軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1話 「その時は訪れる」

「おい黙ってないでなんか言えよ!」

僕が何も言わないのが気に入らないのか、マロは怒り心頭といった様子で語気を荒げる。

「そ、そうだよ。なんで無能のユノが僕達と一緒なんだ」

「アスタリオ家だからってズルして入学したに違いない!」

とうとう沈黙を貫いていた他のクラスメイト達からも不満の声が上がり始めた。

「ほぉら、皆もお前と同じ教室で授業を受けるのは嫌だってよ? ユノぉ?」

自分に同調する者が増えた事でマロはすっかり上機嫌だ。

そもそも僕はちゃんと正規の試験を合格して入学している。

実技と筆記、合計200点満点の内、120点取る事が入学の条件だと言われている中、僕は筆記100点、実技20点を取った。

だから本来はこんな誹りを受ける道理はない。

「ちょっとあんた達、黙って聞いてれば好き勝手言ってるけど、ユノはちゃんと入学試験を受けて合格しているわ!」

幼馴染のアリスが堪え切れないと言った様子で金色のポニーテールを怒りに震わせている。

アリスからもこうなる事は事前に教えてもらっていた。それどころか、泣きながら僕に入学を取りやめるよう言ってきた程だ。

それなのにこうして庇ってくれるのだから、僕は本当に素敵な幼馴染を持ったと思う。

「おいアリス、お前、噂によると入学試験トップの成績だったらしいじゃないか。いいのか? お前のその栄誉ある成績もコイツが一緒なんじゃ格が落ちるってもんだぜ?」

「あらマロ、わざわざ情報収集ご苦労様。だったらついでにユノの入学試験の結果も知っている筈よね? 無論私は知っているわ。ユノがちゃんと合格点をとった事も、あなたがギリギリで合格した事も……ね?」

おうふ……こうなったらアリスの独壇場だ。

生まれてこのかた、彼女が舌戦で負けている所を見たことが無い。

事実、マロは羞恥に顔を赤らめ、下を向いてしまっている。

だがそれもつかの間、マロは口の端を吊り上げ怪しげな笑みを浮かべた。

「おい皆、聞いたか! 公爵家の御令嬢は騎士家のユノ君にお熱らしいぜぇ? 困るよなぁ、一個人の感情で俺たちに我慢を強いるなんて」

そうマロが言った瞬間、僕に向けられていた敵意が、アリスにも向けられ始める。

だが、そんな事ではアリスは止められまい。と思ったのだが。

アリスは顔を真っ赤にして口をパクパクさせていた。

「……」

――潮時か。

僕個人だけならいくら誹られようと構わなかったが、それがアリスにも向けられるのなら話は別だ。入学は無事できたのだから僕は今日をもって退学しよう。

僕はそう覚悟を決めると、クラスメイト達にその事を告げるべく沈黙を破る。

「みんな、僕、今日をもって――」

その瞬間、教室の扉が開かれた。

「はい、席についてぇ、ホームルーム始めるぞぉ」

黒髪がボサボサで不健康そうな先生が教室に入ってきた事により、その場は一旦おさまった。

マロは僕を仕留め切れなかった事がよほど悔しいのか、先生がいるにも関わらず、舌打ちを繰り返している。

「おい、何やってるんだ。とっとと座れ」

僕は空席だったアリスの隣に座った。

「ごめんねアリス。ありがとう」

「……別にいいわよ。このくらい」

そう言ってアリスは僕に目を合わせようとせず、顔を隠すようにそっぽを向いている。

マロにからかわれてよほど恥ずかしかったようだ。

「えぇ~皆、入学おめでとう。この場にいるという事は君たちは将来を有望視された――」

「せんせぇ~どうやら来る学校を間違えている人がこの場にいるんですが~」

マロは先生の話を最後まで聞かずに手をあげてそう発言した。

貴族とは思えないその程度の低さに僕は呆れかえる。

「ん? どういう事だ?」

「ユノ君ですよ。ユノ・アスタリオ」

マロはそう言うと、僕の方を指さしながらいやらしい笑みを浮かべている。

「ユノ・アスタリオ……いや、普通にうちの生徒だが?」

「それが何かの間違いだって言ってるんです! コイツは剣も魔法もロクに使えない無能ですよ!?」

「まぁ……確かに実技試験の方は芳しく無いが、代わりに筆記試験は学校始まって以来初めての満点だ」

先生がそう言うと、教室が喧騒に包まれる。

「あの筆記試験を……満点だと……?」

点数までは知らなかったのだろう。マロは驚愕に目を見開き、力なく椅子に腰を下ろす。

「ふふん」

隣のアリスなんかは自分の事のように誇らしそうな笑みを浮かべていた。

「まぁ、そういう事だ。マロ君もじゃれあってないでユノ君を見習う様に」

そう言って話題を締めると、自らをソレイユと名乗った先生は僕達に学園のルールを伝えていく。

■卒業するまでの間、学園内では身分の効力を失う事。

■決められた場所以外での魔法の行使及び抜剣を禁止する事。

■神との契約は慎重に行う事。

大きく分けて、この三つが僕たちに伝えられた。

僕はその内、三つ目『神との契約』について考える。

神との契約は生涯に一度きりと言われている重大なイベントだ。

契約する神によって僕らの運命が決まると言っても過言ではない。

なぜなら、契約した神の力がそのまま僕らが授かる 恩恵(スキル) に直結するからだ。

だから人々はより高名な神と契約を結ぼうと躍起になる。より高度な学び舎に通おうとするのもこうした理由からだ。

その点、僕には関係の無い話だ。

何故なら僕は既に《ゼウス》と名乗る神と契約している。気楽なものである。

「先生! 質問があります! 過去に複数の神と契約した者がいると聞いたのですが、そんな事可能なのでしょうか?」

活発そうな栗色の髪をした少女が元気よくソレイユ先生に質問をする。

僕もそうだが、クラスメイト達もその事は気になるようで、ガヤガヤしていた教室は打って変わって静まり返った。

「可能だ。しかし、稀な確率だろうな。殆どの者は一度きりの契約を最後に生涯を終える事の方が多い。だから君たちも神との契約はよく考えておこなってくれ。では君たちの為に、分かりやすい例を紹介しよう」

先生はそう言うと、一度教室を出ていった。

クラスメイト達は待ちきれないといった様子。

どうやら皆はこれから何が起きるのかを知っているようだ。

僕はアリスへと視線を送る。

するとアリスは首を振り、悲しそうな顔で僕にこう告げた。

「あなたは見ない方がいいかもしれない」――と。

それから間もなくして、僕は運命の出会いを果たす事になる。