軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

147話 「思惑と」

そのベルフェゴールの声は宣言に等しかった。

高まる緊張感と共に、僕ははっきりとした場の高揚を感じ取る。

「……」

待ちに待った……そう考えることのできる者はこの場に果たしてどれだけいるのだろうか。

少なくとも、僕は違う。

――とうとう始まってしまう。

それが僕個人の正直な思いだ。

けれど、そんな感傷に浸っている時間も、権利も僕にありはしないなんてことも十分に分かってる。

なにせこれから中心となるのは、女神アスタロトに弓を引き、そして英雄神の一柱であるマルファスを屠った邪神ノア。

つまりは紛れもなく僕自身なのだから。

「……」

場を刺激しないよう静かに元の席に戻り、僕は再び思考を加速させた。

考えなければいけないことは多くある。

これからの流れと、僕が…… 僕(・) ら(・) が目指すべき話の落としどころ。

神様を守ることのできる仕組み作りと、ネムのように標的となった野良神の保護。

つまりは保険としての戦力の増強。

……いいや。もっとはっきりと言ってしまえば僕個人のわがままによる都合のいい戦力の獲得だ。

マルファスの思惑がなんにせよ、英雄神が野良神を標的にしていたという事実。そして危惧していた女神アテナにまで及んだ危機。

「……」

女神アテナが攫われず、傷つかず……。

悔しいことに英雄神マルファスの一件のように起こってしまったことを無かったことにする力は僕には無い。

思い返すだけで……怒りと情けなさでいっぱいになる。

僕の油断でアリスやティナにも危害が及んだ。

そんなことが……もう二度と起きないように。そして、起きてしまった万が一の為に。

僕にとってはその為のワルプルギスだ。

……けれど、僕にばかり都合良くはいかないことも知っている。

事実、今夜僕は選択を迫られる。

そもそものきっかけまで遡れば、暗部……いいや、ロイド先輩の望みを僕は叶える必要があるのだ。

暗部が邪神ノアの配下となること。そして――。

「……」

僕に務まるとは思えないが、主従関係を築くことは不可能じゃない。

だから問題はその次のステップだ。

そもそもなんで暗部は邪神の配下となろうとしているのか。

それはもちろんロイド先輩の意向であることと同時に、メリットがあるからだ。

神(・) と(・) の(・) 契(・) 約(・)

人生で一度きりとまで言われているその重大な儀式を、ロイド先輩は邪神ノアと 契(ちぎ) ろうとしている。

いいや、ロイド先輩だけじゃない。

ロイド先輩の兄上からの指示で未だ未契約のままという幹部もその対象だ。

つまりジースやフィーアさん。ツヴァイもその対象に含まれている。

暗部の意向によって強制されていた未契約状態の解消。

……全員ではないだろうけど、力に貪欲な幹部であれば望んだ展開であることも理解はできる。

なぜその相手として邪神を選んだのか。

ロイド先輩に何度も問いかけたそれは、もうここに至っては今更の話だ。

事実、戦力が増えるということに関しては僕も魅力に感じていることなのだから。

けれど、やはり何度考えても、結局はその結論にたどり着いてしまう。

ロイド先輩が望む『 邪(・) 神(・) ノ(・) ア(・) と(・) の(・) 契(・) 約(・) 』は履行されない。

なぜ? なんてのは今更説明するまでもない。

邪神ノア。

つまりは……僕だ。僕なのだ。決して神などではない。

ユノ・アスタリオという一人の人間の仮初の姿。

ユノ・アスタリオの姿のままでは不可能なことを可能にする存在。

姉上やルナに危害が及ばぬよう、僕がとっさに創りあげた偽りの神なのだ。

そんな人間の僕が、同じ人間であるロイド先輩たちと契約できるはずがない。

破綻しているのだ。

最終的な目的として契約を望み、配下となるべく動く暗部。

しかしその望みが叶うことは無い。

何故なら僕は……人間だから。

これがひとまずの結論になる。

じゃあ、だからすべてなかったことにしましょうって話じゃないことが、僕にとっての最大の難関だ。

戦力は欲しい。

女神アテナや、野良神を守ることのできる力が。

けれど、その報酬ともいえる暗部との……ロイド先輩が望む契約は不可能だ。

そのことに関してはポチとも何度も話し合っている。

嘘をつく……騙す。

利用するだけして、契約をしない。

僕が邪神ノアとしてだけの存在ならば、そんな卑劣な選択肢も確かにあった。

けれど、僕はユノ・アスタリオだ。

アスタリオ家の三男にして、剣聖レイ・アスタリオの弟。そして、ルナ・フレイムの騎士だ。

到底、そんな選択はできないし、したくない。

だから、決めたのだ。

可能な限りの誠意をもって助力を乞うと。

僕の言う誠意っていうのは、邪神ノアの正体の話じゃない。

それだけは絶対に騙り通す必要がある。

けれどそれ以外のすべてを、 な(・) る(・) べ(・) く(・) 正直に話すと決めている。

不完全な神であるということ。だから契約は難しいということ。

そのうえでの話し合いを望んでいるという事を。

それが今夜僕のできる最低限で――。

「……なるほど」

僕は反射的にロイド先輩に目をやった。

そんな僕に目を合わせると、ロイド先輩は薄笑う。

「ユノ。どうやら俺たちは既に試されているらしい」

「……というと?」

その言葉の真意を探ろうと僕が再び考え始めた時、ロイド先輩は目を細めて口にした。

「あれは、ノア様ではない」