございます……! これで少しでもユノさんとティナさんのお役に立てるでしょうか……!」

「もちろんですよ! 今頃ティナはあまりの喜びにむせび泣いているはずです!」

「……! ユノさん!」

「神様……!」

重なる互いの手のひら。本当に嬉しそうにして笑う神様の姿を見て僕は幸福感に包まれていた。

神様が笑っている。ただそれだけで、僕は十分だった。

「そ、それから、ユノさん」

「はい?」

突然、神様が顔を赤くしてもじもじとし始める。

「じ、実は、もう一つ、手に入れたものがあるようでして……」

「……え?」

なんということだろうか。つまりそれは、スキル【魔力増強】の他にも手に入れた力があるということだ。

「み、見ていてください!」

神様は、そう言って少し気合のはいった顔をすると、僕に背を向けるようにして後ろへと振り返る。

瞬間、さらりと揺れる白銀の髪。

やっぱり綺麗だな、なんて僕が思ったのと同時に。

「う~……!」

小さな体をぷるぷると震わせながら、小さく声を漏らす神様。

「……っ!」

その瞬間、僕は悟った。これは神様が光を発することができるようになった時と同じ状況である。

……今度はいったいどんなことをできるようになるのだろうか。

膨らむ期待。叶うならば、素敵な変化がありますように――と僕が願った瞬間だった

「えいっ!」

ポンっと突然現れる様にして神様の背中に二枚の白い翼が現れる。

「か、神様! 羽が!」

僕のその言葉に応えるように、手のひらと比べて一回り程大きな白い翼が、少しだけバサバサと動きはじめる。

そして――

「……どう、でしょうか?」

背中ごしに自信に満ちた顔をして僕を見る神様。その表情はこれまで僕が見た事の無い、いわゆるドヤ顔と呼ばれるもので。

「す……すごいです! 神様!」

言った瞬間、その喜びを表すかのように翼が更に激しくバサバサと動き出す。

それによって生まれた心地のよい優しい風が僕の頬を撫でていった。

「えへへ……」

嬉しそうに顔をふにゃりとさせる神様。

これは……すごい変化なのでは無いだろうか? 女神アテナの背中に、とうとう翼が生えたのだ!

「もしかして、飛べちゃったりするんでしょうか?」

僕がそう言った瞬間だった。

「……っ!」

神様は一瞬、体をビクリと震わせると。

「……やってみます……!」

そう言って、再び翼をはためかせ始める。

「う~!」

バサバサバサ。

小さな翼がこれまで以上に激しく動き始めた。

うん。素晴らしい風だ! 神様の優しさを表すかの如く、美しく繊細な風が僕の髪をさらさらと撫でていく。

それからもしばらくの間、顔を真っ赤にしながら翼をバサバサさせていた神様であったが……。

バサ……バサ……………バサ。

とうとう神様は動かしていた翼を止めて、体をプルプルと震わせながら僕の方をゆっくりと振り向いた。

「……ユノさん……」

真紅の瞳に大粒の涙が溜まっていく。それが目からあふれ出たと同時に、神様は小さな声で呟いた。

「……飛べません」

「――――」

あまりの衝撃に僕は息をするのを忘れて、固まってしまう。

飛べない……それはつまり、背中に生えたその翼はバサバサすることしかできないという意味で。

「そ……そんな……」

そんな……そんなの……!

「か、可愛い……!」

「え……?」

思わず漏れ出してしまった本音を隠すように僕は言う。

「何言ってるんですか! 神様はもう宙に浮かぶことができるじゃないですか!」

「っ! そ、そうでした!」

小さな翼をバサバサさせながらプカプカと浮かび始める女神アテナ。

そのあまりにも愛くるしい姿に僕の頬は緩みっぱなしである。

「ど、どうでしょうか!」

最高です。

「まさに女神って感じでとっても神々しいです!」

「ほ、本当ですか!」

そう言って嬉しそうに翼をバサバサとさせる女神アテナ。

その様子を眺めながら、僕は思った

「あの、神様」

「はい?」

「その翼、触ってみてもいいでしょうか?」

「っ……! も、もちろんです」

そう言って僕の目の前にちょこんと舞い降りた神様は、少しだけ恥ずかしそうにしながら、翼を差し出すようにして背中を向けてくる。

「……ごくり」

僕は目の前でプルプルと震える白い翼を、人差し指で優しくちょこんと触れてみた。瞬間――

「ひゃう……!」

今まで聞いた事の無い神様の声が僕の鼓膜と心臓を震わせる。

「す、すみません! なんだかくすぐったくて……」

「――――」

今度は手のひら全体で左側の翼を撫でてみる。

「……んん……!」

「――――」

心を穿つ女神コンボにより、瀕死の状態に陥った僕は、最後に不敬にも女神アテナの頭を撫でる様にして手をやった。

「……ユノさん?」

「神様…………最高です!」

言った瞬間、神様の顔にパァと明るい笑みが灯る。

「気に入っていただけたようで、なによりです!」

その素敵な笑顔を目に焼き付けながら、僕は思った。

もっと、もっとだ。もうお腹いっぱいだってなるくらい、僕が笑顔にしてみせる。

その為ならば僕は――

――もっと本気をだしてみる。