軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

145話 「ブツカルモノ」

お座りしたままこれでもかと尻尾をブンブン振り回す神獣……いや、ネム。

おとなしい印象があったネムだが、尻尾があるぶん感情がとても分かりやすい。

「……」

突然の登場から間もなくしてカミラへと見せた敵意。

その原因は恐らく、カミラ自身が過去人の子を喰らったとされる逸話が原因だった……ということなのだろう。

その正義感はもちろん立派なものであることに違いは無いけれど……問題はこの状況。

「……」

黄金の瞳が僕をじっと見下ろしている。

何かを期待しているような……と感じてしまうのは、僕の気のせいだろうか?

お手、とか言えばしてくれそうな感じである。

もちろん言わないけど。

などと考えているうちに、ネムが鼻先を僕の頭の上にちょこりとのせる。

――なでろ。

と、言われている気がした僕の手は自然と神獣のふわふわな頭をなでていた。

「なんか……ユノ君…… 神獣(フェンリル) になつかれてる?」

不思議そうなツヴァイの声。

「家で狼獣を飼っているので、あの、なんというか、ツボが分かる……というか」

苦しい。

いいや、この際どうあがいても違和感はぬぐえない。

怒り心頭の伝説の神獣を押さえこんだあげく、ツヴァイの言葉の通り懐かれているようにもみえる。そんな状況だ。

フィーアさんの驚いたままの表情がすべてを物語っている。

僕にとっては、神獣の姿をしたネムの暴走を止めただけなのだが相手は伝説の神獣である。

恐らく、僕が抱いている危機感以上に異常な状況なのだろう。

幼少期、姉上と騎士ごっこをした際の自作自演に状況が少しだけ似ているだろうか。

僕が出した破壊光線を僕が止めた例のあれである。

あれを境に姉上は僕にとてもとてもやさしくなってしまった。

暴走をした神獣の姿になっているネムを止める。

怒れる神獣を、身を挺して止める。

その二つにはあまりにも大きな違いがある。主に他人に与える印象が。

「お、驚かせおって……」

どこから出してきたのか。

ドレスと同じ黒色の椅子にもたれかかるようにして座ると、腕を組んで僕らを非難げに見るカミラと。

ニヤニヤと笑いながら再び玉座へと偉そうに腰を掛けるベルフェゴール。

暗部の面々と違い、事前にネムの存在を知っている二人ではあるが。

「……」

カミラは分からないけれど、この状況そのものを楽しんでいそうなベルフェゴールの表情からしてフォローは期待できそうにない。

しかし、意外にもジースの一声によってこの場の注目は移り変わる。

「で? ペットはご登場したわけだが……」

ジースの黄金の瞳が怪しく光を放つ。

「肝心な飼い主はどこだよ?」

「……ジース」

ロイド先輩の低い声。

しかし、ジースは気圧されることなく言葉を続けた。

「もう随分待ってるぜ? 悪いが俺はまだロイドサマほど執心はしちゃいねぇんだ。それに……」

言ってその場に立ち上がると、ジースは鋭い眼光を僕らへと向ける。

「……」

いいや、違う。その視線は神獣……ネムへと向けられていた。

「……それがあの神獣ってんなら、期待外れもいいとこだ」

「どういう意味だ? ジース」

フィーアさんの怪訝そうな声と同時、風切り音が鼓膜を叩く。

「――ッ」

ジースの放ったそれはネムのすぐ横を通りすぎると、欠伸をしていたカミラに直撃した。

衝撃音と共に舞う砂煙。

そこから、赤い二つの眼光が浮かび上がる。

「……貴様」

砂煙の中から傷一つないカミラの姿が現れると同時に、場は再び緊迫感に包まれた。

ちなみに、僕は訳が分からずネムの耳をなでたまま固まってしまっている。

ジースはまるで気にしてないと言った風に言葉を続けた。

「確かに。得体の知れなさはある。それが俺にはよく分からねぇ神性だとかっていうやつなら納得もする。だが……」

心底不機嫌そうな表情で、ジースはネムを睨みつけた。

「まるで 惹(・) か(・) れ(・) ね(・) ぇ(・) 。言っとくが好き嫌いって話じゃねぇんだ」

ジースの身からあふれ出した膨大な魔力量を前に、僕は身構えた。

「……」

たぶん気のせいじゃない。

「なんつーか 戦(ヤ) りてぇって気がまるで湧かねぇってのはどういうことだ? おい。少なくともマルファスの野郎が消えた夜はそそったもんなんだがな。ありゃ俺の気のせいだったって訳か? それともなんだ? どっかのだれかさんみたいに気取られないように真の実力は隠してますってところかよ」

ゆらりと揺れるジースの身体。

僕はネムの前に立つ。

「どけよアイン。テメェとはまた次だ。分かってんだろ? この先肩並べようって相手の実力を確かめるってのは悪い判断じゃねぇはずだ」

一理ある。

だが、それは今夜を迎えるにあたって僕が取り決めた誓いの前では意味をなさない。

ただでさえ巻き込む形でネムに協力してもらっているのである。

彼女を……ネムを傷つけない。害させない。

その誓いは、今夜の僕にとっての絶対だ。

「神獣の力など、今更僕たちが試すものでもない筈です。数多の伝説がその強さを証明している。それに……ようやく話し合いの場としてまとまろうとしている時に再び混乱を生むのは得策じゃない」

「………………いい目だ。テメェそういう顔もできるんだな。だが、あいにく、自分の目で判断したい質でな」

「……」

「止めるってなんなら好きにしろ。だがそん時は死ぬ気でこい。ちと早いが俺にとっちゃ願ったり叶ったりだ。言ったろ? テメェとはいずれ本気で 戦(ヤ) るつもりだったからな」

「……」

最善じゃないことは分かってる。

言葉の通り、あとはノアの姿をしたポチを待つだけという状況の最中生まれた 歪(ひず) み。

けれど、ジースにはジースの考えがあって、僕には僕のゆずれないものがある。

「ちょ、ちょっとユノ君?」

フィーアさんの声。

「――――」

楽しそうな 悪魔(ベルフェゴール) の笑い声と、目を細めて笑うツヴァイの表情に気をとられたその隙に――ジースが 掻(・) き(・) 消(・) え(・) る(・) 。

一瞬にして眼前に迫る指先。

「……」

だが、それはもう 知(・) っ(・) て(・) い(・) る(・) 。

回避しようと僕が動き出したとき。

突風が僕らを襲った。

「……ッ」

距離をとるようにして飛び下がるジースの姿。それと――。

「……戯れは終わったか?」

青白い光として認識できるほどの膨大な魔力が空間すべてを支配する。

その男は、背中にある白い翼を大きく広げると振り返るように視線を僕へと向けて、ニヤリと笑った。

「……」

……奇しくも登場としては最高のタイミングだ。

邪神、降臨である。