軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

21話 「真の実力」

「…………」

寝れん。いや、寝ちゃだめなんだけどさ。

左には神様、右にはルナが静かな寝息を立てて、すやすやと眠っている。

呼吸の度に上下する胸元に視線を奪われそうになりながらも、僕は必死に理性と戦っていた。

……なんてことだ……!

右を向いても左を向いてもダメじゃないか……!

……いや、上を向けばいいのか。

僕はお世辞にも機能的とは言えないボロボロの天井を見上げながら、心を空っぽにしようと努力をする。が、時おり寝返りを打つ二人の存在がやはり気になる。

それもそうだ。女の子と同じ空間で寝るなんて事、今まであっただろうか?

……そういえば姉上とはたまに……いや、でも姉上は姉上だし。

それにしても、なんで女の子ってこんなに良い匂いがするんだろうか? もしかしたら生まれながらに何かが……進化の過程で……いや、お砂糖?

僕はとうとう悟りを開いた。

「……ん?」

そんな時、影が一つ。隙間だらけの壁から僕を誘う。

僕は壁に立てかけていた槍を持つと、静かにクライムの元へと――。

「――どこへ行くの?」

僕は息を飲んだ。

恐る恐る背中越しにルナへと視線を移す。

「……少し、用事が」

僕がそう言うと、ルナは紫の瞳だけを僕へと向ける。

「……そう。なるべく早く帰ってきなさい」

ルナはそう言って瞳を閉じると、僕に背を向けるように寝返りを打った。

まじでびびってしまった。起きていたのか……。

と、いう事は、僕がルナをガン見していた事が――。

恥ずかしくなり、足早に拠点を出ると、すぐ近くの川沿いで夜空に浮かぶ満月を眺めているクライムを発見する。

……さすがはイケメンだ。月をただ眺めているだけなのに、僕は芸術的な絵画を見たような気持になった。

「ごめんクライム。待たせたかな?」

僕がそう言うと、クライムは優しく微笑んで――。

「いいや。月をね……月を、見ていたんだ」

……くそ……かっこいいぞコイツ……!

ならばと僕は憂い気な表情を作り、クライムと同じように月を見上げる。

「そうなんだ。確かに…… 今宵(こよい) のちゅきは」

やめた。

「……行こうか」

そう僕に言って歩き出したクライムの背に黙って続く。

それからしばらく川沿いを歩いていると、ピタリとクライムの足が止まった。

「ここにしよう」

クライムはそう言うと、僕から離れるように距離をとる。

「真剣で……いいかな?」

クライムは自らの腰に下げている剣を流し見ながら僕へと視線を向ける。

「構わないよ。勝敗は?」

「そうだね……敗北を認めたら、宣言する。それでどうかな?」

……つまり、敗北を認めなければ、負けはない。

僕は一つ頷くと、手にもってきた槍を構える。

それと同時に、クライムもまた腰に差していた剣を抜くと、その銀色に輝く切っ先を僕へと向けた。

「…………」

冷たい風が頬を撫でる。

きっと合図は無い。どちらかが動けば勝負は始まる。

だから僕はその前に。

「……僕は強いよ。きっと、君がこれまで見てきた誰よりも」

僕はクライムと真剣に向き合おうと思う。

きっと、そうすれば何かが変わると、そう信じて。

「……すごい自信だね。けれど何故だろう……不思議と期待してしまう僕がいる」

クライムはそう言って、鋭い視線を僕へと向けた。

………………始まる。

――クライムが動く。

素早い加速と、迷いのない踏み込み。

――だが、それでは僕には届かない。

「ッ……!」

クライムの足が止まった。

同時に僕はクライムの喉先へと突き出した槍をピタリと止めた。

「…… 一(いち) 」

僕はそれだけ呟いた。

瞬間――クライムが憤怒の表情を浮かべて再び動き出す。

僕の槍先から己が身を外し、姿勢を低くしたまま剣先を前へと突き出し――。

――また止まる。

いや、止まるしか選択肢はない。

何故なら僕の槍先は既にクライムの喉先を再び捉えている。

「 二(に) 」

……僕は知っている。僕はまだ勝ってない。

それはクライムの燃えるような瞳を見れば明らかだ。

僕はそのまま後方へ下がると、姿勢を低くし、槍先をクライムへと向ける。

今まではカウンター。そしてこれから行うのが僕の攻撃だ。

「……」

クライムは何も言わなかった。

剣を上段へと構えると、僕の動きを見逃さぬよう、気を練っている。

「魔法は使わないの?」

僕がそう聞くと、クライムは苦笑いを浮かべた。

「さぁ……どうだろうね」

「……そう」

僕はそれだけを言うと、溢れ出しそうな力を足先へと乗せ――――加速する。

「なにっ!?」

クライムの剣が空を切る。

僕は執事クロードの動きを模倣して一瞬の内にクライムの背後をとった。

「これで、三だ」

僕が背後から突き出した槍を、背中越しにクライムが睨んでいる。

……分かり切っていた事だ。

フレイム家の執事クロードと比べても、クライムは大きく劣る。

たしかに動きに無駄は無い。だが、それだけだ。

お手本のような動きでは僕の脅威にはなり得ない。

それでもこの決闘を受けたのは……たぶん……孤独が怖かったから。

「……これが……君の本当の力か……その加速は……《槍術》などでは決してない」

ガチャリという金属音を響かせながら、クライムの剣が手から離れる。

「……納得したよ。いや、それよりも君を見出したルナ様を恐ろしくも思う」

クライムはそう言うと僕の瞳をまっすぐ見つめて宣言した。

「僕の負けだ。……強いな……君は」

そのすがすがしい笑顔に僕は少しだけ胸が締め付けられた。

「……これからは力を隠さない。君はそう言っていたね」

僕が頷くと、クライムは真面目な表情をして僕へと告げる。

「……それはやめた方がいいかもしれない。はっきり言おう。君の強さは異常すぎる」

真に迫る声色だった。

だから僕は自分の考えを素直に述べる。

「……分かってるさ。それくらい」

分かってる。そんな事はとっくに分かっているんだ。

自分の持つ力が……おかしな事ぐらい。

「……だから僕は、ちょっとだけ本気を出していこうと思うんだ」

神様の為に、僕ができる事。やれる事。

それはきっと、引く程自分を強くみせる事では決してない。

「……そうだね。きっと君はそれくらいで丁度いい」

クライムはそう言って落とした剣を鞘へと納めると、再び僕の瞳を見つめる。

僕も見つめ返した。

静かに……時間が過ぎていく。

なんだろう。この胸のトキめきは……ま、まさか! 僕は――。

「――生徒会に入るといい」

クライムはそう言って静寂を切り裂いた。

「……生徒会?」

そんなものがあったのか。

「ああ。学年ごとに毎年三人だけ選ばれる。そして今年の新入生はもう既に二人が生徒会入りを果たしている」

「それってもしかして……?」

僕の頭の中に、二人の顔が浮かんだ。

というか、その内一人は――。

「アリスさんと僕だ。そして最後の一人は来月に行われる闘技大会で選ばれるそうだ」

……生徒会か。おそらく学園の顔役のような組織なのだろう。で、あればそれに入るメリットは十分に大きい。

「ありがとう。その生徒会ってやつに僕も入る事にするよ」

決定事項である。闘技大会ともなれば、僕が目立てるチャンスは十分にある。

そこで活躍さえできれば、一気に神様の名声を高める事だって可能なはずだ。

「それでクライム、その生徒会って――」

その時だった。強烈な風が僕達を襲う。

「なんだっ!?」

クライムは即座に抜剣し、風が吹いてきた森の中へと視線をやっている。

僕も同じだ。クライムと同じように風が絶え間なく吹きすさぶ森へと目をやると周囲を見渡す。

……不気味だった。

月光に照らされた木々が風を受けその巨体を左右に大きく揺らしている。

この感覚には覚えがあった。この感じは……あの女神に――。

僕がそう思考を始めた時、拠点の方角から僕達を呼ぶ声が聞こえてきた。

「――ユノー! クライムー!」

……あれは……アリス?

金色のポニーテールを揺らしながら、アリスが息を切らせて僕らの元へとやってくる。

「あんた達なにやってるの! ソレイユ先生から集合がかかったわ」

「集合? まだ合宿は――」

「スタンピードよ」

アリスが怖い顔をして僕らへとそう告げる。

「スタンピードだって!?」

クライムは声色を震わせ目を見開いた。

「本当よ。ソレイユ先生が言うには間違いなくスタンピードだそうよ」

「そんな……馬鹿な……神獣の森でスタンピードが起きるだなんて」

「私も聞いた時は信じられなかったわ。スタンピード……最初に聞いた時は、あまりの現実感の無さに頭が真っ白になったわ」

今の僕がまさにそれである。

すたんぴーど。

……分かる。分かるよ。

分かるけどたまに忘れちゃう時ってあるよね。

アリスの視線が僕へと向く。

「そういう事よ。分かった?」

「もちろんさ。そいつぁスタンピードだね」

僕はとりあえず流れに乗ってそう言うと、走り出したアリスたちの背に続いて駆けだした。

「…………」

横を走るアリスの表情がこわばっている。どうやらクライムも同じようだ。

僕は考えを改める。……状況はきっと良くはない。

……神様、ルナ。

僕は途端に神様達が心配になりアリスたちに構わず加速する。

その瞬間、僕は今更ながら思い出す。

―――― 魔軍暴走(スタンピード)

最悪と呼ばれる厄災の名を。