軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

18話 「合宿のあれこれ」

――バシャリ。

そんな水が弾ける音と共に僕の体が水の冷たさを感じ取る。

それを誤魔化すように、慣れない浮遊感に抗いながら僕は水の中を進んでいた。

すると、お目当てのものが僕の視界を横切っていく。

――お魚である。

思わず頬が緩んだ。なかなかのサイズのソレは優雅にヒレを動かし水の中を進んでいく。

僕は狙いを定めると、木を削って作った即席の槍でお魚を――。

――貫いていく!

確かな手応えを感じ僕は水面に上がると、喜びを爆発させた。

「捕ったどぉぉぉぉ!」

「おおぉぉ! 見事じゃあぁ!」

無論、僕のそれに反応する者はここにはいない。

少し楽しくてテンションが上がってしまった。なんせ生まれて初めての素潜りである。むしろ誰かが見ているのであればこんな事はしていない。

僕は槍先で未だにピチピチ跳ねている魚に止めを刺すと、川沿いの陸地に前もって作っておいた籠に魚を入れた。

「おおぉ……中々のサイズじゃのぉ、脂がのって美味そうじゃ。どれ、味見でもしてみようかの」

「はは、あんまり食べ過ぎないでくださいね?」

僕は再び水の中に体を沈め――速攻あがる。

「………………だれ?」

僕が捕った魚を物凄い勢いで食べていく一人の少女。

日焼けなのだろうか。その肌は少し褐色で健康そうな印象を僕に抱かせる。

一瞬姉上を彷彿とさせる艶のある長い黒髪。そしてその髪色と同じ色の薄いドレスが包むのはエリスと同じくらいの未発達で小さな体。

そんな少女が神秘的な黄金の瞳を幸せそうに細めながら魚を食べている。

魚を食べている。

魚を、食べているのだ。僕の魚を。しかも生で。

「あの……それ、僕のなんですが」

僕がそう言うと少女の黄金の瞳が僕を不思議そうに見つめてくる。

「そうか……ご苦労なのじゃ!」

僕は確信する。コイツはやばい奴だと。

だが、それと同時に一匹ぐらいならいいかなぁ? なんて思ったりもしていた。

大方近くの村に住んでいる子供なのだろう。

「あんまり一人で出歩くと危ないよ?」

僕がそう言うと、黒髪の少女はにこりと笑い。

「おかわ――」

――僕は水の中に飛び込んだ。

さて、今日は合同合宿一日目。僕は水の確保が容易な川辺に拠点を構えた。

今、神様とルナは木の枝と皮を組み合わせて作った即席ハウスで羽を休めている事だろう。

そんな合間に僕は食料確保の為に魚がいそうな水量の多い下流へと下り、こうして魚を捕っているという訳だ。

無論、僕がいない間は拠点の周囲に結界魔法を張り巡らせている。アリスから教わり見よう見まねで使用した魔法ではあるが、低級の魔獣程度であれば難なく退ける事ができるだろう。

「……お」

仲良く寄り添って泳ぐ魚群を発見した僕は、持っていた木の槍を上へと振り上げる。

すると激しい水しぶきを上げて、魚が大量の水と共に水上へと浮かび上がった。

「ちょっと邪道だけど……」

僕は落下地点へと移動すると槍を構えて落ちてくる魚を待つ。

スローモーションのように日の光を浴びて輝く魚たちを槍で次々と突いていき、計十二匹もの魚をゲットする。

これだけの量があれば神様もルナも満足する事だろう。

それに――。

「はい。お食べ」

僕は目を輝かせながら僕の様子を眺めていた少女へ魚を手渡す。

「おお! 待っておったぞ! あぐっ」

美味しそうにがつがつ魚を食うその様子に思わず僕は頬が緩む。

別に苦労する程の手間ではないのだ。お腹が膨れるまで付き合ってやろうじゃないか。

そう思い再び水中へと飛び込もうとした時――。

「――まぁ、こんくらいでいいじゃろう」

鈴の音を鳴らしたかのような美しい声だった。

「え?」

――瞬間猛烈な風が僕を襲う。

「えっ……ちょ……」

あまりのその勢いに僕は腕を前で交差させ、目を固く閉じる。

そしてようやく風が収まった頃には――。

――少女の姿は、跡形も無く消えていた。

「…………」

うん。

さて、そんな不思議体験をした僕は、なんだかこれ以上魚を捕る気にもなれず、残った十匹の魚を持って、神様たちが待つ拠点へと戻ってきた。

「おかえりなさいユノさん!」

僕の姿を見つけるや否や、真紅の瞳を輝かせ、小走りで僕の元へと駆け寄ってくる神様。

「ただいま神様!」

「おかえりなさいっ!」

……いいなこれ。

神様の笑顔を見ているだけで疲れが一瞬で消し飛んでいく……!

「おかえりなさい。思ったよりも早かったわね」

そう言いながら作ったあばら家の中から出てきたルナは、僕が捕ってきた魚を見て嬉しそうに微笑む。

「ただいま戻りましたお嬢様。これだけあればきっと夜までは持つかと」

「ええ。そうね」

「魔獣とかは大丈夫でしたか?」

「ええ。何も問題なかった……とは言えないかもしれないわね」

僕はその言葉にひやりとする。

「え? あの、何か問題が?」

「いえ、直接被害はなかったのだけれど、大きな獣が私達を恨めしそうに睨んでいたわ。丁度あそこあたりかしら?」

そう言ってルナは川の反対岸を指さす。

すると、ルナに続いて神様が控え目に僕へと視線を合わせた。

「あの……ユノさん。たぶんなんですけど……」

神様はそう前置くと、驚くべき事を口にする。

「「神獣?」」

僕とルナの声が重なる。

「はい……神力を感じたので……恐らくは……」

ふむ。僕の神様がそう言うのであればそうなのだろう。

それにしても神獣か……。

この森の名前にもついているくらいである。実際にいてもそんなに驚く事は無いのだが、そうだったとしても疑問が残る。

何故なら神から恨まれる筋合いなど僕らには無い筈だ。

考えられるのは住家がここら辺にある……という点だが。

僕は周囲をくまなく見渡してみた。

すると、人間であれば一人入れるサイズの洞窟を見つける。

「お嬢様、その獣はどのくらいの大きさでしたか?」

「そうね……少なくともそこらにある木々よりは大きかったしら?」

いや、でか。

「そ、そうですか」

「うふふ……まぁ、結果として何ともなかった事ですし」

そう言ってルナは僕の持っている魚へと視線を流す。

確かに。僕もそろそろ限界である。

「じゃあ、すぐに支度をいたしますのでもう少々お待ちください!」

「いいえ、それには及ばないわ」

ルナはそう言って懐から短刀を取り出すと、腕まくりを始める。

「あの……お嬢様?」

「なぁに?」

「まさかご自分で調理をなさるおつもりですか?」

僕がそう言うとルナは自信に満ち溢れた表情でこくりと頷いた。

でもルナの手料理か。なんでもそつなくこなすルナであれば問題は無いだろう。

「そうですか。分かりました。では神様僕たち――」

神様はルナと同じように腕まくりをして、やる気に満ち溢れた瞳で僕を見つめている。

「……そうですか。ではお嬢様と神様の手料理を楽しみにしております!」

僕はそう言うとひとまず調理台を築き、それから石を円状に置いて火をおこす。

その間も熱心に魚に目をやりながら楽しそうにする二人を見て、僕はこの合宿に来て良かったなと思うのであった。